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第32回 2007年8月16日

●執筆者紹介●


加藤泉
有隣堂読書推進委員。

仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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★暑い夏こそ熱い本を!
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  〜暑い夏こそ熱い本を! Part2〜

例年以上に暑さが厳しいと感じられる今年の夏、早くも夏バテの方もおられることだろう。
今回は、そんなあなたに喝を入れてくれるような熱い作品を、特別に5作ご紹介しようと思う。

 

 まず初めに、高野秀行『怪獣記』を。
「本の泉」第5回でも高野秀行をご紹介したが、夏にぴったりの熱い作家と言えばこの人だ。
高野作品未体験の方のためにご説明しておくと、高野氏はとにかくUMA(未確認不思議動物)が大好き。
大学探検部在籍中にコンゴに謎の怪獣「ムベンベ」を探しに行ったのを皮切りに(詳しくは『幻獣ムベンベを追え』を)、インドの怪魚「ウモッカ」、ベトナムの猿人「フイハイ」など、未知生物を探すことに命を賭けているような人だ。

新刊『怪獣記』は、トルコ共和国のワン湖に生息しているという、謎の巨大水棲動物「ジャナワール」の探検記だ。
講談社のカメラマン、通訳の大学院生、現地人のドライバーとガイドを引き連れ、「日本から?ジャナワールを探しに?本気で!?」と湖岸の村人たちにげらげら笑われながらもインタビューを続ける道程は、まさに珍道中という言葉がぴったり。
ジャナワール見たさに高野氏が幼児用ゴムボートで湖に繰り出す最後の場面は、爆笑を通り越して尊敬の念すら沸いてくる。
UMAに興味のない方でも、○○バカと呼ばれる生き方に憧れる人は、この本を読んだらきっと胸が熱くなるだろう。
 
   
怪獣記・表紙画像
怪獣記


高野秀行:著
講談社・1,575円
  

 次に、大御所作家の2作をご紹介。
宮部みゆきの新刊『楽園 ()』は、上下巻合わせて770ページの長編。
6年前の話題作『模倣犯 (12345)』の登場人物(前畑滋子)を主人公に据えた作品だが、『模倣犯』を読んでいなくても大丈夫。
読み始めたら寝ることも食べることも忘れてしまう、恐怖のノンストップ・ミステリーだ。

フリーライターをしている前畑滋子は、交通事故で死んだ息子に予知能力があったかどうか調べてほしいと、ある中年女性から頼まれる。
その依頼をきっかけに、封印された過去の事件が数珠つなぎに明るみになっていく。

暴かれたくない過去を持っている人間たちを相手に、執拗に真実を追究する主人公の姿は時に残酷であるとさえ感じられる。
と同時に、人は誰でも隠されたもう1つの顔を持っているのではないかという思いが沸いてきて、悲しいような、背筋が凍るような気持ちにもなる。
残酷で、悲しくて、怖い作品だ。
でも読み終わった後は人の温かさが胸にしみる。
宮部みゆきの真骨頂は本書でも健在だ。

 
   
楽園 上・表紙画像
楽園 上


宮部みゆき:著
文藝春秋 ・各1,700円
 

 桐野夏生『メタボラ』は、沖縄を舞台に繰り広げられるロードフィクション。
北部のジャングルで、記憶喪失の「ギンジ」と職業訓練塾から脱走した宮古島出身の「ジェイク」が偶然、真夜中に出会う。
次々と職を変える2人の逃亡生活はRPGを傍で見ているような面白さがあるが、ネット集団自殺、ワーキングプア、沖縄の基地問題など、社会的なテーマも含んでいて桐野夏生らしさも十分に発揮されている。

『OUT ()』や『グロテスク ()』といった桐野作品に慣れている読者にとっては、ラストはあっさりし過ぎているかもしれないが、その分、読者層の間口は広いと思われる。 サバイバル気分を味わいたい方には特におすすめしたい。
 
   
メタボラ・表紙画像
メタボラ


桐野夏生:著
朝日新聞社 ・2,100円
 

 サバイバル繋がりで次にご紹介したいのは、諸星大二郎『海神記 上』。
絶版状態に限りなく近かったが、このほど光文社「コミック叢書SIGNAL」から復刊された。

舞台は4世紀後半の九州地方。
海人族(あまぞく)が、不思議な力を持つ子供に導かれて「常世」という楽園を求めて大移動するという話だ。
波の上で戦いを続ける古代人の息吹が直に伝わってきて、サバイバル気分を存分に味わえる。
諸星大二郎の描く人物たちの目力の強さと壮大なスケールに圧倒されるが、読み終わった後は自らのルーツに思いを馳せずにはいられない。

下巻は8月下旬発売予定なので、古代史好きの方にはこの機会に是非お読みいただきたい。
 
   
海神記 上・表紙画像
海神記 上


諸星大二郎:著
光文社 ・2,000円
 

 最後に、壮大なスケール繋がりで、「野性時代」(角川書店)連載中の池上永一「テンペスト」を。
単行本になるのが待ちきれずご紹介してしまうのは綿矢りさ『夢を与える』に続いて2回目だ。

池上永一はこれまで、故郷・沖縄を舞台としたファンタジー色の強い娯楽作品を数多くものしてきたが、「テンペスト」の舞台は19世紀、琉球王朝下の沖縄。
この設定を聞いただけで池上永一ファンは血湧き肉踊るだろう。

数奇な運命を背負った少女・真鶴(まづる)が一族の期待に応えるべく、宦官と身分を偽り女人禁制の王宮に仕える。
孫寧温(そんねいおん)という名前で最年少で科試に合格した彼女は、政治のトップである評定所筆者に抜擢される。
様々な妨害に遭いながらも辣腕を揮う寧温の姿と、清と薩摩の間で揺れ動く琉球王朝の行く末から目が離せず、これまた読み始めたら止まらない大長編だ。

今月号(vol.46)の「野性時代」で第1部が終了し、来月号からは第2部が開始される。
少しでも興味を持たれた方には、これを機会にバックナンバーで読み返すことを強くおすすめしたい。
池上永一の技と頭脳とハートを余すところなく堪能できる作品だ。
著者の代表作となることは間違いないだろう。
 
 
野性時代 vol.46
野性時代 vol.46・表紙画像
角川書店・840円

「テンペスト」
池上永一:著・掲載
 

※価格はすべて5%税込です。  文・読書推進委員 加藤泉
構成・宣伝課 矢島真理子

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