桜庭一樹の転機 |
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加藤: |
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大傑作と言っても過言ではない『赤朽葉家の伝説』を読んだ読者の中には、桜庭一樹がライトノベル出身ということをご存知ない方もいるかもしれません。
桜庭一樹の転機となった作品など思い当たりますか?
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赤朽葉家の伝説
東京創元社
1,785円 (5%税込) |
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安田: |
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文芸色の強い今につながる作品ですね。
強い女性主人公と取り巻く同性の友人の原点を考えると、桜庭さんも好きだという『花のあすか組』に大きな影響を受けたであろう『赤×ピンク』(ファミ通文庫※品切)が思い出させられます。
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加藤: |
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六本木の廃墟にある非合法キャットファイトクラブを舞台にした群像劇ですね。
桜庭さん自身も雑誌の取材で「苦しみながらも自分そのものを発見したこの作品で、作家として再スタートを切ったのかなという感じです」とおっしゃっています。
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安田: |
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そうですか。
確かにこのあたりから一皮向けた感じです。
流れに流されず、かと言って目立って反抗するほど馬鹿じゃないと、そんな風な孤高を保つスタイルの原形が垣間見られるのですねー。
この頃から本当に生の自分の声が反映されているなーと文章に迫力が出てきましたね。
このラインは『赤朽葉家の伝説』や『青年のための読書クラブ』(新潮社)に繋がってきますね。
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加藤: |
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多くの読者を獲得したという点で、GOSICKシリーズ※(富士見ミステリー文庫)についても触れておきたいですね。
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安田: |
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上品なゴシックロリータの風を見せながらツンデレの基本を上品に押え類似作も多く生み出した作品です。
まっすぐな少年と癖のある天才少女の探偵ミステリーです。
桜庭さんの持ち味の一つである毒をオブラートに包んだ作風で、話の重さに関わらずサクッと読めてしまうのが人気の秘密でしょうか。
「萌え」を超え「世界系」を超え次の段階、現実実現型の小説に近づいてきてますね。
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※GOSICKシリーズ…『GOSICK・2・3・4・5・6』、『GOSICKs・2・3』(富士見書房・税込567円〜693円) |
大躍進の2年間 |
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加藤: |
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ここからは、『少女には向かない職業』以降の一般向け文芸書について見ていこうと思います。
この作品を出してからの大躍進がすごいですよね、本当に。
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少女には向かない職業
東京創元社
1,470円 (5%税込)
ブルースカイ
(ハヤカワ文庫)
早川書房・714円 (5%税込)
少女七竈と
七人の可愛そうな大人
角川書店・1,470円 (5%税込)
青年のための読書クラブ
新潮社・1,470円 (5%税込)
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安田: |
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2005年に発表された作品ですね。
いわゆるひとつのメジャーデビューといったところでしょうか。
山口県下関沖の島で暮らす女子中学生が、友だちと一緒にアルコール中毒の義父を殺し、そこから罠にはまっていく、というストーリーです。
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加藤: |
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私が桜庭作品を初めて読んだのが、この『少女には向かない職業』です。
ライトノベル出身の作家ですよ、と版元さんに紹介されたのですが、この本を読むまではライトノベルは自分には無縁だなと思っていたんです。
でも読んでみて、ライトノベル作家の作品だからと言って読まないでいるのはすごくもったいないことなんだと、蒙[くら]きを啓かれた思いでした。
もっと言ってしまえば、"ライトノベル"という言葉自体が無意味なんじゃないかとさえ思ったくらいです。
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安田: |
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『少女には向かない職業』は実に等身大の少女達が描かれていて、悲惨なラストも何かホッとさせる物がありましたね。
理解している振りをしてその実少女達を軽蔑している一部の社会学者達等に読ませたいぐらいのできでしたね。
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加藤: |
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桜庭さんはこの後『ブルースカイ』(ハヤカワ文庫)、『少女七竈と七人の可愛そうな大人』(角川書店)を発表して着実にステップアップしています。
そして、ついに2006年に刊行した『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞を受賞します。
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安田: |
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桜庭さんの故郷・鳥取を舞台に、製鉄業で財を成した一族の盛衰を母娘三代の歴史に合わせて描いた壮大なスケールの作品です。
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加藤: |
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初めて読んだ時、なんて面白い小説なんだろうと思いました。
こうして見ると、桜庭さんの作品はけっしてリアリティのあるものではないですよね。
あり得そうもない話なのに、だからこそ、かもしれませんが、普遍性を感じさせてくれるところがすごいですね。
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安田: |
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直木賞も獲ってほしかったですけどねー。
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加藤: |
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はい、それはもう。
最新刊『青年のための読書クラブ』についてはいかがでしょう?
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安田: |
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舞台は、東京の山の手にある聖マリアナ学園という女子校です。
この由緒正しい女学校の表には出ない黒い歴史を、代々の読書クラブ部員がクラブ誌に書き残す、という設定になっていますね。
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加藤: |
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一体どこまで本気なの?
と大爆笑の連続でした。
私が小学生の頃、「不良少女と呼ばれて」とか「スチュワーデス物語」などといった大映ドラマが流行っていたんですけど、あれらを見ている感覚でしたね。
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安田: |
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装丁もすごくいいですからね。
この作品でさらにファンを増やすことでしょう。
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加藤: |
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最後に、何か言い残したことはありませんか?
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安田: |
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桜庭さんのあとがきは楽しいですよ。
桜庭さん警察に連行事件や、ブルマ隊事件など、おいおいな事件が盛りだくさんです。
本を買わずとも、本を見つけたらせめてあとがきをお読みください。 毎回飽きさせません。 何てサービス精神旺盛なのでしょう。
さらに絶版のものも数多くあります。
いつか直木賞を獲って復刊の嵐になれば良いのですがとりあえず見つけたら即購入でしょう。
迷ったら即買いです。
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加藤: |
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安田さん、色々教えていただいて、今回は本当にありがとうございました!
読者の皆様、桜庭作品で小説の面白さを堪能してください!
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