本の泉 清冽なる本の魅力が湧き出でる場所…

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第18回 2007年1月25日

●執筆者紹介●


加藤泉
有隣堂読書推進委員。

仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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  平成の『わるいやつら』

【今回の登場人物】
厚木店・佐伯敦子/営業推進室・安田信之/西口店・富澤明子
藤沢店・菅野貴子/読書推進委員・加藤泉

加藤:   皆様、こんにちは。 今回は、第12回でご登場いただいた「本の泉の愉快な仲間たち」にお越しいただいております。 顔ぶれが若干、替わっていますが…。
  華麗なる一族 上・表紙画像
華麗なる一族 上
(新潮文庫)

山崎豊子:著
(新潮社)
860円

中巻・820円
下巻
・780円

わるいやつら 上・表紙画像
わるいやつら 上
(新潮文庫)

松本清張:著
(新潮社)
700円
下巻・740円

螺鈿迷宮・表紙画像
螺鈿迷宮
海堂尊:著

(角川書店)
1,680円


チームバチスタの栄光・表紙画像
チームバチスタの
栄光
海堂尊:著
(宝島社)
1,680円

ナイチンゲールの沈黙・表紙画像
ナイチンゲールの
沈黙

海堂尊:著
(宝島社)
1,680円

底なし沼・表紙画像
底なし沼
新堂冬樹:著
(新潮社)
2,100円

無間地獄 上・表紙画像
無間地獄 上
(幻冬舎文庫)

新堂冬樹
:著
(幻冬舎)
680円
下巻・630円

黒い太陽・表紙画像
黒い太陽
新堂冬樹
:著
(祥伝社)
2,205円

弥勒の月・表紙画像
弥勒の月
あさのあつこ:著
(光文社)
1,680円

長い散歩・表紙画像
長い散歩
安藤和津:著
(学習研究社)
1,680円

グロテスク 上・表紙画像
グロテスク 上
(文春文庫)

桐野夏生:著
(文藝春秋)
620円
下巻・660円

赤い指・表紙画像
赤い指
東野圭吾:著
(講談社)
1,575円

独白するユニバーサル横メルカトル・表紙画像
独白する
ユニバーサル
横メルカトル

平山夢明:著
(光文社)
1,680円

※価格はすべて
税込です。
安田:   どーもー。 お久しぶりでーす。 正月に浮かれて、酔って転んで右手の骨を折った安田でーす。
 
富澤:   酔って転んで骨を折っただけ、って、一大事じゃないですか! でもお元気そうで何よりです。 最近、書店の店頭で何か気付かれたことなどありますか?
 
安田:  

相変わらず小説やコミックの映像化が多いですねー。

 
菅野:   そうですね。 木村拓哉主演のドラマ『華麗なる一族 ()』は、放送の翌日から原作の文庫本が飛ぶように売れています。
 
佐伯:   そういえば、今月の19日から松本清張原作のドラマ『わるいやつら ()』も始まりましたね。
 
加藤:   はい。 私は高校生の頃、「オトナの世界って怖〜い! 」と震えながらも夢中でこの本を読んだ記憶があります。
 
安田:   松本清張は、顔は怖いけどとても優しい人で、知り合いの編集者が入院した時も快気祝いで配るからと頼まれ100冊サイン本をつくったりと、とてもいい人だったと聞いています。 それが今見直されている理由の一つなんでしょうねー。
 
加藤:   いい話ですねぇ。 …そうだ、いいことを思いつきました! 今回のお題は「平成の『わるいやつら』」にいたしましょう。 皆さんが最近読んだ本の中で「ここにもこんなに悪いやつがいる!」と思った小説をご紹介してください。 いきなりですが佐伯さん、お願いします。
 
佐伯:   むむむ。 けっこう難しいですね。 「連想ゲーム」の檀ふみになった心境です。 そうですねぇ、「わるいやつら」として、まず思い浮かぶのは、詐欺師、金貸し、極悪非道人。 でも、「平成のわるいやつら」とくるのなら医療現場での「わるいやつら」も付け加えておきたいと思います。 というわけで、海堂尊の『螺鈿迷宮』を挙げたいです。
 
富澤:   チームバチスタの栄光』『ナイチンゲールの沈黙』など医療ミステリーを描き続ける著者の三作目ですね。
 
佐伯:   そうです。 「この病院は、死人が出過ぎる。」という黒い噂の桜宮病院に、主人公、天馬は看護ボランテイアとして内情をスパイするために送り込まれます。 医者といえば、病気を治してくれる神様のような存在だったのはいつの頃か、いつのまにか人の生と死を自分の私腹のためにコントロールする輩に成り下がってしまっています。 病院経営は、目的を見間違うととんでもない方向に向かっていくものだと本書を読んで実感しました。
 
加藤:   さすが佐伯さん、目の付け所が違いますね。
 
佐伯:   えへへ。 もっとストレートに、騙し騙され、はめるのはめられないのとヤクザな世界を書かせて右に出るものなしは、新堂冬樹。 『底なし沼』は『無間地獄 ()』の悪夢再来。 『黒い太陽』から、新堂冬樹を読み始めた方には、過激な暴力シーンは、少しきついかもしれませんが、これが本当の新堂ワールドです。
 
加藤:   新堂冬樹は、犬やイルカが表紙に使われているほのぼの系のお話よりも、こういった作品群のほうがはるかに面白いですね。
 
佐伯:   はい。 『底なし沼』は、結婚相談所での「騙しの手口」満載で、騙されないための知識を得るには結構役に立つ一冊かもしれません。
 
安田:   ほほぉ。 勉強になりそうですねー。 私は時代小説から、あさのあつこの『弥勒の月』をご紹介します。
 
菅野:   あさのあつこは現代小説よりも時代小説で花開きそうですよね。
 
安田:   そうですねー。 現代小説でやると軽くなってしまう描写も時代劇だとなんてハードボイルドになるのでしょう。 藤沢周平のファンだというだけのことはありますね。 情の世界、妄執と男の色気、どろどろの暗黒の世界の中、一筋の光が許せないものを強く感じさせ悪党を強調しています。 悪という概念すら持ち合わせていない悪党には背筋がゾッとします。
 
富澤:   悪党が悪党であればあるほどヒーローが輝く。 闇が暗ければ暗いほど光の輝きが増す。 メリハリのよさが爽快ですね。
 
加藤:   そう言う富澤さんにとっての「わるいやつら」とは?
 
富澤:   普段あまり「こいつ、極悪人だろ」って思う人物に出会わないのと同じように、「わるいやつ」が出てくる小説ってあまり思い浮かばないものですねー。 うーん、安藤和津『長い散歩』の主人公、安田松太郎なんかはいかがでしょう?
 
菅野:   どの辺りが「わるいやつ」なんですか?
 
富澤:   彼が「わるいやつ」だという所以は、(1)家庭内暴力 (2)傷害 (3)少女誘拐の3つなのですが、私が特に「こいつ、悪いやつだなぁ」と思うのは、自分の正義の為にやっていることならこういうことをしても悪くないと思ってるところです。
 
佐伯:   なるほど。
 
富澤:   少女サチを母親の虐待から救う為だったとしても、それを自分の贖罪と一緒にしちゃダメだろうと、つっこみたい。 「お前を中心に世界は回ってないんだ〜!」って一度声をかけてあげたいです。
 
加藤:   富澤さんらしい真っ直ぐなご意見ですね。 さて、先ほどから皆さんお気づきになっていることと思いますが、今回はフレッシュな新メンバーにご参加いただいています。 藤沢店の菅野貴子さんです。
 
菅野:   はじめまして。 藤沢店で文庫を担当しています。
 
加藤:   いかがでしょう?「平成の『わるいやつら』」、何か思いつきますか?
 
菅野:   「わるいやつら」と聞いてピンときた作品といえば、桐野夏生の『グロテスク ()』です。 最近の本でなくてすみません!
 
安田:   いいよ、いいよ。 9月に文庫になって、まだまだ売れてるもんねー。
 
菅野:   この小説には「わるいやつら」しか登場しません。 簡単に主人公の女3人をご紹介します。 まず、誰よりも嫉妬深くて悪意丸出しの「わたし」。 次に、「わたし」の妹で、怪物的な美しさを持ち、その美しさを武器に子供の頃から売春行為を繰り返す「ユリコ」。 最後に、美しいユリコを崇拝し、自分が一番になるためならどんな悪行でもする欲深い女「和恵」。
 
佐伯:   どれも強烈なキャラクターですよね。
 
菅野:   はい。 実際に起きた東電OL殺人事件を元に、娼婦になったユリコと、昼はOL、夜は娼婦の和恵が殺され、「わたし」が彼女達を悪意たっぷりに語りながら回想していくところから始まります。 彼女達の転落人生をまさに”グロテスク”に描いた作品です。
 
加藤:   解説が上手ですね、菅野さん。 「本の泉の愉快な仲間たち」の一員として、これからもよろしくお願いします。
 
菅野:   ありがとうございます! ところで加藤さんにとっての「わるいやつら」は?
 
加藤:   私は、とてもベタなのですが、東野圭吾『赤い指』の家族ですね。 子供の犯した殺人を隠蔽するために主人公が奔走するんですが、刑事の追及から逃れられなくなったとき、ある人に罪を被せようとするんです。 人道に悖る行為とはまさにこのことだと思いました。 読みながら「バカッ!」って何度も叱っちゃいました。
 
佐伯:   バカ…。 けっこう語彙が貧困なんですね、加藤さん。
 
加藤:   えへへ。 あと、もう一つどうしても挙げておきたい作品があります。 平山夢明『独白するユニバーサル横メルカトル』です。
 
富澤:   「このミステリーがすごい」の1位だった短編集ですね。
 
安田:   あれは、グロかったねー。
 
加藤:   そこなんです! たぶん「このミス1位」の冠につられて購入した読者は度肝を抜かれたと思います。 他人の○○を××したり、××を○○したり…。 ああ、とても言葉には出せない単語ばかりです。 あの本は一部の愛好家だけで楽しむべきであって、けっしてメジャーにしてはいけないんです! あの本を1位にした選考委員こそ「平成のわるいやつら№1」です!
 
佐伯:   そういうオチですか。

 
       
       
       
       
       
       
       

文・読書推進委員 加藤泉
構成・宣伝課 矢島真理子


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