デビュー作『君は永遠にそいつらより若い』
|
|
加藤: |
|
2005年、「マンイーター」で太宰治賞を受賞され、デビューなさいましたね。 今さらですが、受賞された時のお気持ちは?
|
|
津村: |
|
当時ものすごい風邪をひいていて声が完全に潰れていて、担当編集者さんからご連絡をいただいた時に、「ほんまで(げほごほっ)すか(げほがほごほっ)」という感じで咳き込んでいましたので、そっちに気を取られていて、とにかく今電話をしているFさん(担当編集者さん)にそそうのないように、この自分の咳っぷりで受賞とりやめとかにならないように、といきなり不安になっていました。 落選する夢もいっぱい見ていたので、本当にびっくりしました。
|
|
加藤: |
|
「マンイーター」は単行本化にあたって『君は永遠にそいつらより若い』と改題されました。 とてもいいタイトルだと思いますが、なぜこのタイトルに?
|
筑摩書房 刊 |
|
津村: |
|
担当編集者さんと1ヶ月以上やりとりをして、それでもまだ決まらず、いよいよテンパりかかっていた時に、担当さんが彗星のごとく提示してくださったタイトルです。 わたしは「ちょっとかっこよすぎるのではないか…、大きく出過ぎているのではないか…」とこの小説のタイトルを目にするたびにおろおろするのですが、基本的に好評のようで良かったです。
|
|
加藤: |
|
津村さんにとって思い入れのある作品だと思いますが、執筆期間はどれくらいかかったのでしょう?
|
|
津村: |
|
2004年の5月から9月まで書いていたので、5ヶ月ぐらいです。 推敲期間も入れると、半年です。
|
|
加藤: |
|
あまりにも面白くて私は一気読みしてしまったのですが、津村さんが半年もかけられて書かれたと伺うと申し訳なく思ってしまいます。 もっとゆっくり読めばよかったです〜。
|
|
|
|
|
|
最新刊『婚礼、葬礼、その他』
|
|
加藤: |
|
雑誌「文學界」で掲載された時から話題で、芥川賞候補にもなった「婚礼、葬礼、その他」も単行本になりました。 この作品を書かれた時、手ごたえのようなものはありましたか?
|
文藝春秋 刊
|
|
津村: |
|
けっこう時間がない中で書いたので、なかなか物語の芯みたいなものを把握できず、それでも書き進めないといけないので、三分の一を書くぐらいまでは、本当に書き終われるのか、ものになるのか不安でした。 書きながら読み返して「自分で思っているほどつまらないものでもないから、とにかく書き通すこと」という標語を作ってときどき参照するぐらいでした。 だいたいいつも不安ですが、「婚礼、葬礼、その他」は、今まで書いた小説の中でも相対的にもっとも迷っている期間が長かった作品です。
|
|
加藤: |
|
友人の結婚式の幹事を引き受けていた主人公が、式の当日、上司の親の葬儀に呼び出され、通夜に出席するのですが、そこで繰り広げられる人間模様がぞっとするほど面白かったです。
|
|
津村: |
|
どうもありがとうございます。 書けるはずもないんですが「コント的なもの」に挑戦しよう、ということで、それを目指して書いたので、人間模様が面白いと言っていただけるとほっとします。 ぺらっぺらだと思うんですが、自分が考える限り、そういう人もいる、と割り切って書きました。
|
|
加藤: |
|
『君は永遠にそいつらより若い』や『カソウスキの行方』のように笑いどころも満載ですが、ホロリとさせられる場面もありました。 主人公がお通夜で泣く場面は何度も読み返しました。 津村さんが特に力を入れて書かれた場面はありますか?
|
|
津村: |
|
故人の愛人二人が言い争うシーンがあるのですが、この二人をどう怒らせ合うか、ということに唐突につまずいて、かなり詳細なフローチャートのようなものを、同僚に相談しながら作って、それを見ながら書きました。
|
|
加藤: |
|
ああ、あの場面も面白かったです! 是非ひとりでも多くの方に読んでいただきたいですね。
|
|
|
|
|
|
最新長編『ミュージック・ブレス・ユー!!』
|
|
加藤: |
|
長編『ミュージック・ブレス・ユー!!』、こちらも発売になったばかりですね。 長編の津村作品を読みたい!と思っていたので、この本の刊行は本当に嬉しかったです。 とにかく、得体の知れないパワーのある小説でした。
|
角川書店 刊
|
|
津村: |
|
どうもありがとうございます。 いやもう本当にありがとうございます。
|
|
加藤: |
|
主人公は、音楽をこよなく愛し、音楽以外には何にも興味を持てない高校3年生のアザミという女の子です。 女子高生を主人公にするにあたって、書くのに難しい面、面白かった面はありますか?
|
|
津村: |
|
ゆるくてだらだらした、何も持ってない女の子の日々、という主題を置きつつ、彼女が体験することから何を受け取るか、をわざとらしくなく、自然な感じでどう書くか、にずっと迷っていました。 しかし、どうしても書きたかった話なので、この小説にまつわることすべてが面白かったといえばそうです。 書き終わったあと、ああ終わったんだ、というので、月並みな言い方なんですけど「心に穴が空いたみたい」な感じでした。
|
|
加藤: |
|
そうですね。 私も月並みな言い方になってしまいますが、読み終えるのが残念でなりませんでした。 主人公アザミと親友チユキのキャラクターがとてもよくて、彼女たちに会えなくなるのが寂しくて…。 それにしてもこの2人はハードボイルドな女子高生だな〜と思いました。 文化祭のくだりは、大爆笑しました。
|
|
津村: |
|
よかったです。 笑えるような道具立てなのに、笑えないとすごく困りますんで。 アザミよりもチユキのほうが、自分としては、こういう子はいる、という感じで書きました。 口が悪くて、投げやりで、案外脆いけど、友達としてはほんとにいい奴なんだ、という。
|
|
加藤: |
|
この作品は、特にどの世代の読者に読んでほしいですか?
|
|
津村: |
|
駄目もとで、こんな奴いねーよ、とか、古っ、とか言われるの覚悟で、高校生の皆さんに読んで欲しいのですが、もちろんべつの世代の方でも、気に入っていただけるととても嬉しいです。 わたし自身、今まで書いたものの中でいちばん好きな小説です。 この作品を世に出していただくために、なんとかこれまでやってきたという部分もあります。
|
|
|
|
|
|