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第30回 2007年7月19日

●執筆者紹介●


加藤泉
有隣堂読書推進委員。

仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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   〜桜庭一樹特集〜 《対談》
有隣堂 営業推進室・安田/有隣堂 読書推進委員・加藤
   
桜庭一樹 略歴
1999年「夜空に、満天の星」(『AD2015 隔離都市 ロンリネス・ガーディアン』と改題して刊行※現在絶版)で第1回ファミ通えんため大賞に佳作入選。
以降、 ゲームなどのノベライズと並行して、ファミ通文庫(エンターブレイン)、富士見ミステリー文庫(富士見書房)よりオリジナル小説を多数発表。
2005年に刊行した『少女には向かない職業』(東京創元社)は、初の一般向け作品。
2006年刊行した『赤朽葉家の伝説』(東京創元社)で第60回日本推理作家協会賞・長編及び連作短編集部門を受賞。
 
 
〜はじめに〜
  加藤:   先日発表された直木賞では惜しくも受賞を逃したものの、いずれ必ず直木賞を獲るだろうと言われている作家、桜庭一樹さんを今回は特集しようと思います。
そこで、有隣堂スタッフの中でも桜庭一樹ファンとして有名な安田信之さんに桜庭一樹の魅力を語っていただこうと思い、ゲストにお招きしました。
 
  安田:   どーもー、安田でーす。 さあ、桜庭一樹ですね。
桜庭さんが新宿4丁目にいるからと新宿に配属希望をしたり、新宿2丁目近くの桜庭さん行き付けの喫茶店で待ち伏せしたりして危ない眼にあったり…。
そんなことはしたことがない普通のファンの一人です。
もちろんファン歴8年なので初期の作品も含め作品はほぼコンプリートです。
 
  加藤:   桜庭一樹ファン歴8年というのはすごいですね!
 
  安田:   えへへ。 ちょっと自慢です。 というより最近売れてきてかなりうれしいです。
 

初期の桜庭一樹
  加藤:   手元に著者略歴があるのですが、桜庭一樹は1999年に「夜空に、満天の星」で第1回ファミ通えんため大賞に佳作入選しています。
その後、ゲームなどのノベライズと並行してオリジナル小説を発表しています。
 
  安田:   私が桜庭一樹を知ったのは、ラノベが今のように盛り上がる直前、どうも物語の作り手が皆コミックやゲームに流れてしまうのではと心配していた頃。
ゲーム関係からもぽつぽつと小説家が登場してきた時期の人達の最後のメンバーでした。
好きなところで言うと、中村うさぎさん、馳星周さん、と続いて出てきたのが、桜庭一樹さんでしたね。
 
  加藤:   初期の桜庭さんの印象は?
 
  安田:   デビュー当時から、けだるさの漂う中、筋を通そうとする作風は変わらないですね。
初期の頃はまだ自分を出すという点で弱いところも有りましたが、余韻の残る青春ミステリーがいい感じでしたね。
昔のゲーム好きなら覚えていますかね、あのミステリーゲーム「Eve」のノベライズや違う名前でシナリオなどもやっていましたね。 ちょっと上品な「シティーハンター」風の作品でしたっけ?
 
  加藤:   ははあ。 ゲーム素人の私にはまったく分かりませんが。
 

桜庭一樹の転機
  加藤:   大傑作と言っても過言ではない『赤朽葉家の伝説』を読んだ読者の中には、桜庭一樹がライトノベル出身ということをご存知ない方もいるかもしれません。
桜庭一樹の転機となった作品など思い当たりますか?
 
赤朽葉家の伝説・表紙画像
赤朽葉家の伝説

東京創元社
1,785円
(5%税込)
  安田:   文芸色の強い今につながる作品ですね。
強い女性主人公と取り巻く同性の友人の原点を考えると、桜庭さんも好きだという『花のあすか組』に大きな影響を受けたであろう『赤×ピンク』(ファミ通文庫※品切)が思い出させられます。
 
  加藤:   六本木の廃墟にある非合法キャットファイトクラブを舞台にした群像劇ですね。
桜庭さん自身も雑誌の取材で「苦しみながらも自分そのものを発見したこの作品で、作家として再スタートを切ったのかなという感じです」とおっしゃっています。
 
  安田:   そうですか。 確かにこのあたりから一皮向けた感じです。
流れに流されず、かと言って目立って反抗するほど馬鹿じゃないと、そんな風な孤高を保つスタイルの原形が垣間見られるのですねー。
この頃から本当に生の自分の声が反映されているなーと文章に迫力が出てきましたね。
このラインは『赤朽葉家の伝説』や『青年のための読書クラブ』(新潮社)に繋がってきますね。
 
  加藤:   多くの読者を獲得したという点で、GOSICKシリーズ※(富士見ミステリー文庫)についても触れておきたいですね。
 
  安田:   上品なゴシックロリータの風を見せながらツンデレの基本を上品に押え類似作も多く生み出した作品です。
まっすぐな少年と癖のある天才少女の探偵ミステリーです。
桜庭さんの持ち味の一つである毒をオブラートに包んだ作風で、話の重さに関わらずサクッと読めてしまうのが人気の秘密でしょうか。
「萌え」を超え「世界系」を超え次の段階、現実実現型の小説に近づいてきてますね。
 
      ※GOSICKシリーズ…『GOSICK23456』、『GOSICKs23』(富士見書房・税込567円〜693円)

大躍進の2年間
  加藤:   ここからは、『少女には向かない職業』以降の一般向け文芸書について見ていこうと思います。
この作品を出してからの大躍進がすごいですよね、本当に。
 
少女には向かない職業・表紙画像
少女には向かない職業

東京創元社
1,470円
(5%税込)


ブルースカイ・表紙画像
ブルースカイ
(ハヤカワ文庫)

早川書房・714円
(5%税込)



少女七竈と七人の可愛そうな大人・表紙画像
少女七竈と
七人の可愛そうな大人


角川書店・1,470円
(5%税込)



青年のための読書クラブ・表紙画像
青年のための読書クラブ

新潮社・1,470円
(5%税込)

 
  安田:   2005年に発表された作品ですね。
いわゆるひとつのメジャーデビューといったところでしょうか。
山口県下関沖の島で暮らす女子中学生が、友だちと一緒にアルコール中毒の義父を殺し、そこから罠にはまっていく、というストーリーです。
 
  加藤:   私が桜庭作品を初めて読んだのが、この『少女には向かない職業』です。
ライトノベル出身の作家ですよ、と版元さんに紹介されたのですが、この本を読むまではライトノベルは自分には無縁だなと思っていたんです。
でも読んでみて、ライトノベル作家の作品だからと言って読まないでいるのはすごくもったいないことなんだと、蒙[くら]きを啓かれた思いでした。
もっと言ってしまえば、"ライトノベル"という言葉自体が無意味なんじゃないかとさえ思ったくらいです。
 
  安田:   『少女には向かない職業』は実に等身大の少女達が描かれていて、悲惨なラストも何かホッとさせる物がありましたね。
理解している振りをしてその実少女達を軽蔑している一部の社会学者達等に読ませたいぐらいのできでしたね。
 
  加藤:   桜庭さんはこの後『ブルースカイ』(ハヤカワ文庫)、『少女七竈と七人の可愛そうな大人』(角川書店)を発表して着実にステップアップしています。
そして、ついに2006年に刊行した『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞を受賞します。
 
  安田:   桜庭さんの故郷・鳥取を舞台に、製鉄業で財を成した一族の盛衰を母娘三代の歴史に合わせて描いた壮大なスケールの作品です。
 
  加藤:   初めて読んだ時、なんて面白い小説なんだろうと思いました。
こうして見ると、桜庭さんの作品はけっしてリアリティのあるものではないですよね。
あり得そうもない話なのに、だからこそ、かもしれませんが、普遍性を感じさせてくれるところがすごいですね。
 
  安田:   直木賞も獲ってほしかったですけどねー。
 
  加藤:   はい、それはもう。
最新刊『青年のための読書クラブ』についてはいかがでしょう?
 
  安田:   舞台は、東京の山の手にある聖マリアナ学園という女子校です。
この由緒正しい女学校の表には出ない黒い歴史を、代々の読書クラブ部員がクラブ誌に書き残す、という設定になっていますね。
 
  加藤:   一体どこまで本気なの? と大爆笑の連続でした。
私が小学生の頃、「不良少女と呼ばれて」とか「スチュワーデス物語」などといった大映ドラマが流行っていたんですけど、あれらを見ている感覚でしたね。
 
  安田:   装丁もすごくいいですからね。
この作品でさらにファンを増やすことでしょう。
 
  加藤:   最後に、何か言い残したことはありませんか?
 
  安田:   桜庭さんのあとがきは楽しいですよ。
桜庭さん警察に連行事件や、ブルマ隊事件など、おいおいな事件が盛りだくさんです。
本を買わずとも、本を見つけたらせめてあとがきをお読みください。 毎回飽きさせません。 何てサービス精神旺盛なのでしょう。 さらに絶版のものも数多くあります。
いつか直木賞を獲って復刊の嵐になれば良いのですがとりあえず見つけたら即購入でしょう。
迷ったら即買いです。
 
  加藤:   安田さん、色々教えていただいて、今回は本当にありがとうございました!
読者の皆様、桜庭作品で小説の面白さを堪能してください!


対談・ 営業推進室 安田信之
  読書推進委員 加藤泉
構成・ 宣伝課 矢島真理子

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