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平成13年2月10日 第399号 P5 |
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目次 | |
P1 | ○戦後横浜 華やかな闇 山崎洋子 |
P2 P3 P4 | ○座談会 仏像修理 (1) (2) (3) |
P5 | ○人と作品 もりたなるおと『昭和維新 小説五・一五事件』 藤田昌司 |
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人と作品 |
テロリズムの背景にあった経済不況と政財界人の腐敗を描く もりたなるおと『昭和維新 小説五・一五事件』 |
先触れとなった浜口首相狙撃事件からたどる 新世紀が明けたとはいっても、何の曙光も見えない閉塞感は、世紀末の第二幕だ。もりたなるお氏の『昭和維新 小説五・一五事件』 (新人物往来社)は、国家革新をめざしたテロリズムの背景にあった昭和初期の経済不況と政財界人の腐敗を 描き、今日の時代環境の危機感と二重映しになって迫ってくる力作。
この作品は、五・一五事件の先触れとなった浜口雄幸首相狙撃事件、“一人一殺”の血盟団事件などから、「話せばわかる」 「問答無用」で知られる犬養毅首相暗殺の五・一五事件へと迷路をたどっていく。 これら昭和維新の推進力となったのは、満州浪人上がりで立正護国堂血盟の主宰者・井上日召(にっしょう)、水戸市郊外で兄弟村農場を 主宰する農本思想の橘孝三郎、紫山塾経営の国家主義者本間憲一郎、陸海軍の革新青年将校藤井斉(ひとし)、橋本欣五郎、古賀清志、三上卓らだ。 当初は井上日召の主導による井上準之助・前蔵相暗殺、三井財閥の重鎮・団琢磨暗殺など血盟団の暗躍が中心だが井上日召が 捕えられると、青年将校たちの組織的なテロ行為に主役が移っていく。 大別すれば農村出身の青年たち、理論武装した学生たちインテリ集団、そして陸海軍青年将校となるが、このうち井上日召の 下で、最も純粋に“一人一殺主義”の凶器となったのは農村出身の若者たちだった。「僕も昭和の初めに多摩の農村で生まれ、 当時の貧農の苦境をよく知っていますから、貧乏をなくそうと決起した彼らの気持はよくわかります。手段がいいの悪いのと いうのは“高見の見物”のいうことで、爆発するのは当然だったと思う」 貧農の家の娘は前金で遊女に売られ、都会では失業者があふれていた。今の時代はこれほど悲惨ではないが・・。 「だが、今の繁栄はいい加減なものです。みんな借金だらけですからね。政府も企業も個人も、みんな借金を抱えて 見せかけの繁栄をやってるだけです」 貧窮に転落した青年とテロリストは複数のモデルをもとに創作
この作品は、茨城県下の農村の役場吏員で、将来は村長の席が約束されていた旧家の息子だが、他家の保証人に
なったことから貧窮に転落してしまう青年・生田義雄と、その学校の親しい先輩で教員だったが、井上日召の下に参加して
テロリストとなる浅田圀光の二人を舞台廻し役として展開する。「二人とも僕が創作した人物ですが、モデルはあります。
何人かのモデルを複合してつくった人物です」
(藤田昌司)
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