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第72回 2009年4月23日 |
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〜たまには恋愛小説など〜 | |||||||||
春である。 パステルカラーの季節である。 恋の花咲く季節である。 というわけで、たまには恋愛小説をご紹介したいのだが、くっつくのかくっつかないのかイライラする恋愛小説なんて大キライ!という方もいることだろう。 今回は、そんな恋愛小説嫌いの方々にもご満足いただけるような、変化球の恋愛小説をご紹介しようと思う。 |
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まず初めに、角田光代『くまちゃん』を。 角田光代には珍しい恋愛小説なのだが、構成が面白い。 最初の短編は苑子という女が「くまちゃん」と呼ぶ男に恋をしてふられ、次の短編では英之(くまちゃん)がゆりえという女に恋をしてふられ…というように、主人公が順番にふられていく連作短編集なのである。 著者があとがきで書いているように、20代から30代の男女の恋愛には、否応なく仕事が絡んでくる。 たとえば、恋愛がうまくいかなくて仕事が手につかなかったり、逆に仕事がうまくいかないのが原因で恋愛方面でもしくじったり。 はたまた、「私と仕事とどっちが大事なの!」と言われて真剣に悩んでしまったり…。 このように「仕事と恋愛」問題に立ち止まったことのある方には是非お読みいただきたい1冊。 近年の角田光代は『八日目の蝉』や『森に眠る魚』など犯罪がらみの小説で高い評価を得ているが、著者の本筋はこの『くまちゃん』だろう。 若い世代の「うまくいかなさ加減」を描かせると角田光代は抜群に巧い。 本書を読んで、自分のダメな部分を見せ付けられたような気持ちになる方は多いと思う。 ちなみに私は大いに凹んだ。 |
くまちゃん 角田光代:著 新潮社 1,575円 (5%税込) |
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次に、森見登美彦『恋文の技術』を。 京都の大学から能登半島のクラゲ研究施設に移った大学院生の守田一郎。 無聊をかこつ彼は文通の技術を上げようと一念発起し、京都の知り合いに手紙を書きまくる。 文通相手は、恋に悩む後輩・犬猿の仲の同級生女子・作家森見登美彦・かつて家庭教師として教えていた小学生・歯に衣着せぬ妹。 この小説は彼から相手への手紙だけで成り立つ「書簡体小説」なのだが、読み進めていくうちに相手の返事の内容や、ある女性への彼の恋心や、登場人物同士の人間関係も分かる仕組みになっている。 モテない男子の一途さと妄想っぷりは森見登美彦の十八番だが、これまでの作品の中でも本書は格別。 「ほんとバッカだよな〜」と愛情を込めて大爆笑した後は、男の純情にホロリとさせられる。 以下、守田の手紙からの引用。 「でも世の中には、こういう切ない想い出をもつ人がたくさんいる、ということを知っているだけで何だかホッとしませんか」 その通り!この思いを分かち合いたい人々がいる限り、恋愛小説は廃れないのである。 |
恋文の技術 森見登美彦:著 ポプラ社 1,575円 (5%税込) |
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最後に、村田喜代子『あなたと共に逝きましょう』。 主人公は、64歳の夫と62歳の妻。 ある日、夫に動脈瘤があることが分かる。 病気のせいで怒りっぽくなった夫に付き添う妻。 深刻なテーマでありながら、ユーモアも感じさせる円熟味溢れる小説。 本書は、厳密に言えば「恋愛小説」ではない。 闘病小説であり、夫婦小説であり、生死について考えさせられ、現代医療にも問題を投げかけている。 読み手によって色々な読み方をさせてくれる小説なのだが、ラストに描かれた妻の怒りは、夫への愛情以外の何物でもない。 ホレたハレたの恋愛の先にある、深い愛を見せてくれる「超」恋愛小説と自分は受け取った。 本書には近年稀に見る美しいラブシーンが登場する。 最近トキメキが少ないと嘆いておられる団塊の世代の方々に、心からオススメしたい1冊だ。 |
あなたと共に 逝きましょう 村田喜代子:著 朝日新聞出版 1,680円 (5%税込) |
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文・読書推進委員 加藤泉
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