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第2回 2006年5月31日 |
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お父さんの気持ちが分かる本 |
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6月第3日曜日は父の日。 5月の母の日に比べると、印象が薄いことは否めない。 そういえば、リリー・フランキー『東京タワー』の副題も「オカンとボクと、時々、オトン」だ。 オカンに比べると、オトンはどうも分が悪い。 こんなことを考えていたら、俄然、世のお父さんたちを応援したくなってきてしまったので、今回はお父さんの気持ちに近づける本をご紹介しようと思う。 もちろん、父の日のプレゼントとしてもおすすめだ。 初めに、伊井直行『青猫家族輾転録』。 語り口が軽妙なので騙されてしまいそうになるが、実に複雑で奥の深い小説だ。 商社に入り、リストラされ、小さなネット事業会社を興し、"失われた10年"と呼ばれる90年代を乗り切った主人公。 51歳になった彼の、社会人としての顔、家庭人としての顔、死にゆく元同僚の前で見せる顔、今は亡き叔父に語りかける顔が、同時進行で描かれている。 年齢を重ねていくうちに、人は多くの「顔」を持つようになるのだと、この本を読むとしみじみ思う。 人は誰でも自分だけのドラマを持っている、そう感じさせてくれる小説が個人的に好きだ。 『青猫家族輾転録』はまさにその類の小説だ。 本書を読むと、道ですれ違うおじさん1人1人が眩しく見えてくる(薄くなった頭が、という意味ではない)。 重松清『娘に語るお父さんの歴史』は、43歳の主人公が中学生の娘に自分の歴史を語って聞かせる物語だ。 主人公が1963年生まれ、というところがポイントで、彼の歴史を辿るということは即ち戦後日本の歩みを振り返ることに繋がっていく。 テレビの登場は日本の家庭をどう変えたか? 核家族(『パパママ家族』と主人公は呼んでいる)の裏に隠された意味とは? 主人公の考察には、なるほどと思わせられるものがある。 ちくまプリマー新書なので若い世代に向けられたメッセージ性が強い本ではあるが、優れた時代評にもなっているので、大人の方にもぜひ手に取っていただきたい。 40代のお父さんは必読の1冊。 最後に、三浦しをん『まほろ駅前多田便利軒』。 主人公は、東京都まほろ市(町田市がモデル)で便利屋を開業している多田。 彼のもとに高校時代の同級生の行天という変な男が転がり込むところからこの物語は始まる。 彼らが請け負うのは「そんなこと自分でやれよ」と思うような依頼ばかりなのだが、その仕事が意外な事件に繋がっていくところが面白い。 登場人物たちのキャラクターが際立っていて賑やかな印象のある小説だが、本書はかつて〈父親〉だった男が抱える虚しさと、彼の再生を描いた物語でもある。 本書を読むと、お父さんになるということは、実はとても大変で、尚且つ幸せなことなのかもしれないと実感させられる。 三浦しをんのファンには女性が多いと思うが、ぜひ男性にも読んでほしい。 すがすがしい読後感を与えてくれる1冊だ。
文・読書推進委員 加藤泉 構成・宣伝課 矢島真理子 |
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