悼む人
天童荒太:著
文藝春秋
1,700円 (5%税込)
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本命・天童荒太 『悼む人』(文藝春秋)
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悠木: |
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天童荒太は3度目の候補です。 |
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平尾: |
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鉄板だな。 第140回直木賞は『悼む人』に決定! 以上。 |
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悠木: |
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ちょっと待ってください! もう少しこの作品について語ってくださいよ。
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平尾: |
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だって、版元は文藝春秋だし、これで獲らなかったら一体何があったのか、って逆に大騒ぎになるぞ。 |
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野口: |
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そうですね。 天童荒太は『永遠の仔』と『あふれた愛』で候補になったことがありますが、あの2作と違って『悼む人』は重いテーマを扱っていながらも読後感がすこぶる良かったです。 |
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平尾: |
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確かに、読んでいて生きるのが辛くなりました、ってことはなかったな。 |
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悠木: |
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あれ? 野口は最初、この作品に拒否反応を示してなかったか? |
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野口: |
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はい。 悼む旅を続ける男の話と聞いて、ああ、またお涙頂戴ものか、と思ってしまったのですが、読んでいくうちに、軽く考えていた自分が恥ずかしくなりました。 ものすごい覚悟でこの小説が書かれたことが伝わってきました。 |
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悠木: |
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ミステリー的な要素もあって、読者を飽きさせないところもポイントが高いですね。 |
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平尾: |
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だから鉄板なんだって! 次いくぞ。 |
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対抗・恩田陸 『きのうの世界』(講談社)
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悠木: |
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恩田陸は3度目の候補です。 キャリアから言って受賞する力はじゅうぶんにある作家ですが…。 |
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野口: |
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選考委員の五木寛之先生が毎回恩田陸に高評価を付けています。 五木先生がゴリ押しすれば、3度目の正直もあり得るかもしれません。 |
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悠木: |
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ただ、今回候補になった『きのうの世界』は、直木賞を獲りにくいとされているバリバリのミステリーですからね。 |
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野口: |
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悠木さんみたいなミステリー読みはともかく、平尾さんのようにミステリーを読み慣れていない人にはどうなんでしょうねぇ? |
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平尾: |
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何が何だかさっぱり分からなかった。 |
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悠木: |
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ええっ! 本当ですか? 私にはすごく面白かったのですが。 |
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野口: |
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ある会社員が失踪して、1年後にM町という離れた土地で彼の死体が発見されるところから始まります。 |
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悠木: |
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この事件を探っていくうちに、M町に隠されている壮大な秘密が明らかになります。 これが、のけぞるほどすごいオチなんだけどなぁ。 |
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野口: |
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その「壮大な」部分を選考委員の先生方が評価してくださるかどうかにかかってきますね。 |
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平尾: |
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壮大すぎて、私のように付いていけない人もいるかもな。 |
汐のなごり
北重人:著
徳間書店
1,785円 (5%税込)
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北重人 『汐のなごり』(徳間書店)
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野口: |
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今回候補になった時代小説トリオのうちの1作、北重人の『汐のなごり』です。 |
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悠木: |
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北重人は初めての候補ですね。 |
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平尾: |
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おおっ!この作品はすごく良かったぞ。 藤沢周平を読んでいるような気持ちになった。 |
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悠木: |
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はい。 東北を舞台にした短編集です。 静謐とした筆致が印象的で、人情が余韻をもたせます。 共通点が多いですね。 |
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野口: |
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今回の時代小説はどの作品が受賞してもおかしくないですよ。 |
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悠木: |
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余談ですが、北重人と山本兼一は2004年に松本清張賞を争っています。 結果は、山本兼一の『火天の城』が受賞しています。 このときに落選した北重人の「天明、彦十店始末」が選考委員の大沢在昌と伊集院静の強い推薦により『夏の椿』として出版が決定。 異例のデビューとなったわけです。 |
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野口: |
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お二方とも、文藝春秋とは浅からぬ縁のある作家ということですね。 |
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平尾: |
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分かった。 北重人は次に文藝春秋から出版される作品で受賞するに違いないな。 |