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第48回 2008年4月24日 |
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〜社会人に贈る春の夢〜 | |||||||||
春は何かと昔のことを思い出す季節だ。 特に今年は、キャンディーズの解散コンサートが再現されたりして、過ぎ去りし過去に思いを馳せた方も多いかもしれない。 今回は、主に社会人の方が、懐かしい時代に戻った気持ちになれるような3冊をご紹介しようと思う。 |
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まず最初にご紹介したいのが、井伏洋介『月曜の朝、ぼくたちは』。 大学を卒業して7年ぶりに再会した7人の男女。 30歳を目前にした彼らの日常が順々に描かれるのだが、家庭や仕事上での悩みひとつひとつがリアルで、群像劇として実に読ませる。 学生時代がよかったと思うのは、知り合う仲間が言わば横一線で、純粋にその人物に向き合えていたからなのだと思う。 社会に出ると、どこの会社に勤めているかとか、未婚か既婚か、社会的な地位など、そういうものがどうしても付きまとってしまう。 本書を読んで、学生と社会人の決定的な違いをあらためて教えられた思いだ。 本書をたとえて言うなら、現代版「ふぞろいの林檎たち 3」だ。 主人公たちは、「おとなにならなければいけないのになりたくない、なりきれていない」大人たちだ。 自分も彼らと一緒かもしれないと感じた方には、是非お読みいただきたいと思う。 |
月曜の朝、ぼくたちは 井伏洋介:著 幻冬舎 1,680円 (5%税込) |
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小路幸也『モーニング』も、『月曜の朝、ぼくたちは』と同様、学生時代をたまらない程懐かしく思い出させてくれる小説だ。 大学時代の親友が交通事故で亡くなり、その葬儀に出席するためはるばる九州までやって来た当時の仲間4人。 22年ぶりに顔を合わせた彼らのうちの1人が「車で一人で帰って、自殺する」と、葬儀の後突然言いだす。 彼を思いとどまらせようと、残りの3人も長いドライブに付き合うこととなる。 自殺の動機を3人が探るうちに、彼らが共同生活していた学生時代のことが徐々に明らかになっていくのだが、その過程がミステリー仕立てになっているので、ぐいぐいと引き込まれる。 また、彼らが1961年生まれというところもポイントで、80年代カルチャーの洗礼を受けた方には特に楽しんでいただけるであろう。 読み終えた後は、学生時代の仲間ひとりひとりの顔が思い浮かんでくることと思う。 小路幸也の代表作と言えば『東京バンドワゴン』だが、第3弾『スタンド・バイ・ミー』が今月末に刊行される予定で、『東京バンドワゴン』も文庫化になったばかり。 家族小説の決定版と言われているバンドワゴンシリーズ。 今月は『モーニング』共々、小路幸也作品を味わっていただきたい。 |
モーニング 小路幸也:著 実業之日本社 1,680円 (5%税込) |
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さて、中学生・高校生時代の一大メインイベントと言えば修学旅行だ。 この旅行のために親たちはせっせと旅行代金を積み立てしているはず。 だが、修学旅行で本当に「学を修めた」生徒はどれだけいるだろうか。 私自身の記憶を手繰れば、長崎平和公園ではおびただしい数の鳩に襲われたことしか覚えていないし、熊本城では騒ぎすぎて担任教師に叱られた記憶しかないし、阿蘇山にいたってはひたすら馬糞臭かったことしか思い出せない。 今、北九州を見て廻るだけの時間と金があったらどれほどありがたいことか、と悔やんでも悔やみきれない。 こんなことを少しでも感じたことのある方にオススメしたいのが『もいちど修学旅行をしてみたいと思ったのだ』。 ノンフィクションライターの北尾トロと、フォトグラファーの中川カンゴローが引率役の編集者と、修学旅行地として名高い名所を廻った1冊。 彼らが行ったのは、京都・奈良から韓国までおよそ20ヶ所。 中学・高校時代の修学旅行と同じく、大観光地をかなり慌しいスケジュールで観光する中年男の3人旅。 さぞや珍道中だろうと思われるかもしれないが、金閣寺に感動し、厳島神社に唖然とする旅行記はしごくまっとうで、素直に共感でき、読んでいるこちらまで一緒に旅している気分にさせてくれる。 修学旅行をもう一度やり直したい…と思った社会人の方には、是非この本を読んで予行演習していただきたいと思う。 |
もいちど 修学旅行を してみたいと 思ったのだ 北尾トロ:著 中川カンゴロー:写真 小学館 1,365円 (5%税込) |
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文・読書推進委員 加藤泉
構成・宣伝担当 矢島真理子 |
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