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平成15年5月10日 第426号 P5 |
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目次 | |
P1 P2 P3 | ○座談会 予告されていたペリー来航 (1) (2) (3) |
P4 | ○横浜大空襲の頃 赤塚行雄 |
P5 | ○人と作品 人と作品 中村美繪と『杉村春子』 藤田昌司 |
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人と作品 |
不世出の大女優の一生を明らかにした評伝 中丸美繪と『杉村春子』 |
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ピアノが弾けるので採用された築地小劇場
「好きだったんです。もともと芝居が好きでよく見ていたんですが、女優のなかでも杉村さんが一番好きでした。杉村さんの舞台は、映画やテレビと違って華があったんです。『欲望という名の電車』なんかの、あの背中にまでにじんでいる色気にまいりました」 杉村春子は広島で芸者の子として生まれた。父は不明。幼少にして芸妓置屋、料亭などを手広く経営する商家の養女に貰われた。そこで中丸さんの取材はたちまち謎にブチ当たる。春子の生まれた年があいまいなのだ。 「平成4年に芸術祭賞を受賞したときまでは明治42年生まれになってましたが、その後、明治39年に改められています」 なぜこのような食い違いが生じたのか、本書は丹念にその謎を追っていく。そこからは生誕のあいまいさと養家の複雑な人間関係も浮き彫りされてくる。 養父母たちが芝居好きだったことから、春子も幼少から芝居小屋に親しむようになるが、高等女学校卒後は音楽家を志し、上野音楽学校を受験する。しかし2年続けて失敗し、帰郷して女学校の代用教員に。そうしたなかで、新しく創立された築地小劇場の存在を知り、その養成所に入所するのだ。 「でも杉村春子は広島ナマリがひどいので、とても舞台では使えないけど、ピアノが弾けるので、裏方ぐらいに使おうと採用されたようです」 このように女優としてのスタートは決して恵まれたものではなかったのに、やがて日本の新劇界のトップスターにまで躍り出るには、容易な道のりではなかった。加えて築地小劇場も経営が破綻、杉村は他劇団などへの客演を余儀なくされる。 文学座におけるカリスマ性を強め福田恆存との対立に そうしたなかで、昭和12年、文学座が立ち上げられるが、これは岩田豊雄(獅子文六)、久保田万太郎、岸田國士の3人が当時のスター田村秋子、友田恭助のために創立したもので、ここに杉村春子も加えられる。 やがて同座の中核スターとなり、「女の一生」947回、「華岡青洲の妻」634回、「欲望という名の電車」594回、「ふるあめりかに袖はぬらさじ」365回、「華々しき一族」309回・・・と日本演劇史上例をみないロングランの主役をこなすことになるのである。 しかしこういう経過をたどりながら、杉村春子が一座におけるカリスマ性を強めていったことも事実だった。それがやがて福田恆存との対立、文学座分裂を招来することになるのだ。 〈福田恆存は杉村を「悪い女」だと思ったわけではないという。むしろそれどころか文学座のことを一番純粋に考えている人間だとすら感じていた。しかし杉村には論理がない。単にわがままを押し通しているようにしか感じられないし、それがむしろ文学座のためだと思っている。・・・・・・〉 こうして文学座は分裂し、福田恆存を中心に劇団「雲」が結成されるのだ。このへんの経緯は演劇界裏面史としても興味深い。 また三島由紀夫の「喜びの琴」公演中止事件も詳細に書かれていて、迫真的だ。分裂後、三島に依頼した台本「喜びの琴」は、文学座が再生のため正月公演として予定したもので、杉村は当然舞台にかけるものと考えていたが、その反共思想のあまりの強烈さゆえに劇団員の反対に遭い、中止となったものだ。 「女優にとって、夫は足かせ、子供は首かせ」といっていた杉村春子だが、しかし恋多き人生ではあった。無名時代に医者の卵・長広岸郎と結婚し、長広が結核で倒れると若い劇作家森本薫と不倫の恋に陥り、森本が早逝するとGHQの二世と深い仲になり、その恋が終わると間髪をおかず若い医師と結ばれる。 杉村春子の女優人生にとって、恋の情熱は欠かすことのできないエネルギー源だったのだという。とりわけ森本薫が彼女のために書いた「女の一生」は、終生、至宝のものとなった。それだけに杉村春子は毀誉褒貶(きょほうへん)のはなはだしい女優だったという。福田恆存は「かかわった男はみんな早死にしちまうんだよ」と言って笑ったという。その福田恆存ももうこの世にいないが。 中丸美繪 著 『杉村春子』 文藝春秋 2,625円(5%税込) ISBN 4163595309 (藤田昌司)
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