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第41回 2008年1月10日


●執筆者紹介●


加藤泉
有隣堂読書推進委員。

仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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  〜第138回 直木賞大予想〜
  (この鼎談はフィクションであり、実在する人物・小説上の人物とは関係ありません)
 
 
平尾才助
(55歳…書店員歴33年)

悠木和雅
(44歳…書店員歴15年)

野口魚子
(33歳…書店員歴6年)
 悠木:   さあ、いよいよ直木賞の季節がやってまいりました。
 
 野口:   今回も私たちは本命・対抗・大穴と予想しなくてはならない辛い立場にいます。
 
 平尾:   毎度のことながら、誰にも頼まれてないけどな。 聞き飽きたぞ、そのセリフも。
 
 悠木:   今回は前回と打って変わって、候補作6作中、初ノミネート作家は1人だけです。
 
  野口:   どの作家も落ち着いているというか、前回の森見登美彦や万城目学のようにはじけたキャラがいないですね。
 
  悠木:   実力のあるベテランが多いだけに、予想するのが本当に難しいです。
 
  平尾:   外れてもともとのつもりで気楽にやろうぜ。 我々の使命はお客様に少しでも興味を持っていただくことなんだから。 これも毎回言っていることだけどな。
 



私の男・表紙画像
私の男

桜庭一樹:著

文藝春秋
1,550円
(5%税込)

  本命・桜庭一樹 『私の男』(文藝春秋)
 
 野口:  前回私が言ったとおりになったじゃないですか!
 
 平尾: まあ待て。 まだ決まったわけじゃないんだから。
 
 悠木: 確かに野口は前回桜庭一樹が候補になったとき、次に文藝春秋から出る作品で受賞するだろうと言っていました。
 
 野口: 別に版元で決めたわけではありません。
 
 平尾: うそつけ。
 
 悠木:  『私の男』のテーマはずばり近親相姦です。 嫌悪感を覚える読者も多いとは思いますが、好き嫌いは別として、この作品を読めば傑作ということは誰の目にも明らかだと思います。
 
 野口: ただ一つ懸念されるのは、男女の性愛に造詣が深いと思われる渡辺淳一先生あたりが「まだまだ愛が書けてない」と一蹴してしまうのではないかということです。
 
  悠木:   前回の候補作『赤朽葉家の伝説』に対しても渡辺淳一は辛口でしたね。
 
 平尾: まあ、でも大丈夫だろう。 鉄板だな。
 



警官の血 上・表紙画像
警官の血 上

佐々木譲:著

新潮社
各1,680円
(5%税込)

  対抗・佐々木譲 『警官の血 上』(新潮社)
 
 悠木:  佐々木譲は2回目の候補です。
 
 平尾:  この作家はとっくに受賞していたものと思っていたぞ。 まだ2回目か!
 
 悠木:  そうなんですよ。 候補作は、親子三代にわたる警察官の物語です。 「警察小説の金字塔」とどこかの批評家が言っていて、なんて大袈裟な、と思っていたのですが、実際に読んでみたら確かに力のある作品でした。
 
 野口:  私は横山秀夫に操を捧げて横山秀夫以外の警察小説は絶対読まないつもりだったのですが、この作品は読んでよかったと思いました。 一気に読めました。
 
  平尾:   ただ一つ問題なのが、この作品が上下巻ということだな。 上下巻の作品は獲りにくいと言われているからな。
 
  野口:   一説には、上下巻であるというだけで「長すぎる」と一刀両断されるとか。
 
  悠木:   そんなばかな!まあ、選考委員がどういう評価を下すか、楽しみですね。
 



悪果・表紙画像
悪果
黒川博行:著

角川書店
1,890円
(5%税込)

  大穴・黒川博行 『悪果』(角川書店)
 
  悠木:    黒川博行は5回目の候補です。
 
  平尾:   なんと! この作家もまだ受賞していなかったのか!
 
 悠木:   はい。 こうして見ると今回の候補作は非常にレベルが高いですね。
 
 野口:   この作品の主人公は関西の悪徳刑事です。 きれいごとでは済まされない暴力団担当刑事の世界が濃密に描かれています。
 
 平尾:   最初から最後まで本当に面白かったな。
 
 悠木:   主人公と相棒刑事のやりとりに、漫才のような面白さがあります。 キャラクターが生きてますね。 ただ、女性には受けない作品かもしれませんね。
 
 野口:  いえ、このオヤジ臭はとても心地よかったです。
 
 平尾:  野口の感覚は一般的な女性とは違うからな。 女性の選考委員にはたして受けるかが問題だな。
 
 悠木:  ああ、それは難しいかもしれませんね。 田辺聖子先生でしたら、このコテコテの関西弁も面白がってくださったかもしれませんが、もう選考委員から退かれてしまいましたからね。 平岩弓枝先生や林真理子女史の選評が楽しみですね。
 



約束の地で・表紙画像
約束の地で
馳星周:著

集英社
1,470円
(5%税込)

  馳星周 『約束の地で』(集英社)
 
 悠木:   馳星周も5回目の候補です。
 
 平尾:  なんと! この作家もまだ受賞していなかったのか!このセリフを言うのは今回3度目だぞ!
 
 野口:  デビュー作でとっくに受賞していたものと思っていました。
 
 悠木:  そこなんですよ。 『不夜城』の印象があまりにも強烈すぎて、同じレベルの作品を描き続けるだけでは認められないのが、馳星周のつらいところです。
 
 平尾:   この作品で久しぶりに馳星周を読んだけど、面白かったぞ。 歌舞伎町のネオンギラギラのイメージとも全く違ってな。
 
  野口:   北海道が舞台の連作短編集です。 北国の閉塞感と登場人物たちが背負う絶望感がうまくマッチしていると私も思いました。
 
 悠木:  確かに侮れない作品ですね。 北海道が舞台というところが、今回の本命『私の男』と微妙に被っています。 吉と出るか凶と出るか、難しいところですね。
 



敵影・表紙画像
敵影
古処誠二:著

新潮社
1,575円
(5%税込)

  古処誠二 『敵影』 (新潮社)
 
  野口:    古処誠二は3回目の候補です。
 
 悠木:  この作家は1970年生まれで、まだ30代です。 こういう若い作家が戦争小説にこだわって書き続けているという点は瞠目に値しますね。
 
 平尾:  若さがあだとなって、何を書いても「まだまだ真実が書けてない」と言われてしまいそうな感じもするな。
 
 野口:  この作品の舞台は第二次大戦下の沖縄で、米軍の捕虜となった日本兵が主人公です。 捕虜となるまでの悲惨さには目を覆いたくなりました。 捕虜となった己を苛んでいる姿には、この作家が戦争小説を描き続けているモチベーションを垣間見た気もします。
 
 悠木:  選考委員の中には、戦争小説というだけで食指が動かないと公言している人もいますからね。 受賞は難しいかもしれませんが、これからも必要とされる作家ではありますね。
 



ベーコン・表紙画像
ベーコン
井上荒野:著

集英社
1,470円
(5%税込)

  井上荒野 『ベーコン』 (集英社)
 悠木:   井上荒野は今回唯一の初ノミネート作家です。
 
 野口:  直木賞路線の作家とは思いませんが、江國香織も受賞していますからね。
この作家もいずれ受賞するでしょう。
 
 悠木:  確かに、江國香織と作風が似ています。 江國作品が好きな読者は井上荒野もいけるでしょう。
 
 平尾:  この作品を読んでいたらな、戦争中、食べるものがなくて弟と分け合って食べた芋の茎の美味かったことを思い出したぞ。
 
  悠木:   何の話ですか! それに平尾さん何歳ですか!
 
  野口:   私も、初めてのデートに手作りのお弁当を持っていって、鶏の唐揚げを食べた彼氏が食中毒になったことを思い出しました。
 
  悠木:   …二人の言いたいことは分かりました。 要するに、食べ物と密接に結びついた出来事を思い出させる作品だということですね。
 
  平尾:   おお、そうだ、そのとおりだ。 そう言えばカエルも食べたことがあったなあ、戦争中は。
 
 悠木:  

………。
 



    平尾:   以上、言いたい放題だったが、今回も力のある作品が出揃ったな。
 
  野口:   はい。 是非、皆様にもお読みいただきたいですね。
 
  悠木:   第138回直木賞、発表は1月16日の夜です! 皆様、お楽しみに!
 
 
文・読書推進委員 加藤泉
構成・宣伝担当 矢島真理子

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