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第16回 2006年12月21日 |
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今年の5冊 〜インスパイリング・ブックス〜 | |||||||||
2、3年前あたりから去年までは「泣ける本」が巷に溢れており、その流れに乗って私も本を読んでは号泣していたものだった(余談だが去年は、重松清『きみの友だち』を読んで頭が割れるかと思うくらい泣いた)。 それがどうしたことだろう、今年の読書日記を読み返してみると、「泣ける本」が全く見当たらない。 分析してみると、「勇気を与えてくれる本」、あるいは「自分を鼓舞してくれる本」、「自分の中に眠っている何かを目覚めさせてくれる本」を求めていた1年だったように思う。 今年もたくさんのすばらしい本に出会えたが、その中でも、"最もインスピレーションを与えてくれた本"という括りで、今年の5冊を選ばせていただこうと思う。 | ||||||||||
風が強く吹いている 1,890円 (5%税込) |
《国内小説部門》 三浦しをん 『風が強く吹いている』 (新潮社) 今年の下半期に青春陸上小説がブームのように出版されたが、中でも『風が強く吹いている』は忘れられない1冊になった。 ある大学の弱小陸上部が箱根駅伝に出場する、というただそれだけの小説に何故これほど惹かれるのかと言うと、それは、この本がどの人間にも当てはまる普遍的なことを描いているからだ。 人間にとって一番大切な「強さ」とは何か、ということを。 この本を読んで、自分も強くなりたい、と切に思った。 本書を未読の方は、今年中に是非お読みいただきたいと思う。 来年の箱根駅伝が10倍楽しめることは間違いない。 ちなみに私は、元旦に本書を読み返して、2日は『観る歩く応援する箱根駅伝まるごとガイド』(昭文社)持参で沿道応援にくりだす予定である。 | |||||||||
テヘランで ロリータを読む 2,310円 (5%税込) | 《海外小説部門》 アーザル・ナフィーシー 『テヘランでロリータを読む』 (白水社) 第11回ですでにご紹介した本だが、読み終わってから時が経つにつれ、"なんだかすごい本を読んでしまったのではなかろうか"という思いがますます強くなっていった1冊。 数年前、石垣島を旅した時に出会ったタクシーの運転手さんに、「自分は字が読めないから本を読めるなんてすごいねー」と言われて衝撃を受けたことがある。 彼のように本をまったく必要としない人もいれば、『テヘラン』の女たちのように水や空気と同じくらい本を必要としている人もいるということを、書物に携わる末端の人間として覚えておこうと肝に銘じた。 | |||||||||
のりたまと煙突 1,850円 (5%税込) | 《エッセイ・ノンフィクション部門》 星野博美 『のりたまと煙突』 (文藝春秋) 5年前、『転がる香港に苔は生えない』で第32回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した著者のエッセイ集。 日常の何気ない出来事の中に深い意味を見出す著者の感性に、ただただ圧倒された。 同じ風景を見ても、著者と自分は全く違うことを感じるのだろうと、ある意味、挫折感さえ覚えた1冊。 今年出会えた作家の中でも、星野博美と高野秀行の本はこれからも読み続けていこうと心に決めた。 | |||||||||
石田徹也 遺作集 3,150円 (5%税込) | 《美術書部門》 『石田徹也 遺作集』 (求龍堂) 去年、31歳の若さで亡くなった画家の遺作集。 ページを開くと、見てはいけないものを見てしまったような気分になる。 普段考えないようにしている「生きづらさ」のようなものを突きつけられ、胸が痛む。 だが鑑賞し続けていくと、泣きたいような、懐かしいような気持ちが湧いてくる。 "自分は独りではないのだ"という思いが。 これこそ真の〈癒し〉なのではないだろうか。 | |||||||||
押忍!手芸部 1,470円 (5%税込) | 《実用書部門》 『押忍!手芸部』 (池田書店) 正直に告白すると、私は編み物や洋裁などの類にまったく興味がない。 何せモットーが、"買ったほうが速い"なもので。 そんな私が今年の秋に実用書担当になり、手芸の棚を触るようになったのだが、編み物やパッチワークの本を熱心に立ち読みなさるお客様の隣にいると、女として劣等感を覚えることがしばしばある。 が、この『押忍!手芸部』という本に出会い、"これでいいんだ"と大いに勇気をもらった。 この、日本一男前な手芸部の教訓の一部をご紹介すると、「完成図やデザイン画を描かない」「型紙を作らない」「計りは使わない」「待ち針は使わない」「まっすぐ縫おうとしない」。 そうして出来上がった作品群の大胆なことと言ったら! 何事も"楽しんだ者勝ち"と、本書に出会ってつくづく思った次第だ。 | |||||||||
文・読書推進委員 加藤泉 構成・宣伝課 矢島真理子 |
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