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第7回 2006年8月10日 |
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〜今年必読の1冊!〜 角田光代 『夜をゆく飛行機』 |
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私事で恐縮だが、私は3人きょうだいの末っ子だ。 しかも両親が年を取ってから生まれた子供なので、上の兄とは10歳、下の兄とは8歳、離れている。 かなりの確率で、自分が両親と兄達を看取ることになるのだろうな、とだいぶ前から覚悟している。 なぜこのような話をするかと言うと、今回ご紹介する角田光代の新刊『夜をゆく飛行機』に次のようなエピソードがあるからだ。 主人公の里々子[りりこ]が小学生だった頃に家族でプールに行った思い出がある。 里々子が泳いでいる間に、家族は彼女の存在に気付かずに帰っていってしまう。 ゆっくりと遠ざかっていく家族を、追いかけることもせずぼうっと眺めている里々子。 その姿が、いつか家族を見送る自分に重なるように思えてならなかった。 本書の舞台は、酒店を営む谷島家。 次女の寿子[ことこ]が家族をモデルにして書いた小説が新人文学賞を受賞するところから、本書は始まる。 谷島一家のやりとりがユーモアに満ちていて、くすくす笑いながら読み進めることができるのだが、伯母の死や祖母の入院を通じて「ひょっとしたら生きていくということは、どんどん何かをなくしていくことかもしれない」と里々子は強く意識するようになる。 前々から思っていたが、角田光代の描く「日常」はいとおしい。 本書のタイトルは、夜になると物干し台から里々子が見上げる、飛行機の明かりが由来となっている。 |
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文・読書推進委員 加藤泉 構成・宣伝課 矢島真理子 |
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