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平成17年3月10日 第448号 P5 |
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○座談会 | P1 | 中華料理と横浜中華街 (1)
(2) (3) /林康弘/伊藤泉美/藤田昌司/松信裕 |
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○特集 | P4 | 伝えたい日本古典文学の魅力 ツベタナ・クリステワ | |
○人と作品 | P5 | 福井晴敏と『6ステイン』 | |
○有鄰らいぶらりい | P5 | 北原保雄編 『問題な日本語』/阿部和重著 『グランド・フィナーレ』/桐野夏生著 『白蛇教異端審問』/近藤勝重著 『「ウケる」話力』 | |
○類書紹介 | P6 | 「京都議定書」・・・地球温暖化防止のため、温室効果ガスの排出削減を世界に義務づける。 |
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人と作品 |
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工作員を描いたアクションサスペンス 福井晴敏と『6ステイン』 |
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福井晴敏さん |
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6編を収録した初の中短編集 |
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映画「ローレライ」の公開を前に、福井晴敏さんの原作長編『終戦のローレライ ※』(講談社)が、全4巻で文庫化された。
福井さん=大長編作家の印象があるが、初の中短編集『6(シックス)ステイン』で、短編も書ける実力をみせた。
「登場人物の群像それぞれの動きを細かく追う長編と比べて、短編は、ある人物に寄り添い、その人物が何色になるかをみていく媒体なんですね。 長編用の素材を入れた冷蔵庫を開け、あり合わせの材料でジャジャッと炒めた炒飯みたいなものですが、書く枚数が少なくても費やす労力は長編と同じ。 書き上げたときは、精神的に相当削られた感じがあります。」 六編を収録。 「市ヶ谷」と呼ばれる秘匿された組織、防衛庁情報局で働き、歴史に何がしかの染み(ステイン)を残した人々を描いている。 子供をかばって元工作員が敵弾の中を走る「いまできる最善のこと」、旧ソ連の機密を握って死んだ男とその妻との愛情「畳算」、狙撃対象を待つ老運転手と若いガンナー(狙撃手)のやりとり「920を待ちながら」など、危地に身をさらす人々の思いを、抑制の利いた文章で書いた。 「なぜ国を守らなくちゃならないの? というところに登場人物たちは立っている。 ある人物に寄り添って心の動きを追うと、大義や使命感よりも、身の回りに命がけで守りたいものがあるために彼らが決断し、行動することがみえてくる。 極限状態におかれた人が、どう行動するか。 工作員を描いたアクションサスペンスですが、彼らの話は、われわれ一人ひとりに置き換えられる話だと伝えたかった。」 昭和43年、東京都生まれ。 千葉商科大学中退。 警備会社に入り、「たまらなく暇で、お金をかけずに長くできる遊びが小説だった。」と、20代半ばから書き始めた。 処女作から大長編で、原稿用紙5,000枚を書いた。 2作目を1,500枚ほど書いたところで中断し、3作目の『川の深さは』を江戸川乱歩賞に応募し、平成9年、最終候補に残る。 翌10年、『Twelve Y.O.』で江戸川乱歩賞を受賞。 11年刊の『亡国のイージス ※』で大藪春彦賞、日本冒険小説協会大賞、日本推理作家協会賞をトリプル受賞し、人気作家になった。 「元々あほな学生で、プロの作家になる気持ちはなかった。 自衛隊を小説の題材にして調べ始め、国防の現実を知って驚愕しました。 民主主義国家の国民であれば、最低限知ってなければいけないことを、これほどまでに知らなかった−という驚きは、本当に大きかった。
外国が攻めてきたらどうするか、俺たちは何も教わっていない。 これは相当異常なことです。」 |
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より切実なテーマになった戦争を考えるきっかけに |
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6つの短編は、前世紀末から今世紀初めにかけて書かれたが、「戦争」はその間、日本人にとって、より切実なテーマになった。
1990年代後半、北朝鮮による日本人拉致がはっきりと明るみに出た。 米中枢同時テロ事件、イラク戦争など、国家間、民族間、宗教観の紛争が続く。
「"なってしまった"という感じですね。 戦争というテーマが切実でない方が本当はいいんだと思いながら、うかつなことが書けない分、やりがいはある。 戦争は、非常に複雑でわかりにくい力学から起きてしまう。 アニメ『機動戦士ガンダム』で知られる富野由悠季さんの影響を受けましたが、どういう時代を経て今こうなのか、万人に一人でも考えるきっかけになるものを小説でやってみたいと思いました。 自分なりの意見を持たないと、過激なことを言う人にすぐ踊らされてしまう。 考えるきっかけになる話を小説で書き、若い人から縁遠くなっている小説の世界に新しい血を入れ、リストラクションしたい思いがあった。」 3月5日、映画「ローレライ」が公開。 続いて、6月に「戦国自衛隊1549 ※」、夏に「亡国のイージス」の映画公開が控えている。 原作が1年に3本も映画化、公開されるのは、極めて珍しい。 「俺の小説は、すごく映画化しにくいはず。 一枚ずつぺージを繰らせるために、小説ならではの仕掛けを大量に取り入れているからです。 工夫を凝らした長編で勝負し、小説という媒体を生き残らせることが本来の仕事だから、これからも、映画化は到底無理と思われるようなものを手加減せずに書き、それを押さえ込むように映画化してもらえたら嬉しいですね。
本にまとめたら、短編にも可能性があると知った。 短編も探っていきたい。」 『終戦のローレライ 上・下』 (B6判) 講談社 上:1,785円(5%税込)/下:1,995円(5%税込) 『亡国のイージス 上・下』 (文庫) 講談社 上/下:各730円(5%税込) 『亡国のイージス』 (B6判) 講談社 2,415円(5%税込) 『戦国自衛隊1549』 (A5判) 角川書店 1785円(5%税込)
(C)
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有鄰らいぶらりい |
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北原保雄 編 『問題な日本語』 大修館書店 840円(5%税込) |
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おかしな日本語が流行している一方で、日本語の本はよく出て、よく売れる。 「きもい」だの「うざい」だの、それこそ"うざい"言葉を喋っていた若者が社会に出てあわてて勉強するのだろうか。
しかし、他に何も注文してないのに「コーヒーのほう、お持ちしました。」などの"ほうほう族"は、マニュアルに従っているともいうから、教える大人も問題なのだろう。 「こちら和風セットになります。」も、おかしな言い方でいまでも和風セットなのに、さらに和風に化けるのか、と思ってしまう。 「私的[わたしてき]」など「的」の乱用なども含め、よく婉曲表現という言葉が使われるが、「コーヒーです(ございます)。」と言うと、失礼になると誰が思うのか。 失礼といえば、「私って…じゃあないですか。」などのほうがよほど押し付けがましく無礼で、お前のことなど知らんわい、と言いたくなる。 『明鏡国語辞典 ※』の編者たちが作ったこの本、こうした言葉を槍玉にあげる一方で、言葉は変化することを前提に認めるべきは認める、という比較的、寛容な立場を取った本である。
たとえば、「猫に餌をあげる」などは「やる」の謙譲語から、たんなる美化語になっているので、認められるという。 ちなみに表題の「問題な」は、もちろん「問題の」間違い表現である。
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阿部和重 著 『グランド・フィナーレ』 講談社 1,470円(5%税込) |
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このほど第132回芥川賞を受賞した作品だ。 主人公の「わたし」は団塊の世代に属する男で、妻子がいたが、家庭内暴力により調停離婚させられ、愛娘との接触も禁じられている。 娘に対しては異常なほどの愛情を持っているが、じつは、この男には少女の裸体を撮影する癖があり、自分の娘もその対象としていたことが露見し、妻と喧嘩になり、家庭内暴力に発展して離婚に追いやられたのだ。 娘の8歳の誕生日、雨の中に佇んで、その姿を一目見ようとしながら、望みを果たせないありさまは、身から出た錆とはいえ、あわれを誘う。 後年、場面が一転する。 教育映画のプロデュースにかかわっていたわたしは、職も失い、東北のひなびた町の生家に戻り、家業の文房具店を手伝いながら暮らしているが、友人のすすめで、小学校六年の女児に演劇を教えることになる。 2人の仲のよい少女がいるが、片方が家庭の事情で転居せざるを得なくなったので、別れの記念に子供クラブで芝居をやりたいという切ない望みだ。 情にほだされて引き受けたものの、そこでまた、意外な事態に……。 キメの細かい文体で最後まで読み手を引きつけていく、あざといほどのテクニシャンだ。 |
桐野夏生 著 『白蛇教異端審問』 文藝春秋 1,450円(5%税込) |
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著者のコラム、エッセー、書評・映画評などを収録した1冊だが、冒頭のコラム「女の文句」に、目のさめるような衝撃を覚えた。 大人たちはおしなべて、人生諦めが肝心と肩をすぼめていることが多い中で、<文句は社会の活性化に役立つらしい。 男は体面や面子[めんつ]を乗り越えられない。 だったら文句は女に任せてくれ、と声を上げようではないか>と提言しているのだ。 その桐野流提言を、文学の世界で展開したのが、表題の「白蛇教異端審問」だ。 著者はまず、<矢でも鉄砲でも飛んでこい/胸くその悪い男や女の前に/芙美子さんの腸[はらわた]を見せてやりたい>という林芙美子の詩の一節を冒頭に引用し、これが著者の信じる"小説教"の教えだという。 この"信徒"の立場で噛みついているのが、この長編エッセーだ。 代表作『柔らかな頬 ※』を『新潮45』が無署名で「読まずにすませるベストセラー」として取り上げ、宗教弾圧と感じられると反撃しているのだ。 文壇では普通、自分の気に入らない批評は"無視"することが常識だが、これに徹頭徹尾反撃することで、著者の内面の文学観がくまなく開示されている。
大いに結構なことだ。 |
近藤勝重 著 『「ウケる」話力』 三笠書房 1,365円(5%税込) |
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「ラジオイミダス」などの番組で"話すコラムニスト"として有名な著者が明かす話のコツ。 "話材"が勝負だと著者の説くとおり、本書には話材が満載されているので、最初から最後まで、どのページからつまみ食いしても、大いに役立つ。 表題でいうように、「ウケる話力」とはどんなものか。 体験を踏まえ、博引旁証[はくいんぼうしょう]的に話をすすめるわけだが、第1章にいわく、「話は『ネタ』が勝負です」。 ただし、ウケる話は「笑える話」だけではなく、まずは、だれもが思いあたる話でグッと引き込むのがコツだという。 話がうまい人ほど失敗談がうまいというのも、共感させられる。 著者は週刊誌の編集長も勤めた経験で、「だれもが知っている有名人の、だれも知らないネタ」を取り上げれば、売り上げは抜群に伸びたという。 「話し下手」とあきらめている人が、これをやったら、必ず相手が引き込まれるというネタも紹介されている。 その一つは、自分の驚きの体験だ。
その意味では、往生際の話(不謹慎だが)なども、大いにモテる話材である。 ウケるネタを収集し、脳に蓄積しておくコツについても披瀝している点など、今からでも大いに役に立つ。 (K・F) |
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