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第50回 2008年5月22日 |
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〜夢中になって読む!ミステリー〜 | |||||||||
ゴールデンウィークも明け、そろそろ五月病に罹る方もでてくるこの季節。 そういう時は小説でも読んで現実逃避を図るのが一番! というわけで今回は、時間が経つのも忘れて夢中になれるミステリーをご紹介しようと思う。 |
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まず初めに、大倉崇裕『聖域』。 主人公は中学生の頃から山岳部に所属していた草庭正義。 学生時代のライバル安西が、難易度の低い塩尻岳で滑落死したと聞き、事故ではなく殺されたのではないかと疑いを持つ。 1年前に塩尻岳で遭難死した安西の恋人の存在がこの事件の背後にあるのではないかと思う草庭は、その足を使って真相を突き止めようとする…。 著者自身、大学時代に山岳の同好会に所属していたらしく、卒業以来10年間、いつか山岳ミステリーを書こうとの思いを温めていたという。 ミステリーとしても楽しめるが、山の魅力もじゅうぶんに堪能できる1冊だ。 「なぜ山に登るのか?」「そこに山があるからだ」 人口に膾炙したこの言葉が、本書を読むとすんなり納得させられる。 |
聖域 大倉崇裕:著 東京創元社 1,890円 (5%税込) |
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次に、社会派ミステリーから薬丸岳『虚夢』を。
デビュー作『天使のナイフ』で少年犯罪を、第二作『闇の底』で性犯罪を扱った著者の1年半ぶりの新刊である。 今回は、犯罪者の精神鑑定に対して問題提起している。 舞台は札幌郊外。 心神喪失の青年が12人を殺傷する事件が白昼起きた。 青年は精神鑑定で統合失調症と診断され、不起訴処分となる。 この事件で幼い娘を失ったフリーライターの三上、精神病院から退院した加害者の青年と心を通わせるキャバクラ嬢、この事件が原因で精神を病み三上を離婚した佐和子の現夫。 この3人が視点人物となり、それぞれの立場からかわるがわる描かれる構成が巧みで、ぐいぐい引き込まれる。 被害者遺族の気持ちが痛いほど伝わってきたが、読んでいて刑法第三十九条ができた過程を知りたいとも思った。 難しいテーマに挑み続ける著者に、今後も注目したい。 |
虚夢 薬丸岳:著 講談社 1,575円 (5%税込) |
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最後に、ホラー系から雀野日名子『あちん』を。 第2回「幽」怪談文学賞短編部門大賞受賞作。 舞台は北陸のF市。 市役所に勤める25歳のヒロインの周りで起きる奇怪な出来事を描いた連作短編集である。 夜中の電話ボックス、使われていないトンネル跡、呪いの武者行列など、道具立てもばっちり。 できれば夏に読みたかった…と思った次第。 同じ人がこんなに何度も怖い経験をするものか、と思いつつ読み進めていたのだが、後半できちんとその理由が明かされ、救いのあるラストのおかげで読後感はとても良い。 長編部門の特別賞受賞作『遊郭のはなし』のほうも読み応えがあるので、怪談ものに興味がある方には2冊とも是非お読みいただきたいと思う。 |
あちん 雀野日名子:著 メディアファクトリー 1,365円 (5%税込) |
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文・読書推進委員 加藤泉
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