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第96回 2010年4月22日


●執筆者紹介●


加藤泉
有隣堂読書推進委員。

仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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〜有隣堂スタッフが選んだ我が心の本屋大賞2010〜

4月20日、第7回本屋大賞が発表になりました。
大賞受賞作は冲方丁『天地明察』(角川書店)です。
今年も去年同様、有隣堂スタッフ有志に “本屋大賞は『天地明察』だったけど、私にとっての第七回本屋大賞はこの作品!” を選び、熱く語ってもらいました。
本屋大賞ノミネート作だけでなく、この中の本も是非お読みになってください!



 (書名五十音順) 

阿修羅・表紙画像
阿修羅


1,785円
(5%税込)
   玄侑宗久 『阿修羅 (講談社)

僧侶でもあり芥川賞作家でもある玄侑宗久氏が、解離性同一性障害、いわゆる多重人格という病を、阿修羅像の3つの顔とリンクさせつつ正面から淡々と描き切った作品である。
「本当の美佐子は誰?」との疑問への答えを見つけつつ読み進めていく過程で、その疑問は「本当の自分は誰?」という自己に対する疑問へと転化していく。 私も美佐子のように、あるいは阿修羅像のように3つの顔と6本の手があるのか? あるいはもっと?
「本当の自分」について考えてみたい方は是非一読をして頂きたい。


(店舗事業本部 松信健太郎)

SOSの猿・表紙画像
SOSの猿


1,575円
(5%税込)
   伊坂幸太郎 『SOSの猿(中央公論新社)

書店員がお薦めする本として伊坂幸太郎を薦められると、少し食傷気味な方もいらっしゃるかも知れません。
でも!
そこは敢えて薦めさせて戴きます! ……だって面白いんだもの。
“時間軸の操り方の巧さ”というのが、伊坂幸太郎の魅力の一つでありますが、『SOSの猿』でも、それはいかんなく発揮されています。
二つの時間軸のストーリーが展開されて行きますが、それがリンクした時の爽快感と言ったら! まさに「巧」。 こうやって読者を骨抜きにして行くのか。
この爽快感。 是非体感してみてください! !


(横浜駅西口店 佐藤正博)

黄金の猿・表紙画像
黄金の猿


1,785円
(5%税込)
   鹿島田真希 『黄金の猿(文藝春秋)

5つの短編は、愛と性の狭間で揺れ動く、人間の孤独な魂が描かれている。 求めているのに求められない、愛しているのに愛せない、不安定で不確かな人間の心。 言葉の一つ一つが吟味し尽くされていて、観念的・思弁的と思われる表現も単なる観念・思弁ではなく、深い思想に裏打ちされているように感じる。
2009年鹿島田真希は、他に『女の庭』(河出書房新社)や長編『ゼロの王国』(講談社)と、その力量を遺憾なく発揮した。 リアリズム小説や私小説から遠く離れて、孤軍奮闘する作者の凛とした姿は、美しく逞しい。



(店売事業部 中村努)

かけら・表紙画像
かけら


1,260円
(5%税込)
   青山七恵 『かけら(新潮社)

父と二人で日帰りのさくらんぼ狩りツアーに参加するハメになる娘。
その一日が何のてらいも誇張もされず、静かな文体で語られています。
影の薄い父親との弾まない会話、捉えどころのない空気と時間の積み重なりのなかで、娘が撮った風景写真の一枚に、期せずして父の横顔が写りこんでいます。
社会人になった今、家族の肖像という魅力的な温かさが、この短編小説の結びの数行から、いつまでも心に残ります。


(アトレ新浦安店 広沢友樹)

風の中のマリア・表紙画像
風の中のマリア


1,575円
(5%税込)
   百田尚樹 『風の中のマリア(講談社)

成虫に成ってからの残り人生は約30日。
組織の歯車の一つである主人公のオオスズメバチが戦い続けて死ぬまでの物語です。 それだけの物語ですが、少年の頃ファーブルやシートンが大好きだった人は多くの場面が思い出され懐かしさのフラッシュバックで立眩みを起こすかもしれません。 そんな人にオススメの1冊です。


(戸塚モディ店 安田信之)

坂道の向こうにある海・表紙画像
坂道の向こうにある海


1,575円
(5%税込)
   椰月美智子 『坂道の向こうにある海(講談社)

地味な登場人物とそれを取り巻く庶民派な設定。
るり姉』の様なじーんとする場面はない。
でも途中からは青春でもない人生の岐路でもない、自分で選択していく事は出来るけれど何も決断を迫られていない、といういわばお気楽な世代の彼等を、放っておけない気持ちになり始める。

ちょっとここのは変わっているけど四角関係なんてよくあること。
だけど一人一人が他の三人に対して考えている事、女性と男性の受け止め方の違い、それぞれに個性があって今を生きている。
椰月さんはいつも、魅力あふれる人物達に出逢わせてくれる


(横浜駅西口店 岩井静花)

巡礼・表紙画像
巡礼


1,449円
(5%税込)
   橋本治 『巡礼(新潮社)


とあるお客様から、「ゴミ屋敷に住んでいた人のお話でね、あなた、すごい小説なのよ。」とお薦めされ、読んだ1冊でした。
普通に生きてきたはずの下山忠市の人生が、少しずつ時代の波にのまれていき、とうとうゴミ屋敷の主になってしまうというお話です。 「戦後」というドラスチックに世の中が変化していく時代で、取り残されていく、追いついていけない人間の哀しさとは、こういうことなのかと思い読みました。 橋本治さんの“時代の切り抜き方”は、本当に素晴らしい。 時は流れ、人は老いていく、去っていく者は戻らない。 深い“橋本川”にどっぷり溺れてしまったような読後感でした。 最後のページ…これはもう涙です。


(ルミネ横浜店 佐伯敦子)

新参者・表紙画像
新参者


1,680円
(5%税込)
   東野圭吾 『新参者(講談社)

ひとつの事件を解決するための聞き込みから、それぞれの家庭や友人の純粋なる想いが伝わってきて、口にはしないけれどお互いを思いやっている・・・その心に胸を打たれます。
ひとつひとつの章に様々なドラマがあって、ホロリと来ます。
子供のために、遠くで見守っていたり、自分を犠牲にしたり・・・親が子を想う切ない気持ちには本当にジーンと来ます。
私もちゃんと親孝行しなくちゃ! って思いました


(書籍外商部 矢部久美子)

正弦曲線・表紙画像
正弦曲線


1,890円
(5%税込)
   堀江敏幸 『正弦曲線(中央公論新社)

本屋大賞に「エッセイ部門」があったら絶対これを推します。
堀江氏独特の穏やかな口調で日常の断片を綴った連作散文集。
まるで子供のように素直でまっすぐな眼差しでささやかな出来事からキラキラ光るものを掬いとり、それを優雅で熟した大人の文章で表現する。
そのギャップこそが唯一無二の著者の魅力なのでしょう。
控えめだが雰囲気のある造本も毎回楽しみのひとつ。
ライチが箔押しされた箱入りのこの本は、私にとって宝物のような1冊です。


(横浜駅西口店 天羽雅代)

青嵐の譜・表紙画像
青嵐の譜


1,680円
(5%税込)
   天野純希 『青嵐の譜(集英社)

去年はいわゆる「ネオ時代小説」が話題になった。 和田竜さんをはじめとして今回の本屋大賞作品にいたるまで、まだまだブームは続いている。 そんな中、『青嵐の譜』はもっと注目されても良かったと思う。
のちに「元寇」と呼ばれた蒙古軍の襲撃で引き裂かれた幼馴染の少年少女たち。 彼らのその後の波乱に満ちた人生にくぎ付けに。 少々血腥い小説だが読み応え十分、読後感は爽やか!
まだ読んでない方はこの機会にどうぞ。


(小田原ラスカ店 佐藤真)

線・表紙画像


1,680円
(5%税込)
   古処誠二 『(角川書店)

大戦中のニューギニア戦線を描いた小説。
戦場にあって、生存を脅かす相手は敵兵でなくむしろ同じ組織内の人間だったりする。
しかも、心身を癒すoffの時間などあるわけないのだ。
これはつらいぞ。 日本人組織小説として読みました。


(ミウィ橋本店 梅田勝)

中学んとき・表紙画像
中学んとき


1,575円
(5%税込)
   久保寺健彦 『中学んとき(角川書店)

タイトルから中坊特有のアオさ、ダサさを面白おかしく描いたQ.B.B.の傑作マンガの傑作マンガ「中学生日記」ノリの小説かな、と思いきやなんだかもっとクールで妙に不気味な風情の小説集で少しビックリ。 特に、いじめられながらもやたらとフィリップ・マーロウばりの警句を吐いてはまたまたイジメられるハードボイルドバカ・鷹野が強烈な印象を残す「ハードボイルドなあいつ」は2009年最もゴリッという印象を残す一編。 久保寺健彦さんはこの春出た『オープン・セサミ』がやはり物凄い完成度の短編集で、いよいよ目の離せない作家に成長した印象があります。


(横浜駅西口店 梅原潤一)

追想五断章・表紙画像
追想五断章


1,365円
(5%税込)
   米澤穂信 『追想五断章(集英社)

「亡くなった父の小説を探してほしい。」と依頼され、結末が書かれていない5つの小説を探す主人公。 なぜ、最後の一行は書かれなかったのか? そして22年前の未解決事件とは? 物語を進むにつれて謎は深まり、面白さも増していきます。
彼らが手にした真実は眠らせたままの方が良かったのかもしれない…と思わせるような苦く悲しいもの。 でも読後感は決して悪くはないですし、ミステリファンも大満足!の読みごたえのある1冊です。


(厚木店 岩堀華江)

鉄の骨・表紙画像
鉄の骨


1,890円
(5%税込)
   池井戸潤 『鉄の骨(講談社)

中堅ゼネコンの若手社員は、人事異動で談合渦巻く業界に放り出される。
旧態以前とした談合からなんとか抜け出そうと試みるが、その流れの大きさに飲み込まれそうになる。
政界のドンが仕切る巧妙な官製談合、業界の圧力に対して、徹底的なコストダウンを武器に意表を付く入札を企てる中堅ゼネコン。 コンプライアンス時代の企業の内幕と脱談合を試みる企業の葛藤を描く骨太な企業小説。


(アトレ恵比寿店 出川由夫)


540ページがあっと言う間だった。
「談合」「ゼネコン」知っている振りをしていたけど実はよくわからなくて誰かに聞きたくても聞けない事だった。
それを見事に解消し、ストーリーも大満足させてくれるエンタテイメント企業小説だ!
登場人物が私達と同じように仕事行き詰まり、恋愛に悩み、それでも頑張っているところにおおいに共感できた。
働く者にとって企業小説は現実を見つめる良いテキストであり元気の源でもあると想う。
また主人公の若者の成長が気になるところ。


(川崎BE店 大嶋慶子)

遠くの声に耳を澄ませて・表紙画像
遠くの声に耳を澄ませて


1,470円
(5%税込)
   宮下奈都 『遠くの声に耳を澄ませて(新潮社)

スコーレNO.4』で話題になった著者による12話の短編集。
いつもと様子が違う学生時代の友達・梨香と温泉旅行に出かける美羽。 打ち明けられない悩みを抱えながらも、梨香は旅先で次第に心を開いて前向きな気持ちになっていく“初めての雪”。 田舎で生まれ育ち、何の迷いもなく結婚する幼馴染を心から祝福出来ずにいる咲子。 郷里での幼い頃を思い出し、最後は花嫁のために足袋を履いて全速力で走る“白い足袋”。
…などなど、どの話も何気ない日々の出来事を綴っているだけなのに、何故かひとつひとつが温かくて、優しくて、愛おしくなるものばかり。
「よっしゃ! 明日から自分も頑張ろう! !」とポンと背中を押してくれる素敵な1冊。


(藤沢店 菅野貴子)

ドーン・表紙画像
ドーン


1,890円
(5%税込)
   平野啓一郎 『ドーン(講談社)

宇宙船「DAWN」や火星探索…とSF要素たっぷり! しかし、監視カメラをネットワーク化した散影システムの広がりという社会変化や、分人主義という人間の意識変化をも描くという一筋縄ではいかない大作! !


(ヨドバシAKIBA店 関口実幸)

猫の水につかるカエル・表紙画像
猫の水につかるカエル


1,680円
(5%税込)
   川崎徹 『猫の水につかるカエル(講談社)

まず、表紙に惹かれ買いました。
猫のお腹のような柔らかい肌色にぽってりとゆるいシロクロねこ。
さわった感触まで想像できます。
そしてタイトルもいい。 猫の水って? …それは読んでのお楽しみ。
「傘と長靴」「猫の水につかるカエル」の2編からなるこの小説はどちらも“死”が漂います。
父の死、友人の死、猫達の死…。 どの死も淡々と公平に見送られてゆきます。
つらいところもあるけれど、読後がとても清々しいいつまでも手元に置いておきたい1冊です。


(アトレ目黒店 酒井ふゆき)

はむ・はたる・表紙画像
はむ・はたる


1,470円
(5%税込)
   西條奈加 『はむ・はたる(光文社)

前作『烏金』で名脇役ぶりを発揮した子供達が主役となって登場する連作短編小説です。 10歳前後の孤児たちのたくましさ・やさしさ・弱さ・仲間を思う気持ちの強さにハッとさせられます。 周囲の大人たちの大きく見守るスタンスも素敵です。 時代小説らしく仇討ちがサイドストーリーで語られていますが、時代物は苦手という方にも楽しんでいただけると思います。


(本店 高谷久美子)

まほろ駅前番外地・表紙画像
まほろ駅前番外地


1,575円
(5%税込)
   三浦しをん 『まほろ駅前番外地(文藝春秋)

今年も三浦しをんの作品をたくさん楽しませてもらいました。
星間商事株式会社社史編纂室』も『神去なあなあ日常』もよかったけれど、「もっと読みたいな…」と思っていた愉快な奴らの話が読めた事が、何よりもうれしかったです。
前作を読んでいない方には、一気読みをお勧めしますよ!


(川崎BE店 小林あゆみ)

よろこびの歌・表紙画像
よろこびの歌


1,365円
(5%税込)
   宮下奈都 『よろこびの歌(実業之日本社)

精神的に「弱」の状態に陥った時に、必ずと言っていいほど読みたくなるのが宮下奈都さんの小説です。
その中でも『よろこびの歌』は宮下作品の良さが凝縮されているような1冊です。
音楽的な才能を持つ高校生の女の子と、その周りの女の子たちの成長を描いた連作短編集です。
変わり映えのしない日々であっても少しずつ人は変わっているとか、幸せは目の前に転がっているとか、読み返すたびに大切なことに気付かされ、強張っていた心がゆるゆるとほどけます。
今ちょっぴり後ろ向きな気持ちになっている方に是非おすすめしたい1冊です。


(アトレ恵比寿店 加藤泉)

るり姉・表紙画像
るり姉


1,680円
(5%税込)
   椰月美智子 『るり姉(双葉社)

正直、華々しい物語ではありません。 自由奔放な「るりこ」と、彼女を愛する家族の目線。 読後こそ爽快ですが、強い印象は残りませんでした。 ところが。 時間がたっても色あせないんですよね。 晴れた朝の海、散らかった車の中、おそろいのイチゴキーホルダー、何気ない一言。 それらが一陣の風みたいにフワリと横切り、今でも余韻を楽しませてくれる。 こういう穏やかな感動もあるんだなぁ、って微笑みたくなる傑作です。


(アトレ目黒店 倉田裕子)


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