![]() |
■『有鄰』最新号 | ■『有鄰』バックナンバーインデックス |
平成14年7月10日 第416号 P5 |
|
|
目次 | |
P1 | ○明治の新聞にみる妖怪 湯本豪一 |
P2 P3 P4 | ○座談会 福富太郎−私の絵画コレクション (1) (2) (3) |
P5 | ○人と作品 北原亞以子と『妖恋』 藤田昌司 |
|
人と作品 |
民話の視点で人間の内奥を透視した現代小説 北原亞以子と『妖恋』 |
|
永遠に変わらざる人間の業く
「雪女」は冷たい雪の精といわれる伝説中の妖女に仮託して展開される。主人公は雪深い北陸の山あいの小さな温泉場で喫茶店のアルバイトをして暮らす若者と、レイコという女のコンビ。 若者は日本での生活に絶望して大学を中退、人魚姫に一目会いたくてデンマークを訪ね、そこでレイコと知り合った。レイコは失恋中だった。二人はロスキレという小都市が気に入り、近い将来二人でこの町に住もうと約束する。 そして帰国後、その夢を実現させるため、東京の下町で銀行の現金輸送車を二人で襲い、首尾よく七千四百万円の大金を手にする。そして、そのほとぼりが冷めるまで、北陸の町に身をひそめているのだ。 だが、それから先が計画どおりにはいかなかった。レイコの心が男から離れていくのだ。人魚姫の場合は裏切ったのは王子だが、この場合、裏切ったのは女。しかもかの女は奪ったカネの半分を分け前として要求する。男の内部に次第に殺意が高まってくる……。 〈僕は足許に落ちていた石でレイコの頭を殴り、倒れた彼女の首を手で押えて息をとめた〉。だが男も生き延びることができなかった。雪の中で白い影のような女が近づいてくる。「キスして」。白い影が肩に触れる。熱(あち)——。だがそれはとび上がるほど冷たい感触だった。白い影にくるまれて男は——。「雪女は男を殺すのです。私はここで女の本性みたいなものを伝えたかったのです」 北原さんはこの作品を書くためにデンマークへ行って人魚姫に会い、ロスキレの町も訪ねたというから、相当な念の入れようだ。 現代の男女の業を仮託して描く「道成寺」 もう一篇、「道成寺」は、安珍(あんちん)・清姫(きよひめ)の悲恋物語として知られているが、作者はこの物語に現代の男女の業を仮託して描いている。
(藤田昌司)
|
『有鄰』 郵送購読のおすすめ 1年分の購読料は500円(8%税込)です。有隣堂各店のサービスコーナーでお申込みいただくか、または切手で〒244-8585 横浜市戸塚区品濃町881-16 有隣堂出版部までお送りください。住所・氏名にはふりがなを記入して下さい。 |