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第15回 2006年12月7日

●執筆者紹介●


加藤泉
有隣堂読書推進委員。

仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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 これから旬の男性作家たち
 やどかりとペットボトル・表紙画像
やどかりとペットボトル


池上永一:著
河出書房新社・1,260円

池上永一
プロフィール
1970年、沖縄生まれ。 1994年に『バガージマヌパナス』で第6回日本ファンタジーノベル賞を受賞し作家デビュー。 以来、『風車祭(カジマヤー)』(第118回直木賞候補作)『ぼくのキャノン』『夏化粧』など、沖縄の精神文化を題材にした作品を多数著している。 2005年、近未来SF小説『シャングリ・ラ』が話題になったことが記憶に新しい。
 
  「ててなし子クラブ」収録
われら猫の子・表紙画像
われら猫の子


星野智幸:著
講談社・1,680円

星野智幸
プロフィール
1965年生まれ。 1997年、『最後の吐息』で第34回文藝賞を受賞し、作家デビュー。 2000年、『目覚めよと人魚は歌う』で第13回三島由紀夫賞を受賞。 メキシコに留学経験があり、ラテンアメリカ文学の影響が伺える作品が多い。
   
夜は短し歩けよ乙女・表紙画像
夜は短し歩けよ乙女


森見登美彦:著
角川書店・1,575円

森見登美彦
プロフィール
1979年奈良県生まれ。 京都大学在学中に第15回日本ファンタジーノベル大賞を『太陽の塔』で受賞。 『太陽の塔』は、一部のファンから「I amモリミー!」と熱狂的に支持されている。 京都の骨董屋を舞台にした『きつねのはなし』も発売になったばかり。

※価格はすべて5%税込です。

前々回に"これから旬の女性作家たち(第13回)"と銘打って3人の女性作家たちを紹介させていただいたのだが、女性作家だけ紹介するのは不公平だろうという気がしないでもないので、今回は、今がお買い時の男性作家をご紹介しようと思う。


初めに、エッセイ集『やどかりとペットボトル』が発売になったばかりの池上永一。
奇想天外な作品を書き続けるこの作家のエッセイを読んでみたいとかねがね思っていたので、本書は最初から最後まで一気に読んだ。
ブラックな笑いをお好みの方にはきっと気に入っていただける1冊だと思う。

特に、著者の幼い頃の思い出を綴った章は抱腹絶倒もの。
私が最も笑ったのは、幼稚園で池上少年と友人達がお姫様の絵を描いていて、それがいつの間にか魔女裁判の絵巻きになっているところ。
こういった幼児体験がこの作家を作り上げたのか、と妙に納得させられた。

また、沖縄未体験、池上作品未体験の方には、本書の第3章「オキナワンライフ」を読んでから池上永一の小説をお読みいただきたい。
沖縄文化と池上作品の魅力にとりつかれること、うけあい。
かく言う私も池上永一の作品を通じて沖縄の虜になった1人だが、以下のようにウチナーンチュ(沖縄人)としての真情を時に吐露してしまうこの作家が、本当に好きだ。

「僕たちは米軍基地という服を着せられて、今も戦争におびえている。 この気持ちをわかってほしい。 慰霊の日になると、沖縄に新しい服を着せてくれと切に願わずにはいられなくなるのだ」(『やどかりとペットボトル』P147)


星野智幸の「ててなし子クラブ」という短編を読んだのは、今年の初めに雑誌「文藝」(河出書房新社)に掲載された時のことだ。
一読して、この作品が芥川賞を獲ると私は勝手に確信していたので、ノミネートもされていないことを知った時は(たぶん)著者以上にショックを受けた。
その「ててなし子クラブ」が収録されている短編集『われら猫の子』が、このほど発売になった。

星野智幸が描く人物たちは、いずれも何らかの"生き辛さ"を抱えており、何とかして現実と折り合いをつけていこうと足掻いている。
たとえば、「ててなし子クラブ」では、父親と死別した少年少女が集って、あたかも父親が存在するかのように会話をする。
「俺もさ、たまにおやじの背中とか指圧してやるんだけど、治らないんだよ、死人だから」という具合に。

星野智幸の作品を読んでいると、普段なるべく向き合わないようにしている、"生まれてきてすみません"的な暗い感情が呼び起こされる。
能天気に暮らしている私のような者は、こういう小説を読んで打ちのめされることも時には必要だし、一方、同じような鬱屈を抱えている方には、相当のカタルシスを星野作品は与えるだろう。
今の時代に必要とされている作家だと思う。
余談だが、今年話題になった画集『石田徹也遺作集』に描かれた世界は、星野智幸の世界と相通ずるものがあると私は思っている。


最後に、自分のことを"モテない男"だと思い込んでいる男子の皆様には、森見登美彦を強くオススメしたい。

新刊『夜は短し歩けよ乙女』は大学の後輩に片想いをしている京大生が主人公。
「ナカメ作戦」(「なるべく彼女の目にとまる作戦」)と称して、何とか彼女の気を引こうとする彼の奮闘振りが、とても微笑ましい。
また、彼の思い人である「黒髪の乙女」の天然キャラが際立っていて、読んでいるとほのぼのとした気分になる。
帯の「大傑作。 文句なしに今年の恋愛小説ナンバーワン」(大森望氏)に私も諸手を挙げて賛成したいが、これから読まれる方には、かなり奇妙奇天烈な小説であることはお断りしておきたい。
高橋留美子『うる星やつら』の地球人ヴァージョンと思っていただければよいと思う。

太陽の塔』は男臭さが強烈で、引いてしまった女性は多いかもしれないが、本書は婦女子の皆様にも自信を持ってオススメできる1冊。
陸上小説一騎打ちと下馬評の高い本屋大賞レースに、強力なダークホースが登場したのではなかろうか。



文・読書推進委員 加藤泉
構成・宣伝課 矢島真理子

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