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第13回 2006年11月9日 |
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これから旬の女性作家たち |
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柿のおいしい季節がやってきた。 個人的には、熟れきった柿をじゅるじゅる食すのが昔から好きなのだが、年をとるにつれ、カリコリした柿もまたをかし、という心境に近づきつつある。 本についても同じで、10年くらい前は評価の定まった作家の文庫本ばかり読んでいたのだが、今は熟しきる前の作家の中からお気に入りを見つけて、その作家の変遷(おこがましい言い方をすれば成長ぶり)を追っていくのが、楽しい。 今回は、皆様にもこの楽しみをおすそ分けしたく思い、今がお買い時の作品をご紹介しようと思う。 大島真寿美『虹色天気雨』は、40代の女性の友情を描いた作品。 人は年齢を重ねるにつれ諦めることが上手くなっていくものだと思うが、それは決して恰好悪いことではなく、他人への優しさの上に成り立つ処世術なのだ、と気付かされる。 それを分かり合える友人の、何と貴重なことか。 30歳を過ぎてから誕生日を迎えるのが憂鬱になりつつある私は、なんだ、年をとるのもそう悪くないじゃないか、と本書を読んで思った次第。 『香港の甘い豆腐』『ほどけるとける』を読んだときにも感じたことだが、大島真寿美の作品には、大切なのは「ここではない何処か」ではなく、今自分が立っている「ここ」なのだ、と思わせる力がある。 中島京子『均ちゃんの失踪』は、面白くて時々胸がチクリと痛む、人生のエッセンスが詰まった1冊。 失踪した「均ちゃん」という男の家に空き巣が入り、警察に呼ばれた3人の女達。 彼女たちのキャラクターが立っている。 かつて均ちゃんと結婚していた50代の美術教師、均ちゃんを「パート彼氏」と呼ぶ36歳の重役秘書、そして均ちゃんの恋人(と本人は思っている)20代の編集者。 面白いのは、年代の違う彼女たちそれぞれが各章の主人公になっており、この3人が築いていく奇妙な関係が笑いを誘う。 前々から中島京子の感性には舌を巻いていたが、これに平安寿子のようなユーモアが加わり、向かうところ敵なし、といったところ。 『FUTON』『イトウの恋』『ツアー1989』※とはまた違った世界を堪能させてくれる。 ※第3回「作家・中島京子の魅力」もあわせてご覧下さい。 最後に、「文藝」2006年冬号掲載の、綿矢りさ『夢を与える』。 単行本になるまでご紹介するのを待ちきれないほど、この作品には度肝を抜かれた。 「夢を与える」というきれいなタイトルが、読み終わった後はとても悲しく虚しく感じられた。 冒頭の第1章で、幹子と冬馬という若い男女が、すったもんだの挙句、女児をもうける。 唯川恵の『ベターハーフ』のように、子供のためにしぶしぶ夫婦を続ける男女の話なのかなあ、と読み進めていくと、第2章からは、2人の間に生まれた「夕子」という少女の物語になる。 容姿に恵まれた夕子が、"普通の女の子に近いタレント"としてCMに出演し、高校入学と同時に芸能界で大ブレイクし、その頃から夕子の中で少しずつ歯車が狂っていくのだが、その過程にぐいぐいと引き込まれる。 これほど夢中になって読んだ小説は久しぶりだった。 『インストール』も『蹴りたい背中』もだめだった、という方でも、本作を読んだら仰天せずにはいられないだろう。 綿矢りさがすごい小説を書いてしまった、と。 文・読書推進委員 加藤泉 構成・宣伝課 矢島真理子 |
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