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第27回 2007年6月7日 |
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〜嗚呼、学生時代〜 | |||||||||
ハンカチ王子こと斎藤佑樹投手の人気が衰えない昨今、東京六大学野球の応援も盛り上がりを見せている。 私も神宮球場まで観戦に行ったりテレビで早慶戦を観たりしたのだが、プレーしている選手たちはもちろん、彼らを応援している学生達の姿も眩しく思えてならなかった。 でも森田公一とトップギャランが歌っていたように、青春時代を夢だと思えるのは卒業してから何年も後のことであって、今その真っ只中を生きている彼らは、道に迷うことばかりなのかもしれない。 今回は、迷える現役大学生諸君と、学生時代を遠い目で思い出す世代の諸兄にオススメの本をご紹介しようと思う。 |
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まず最初に、青春小説の新たな名手と私が勝手に呼んでいる、豊島ミホの新刊『神田川デイズ』。 イケてない大学生達の日常を描いた連作短編集だ。 どれぐらいイケてないかは本書の表紙の絵を見てご確認いただきたい。 著者はこれまでに、『檸檬のころ』や『エバーグリーン』などで田舎系な青春を瑞々しく描いてきたが、『神田川デイズ』は東京の大学生達が主人公ということもあって、イマ風な若者描写が冴えわたっている。 こういうヤツいるいる〜と、クスクス笑いながら読み進められるのだが、読み終わった後には、見てはいけないものを見てしまったような痛い感じがじわじわと残る。 根拠のない自信と将来へののしかかるような不安のはざまで、押し潰されそうになっている(なっていた)のは、自分だけではなかったんだな、というホッとしたような、寂しいような思いに捉われてしまった。 どんな選択をしても人生には後悔がつきものだが、学生時代のそれがとてつもない失敗のように思えてしまうのは、学生時代こそ人生でもっとも輝いている季節であるからだと教えてくれる1冊だ。 悶々とした毎日を送っている大学生の方には、是非お読みいただきたい。 |
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イケてない高校生が大学進学を機に自分を変えようとする、という点で『神田川デイズ』の何編かと共通するのが、本多孝好『正義のミカタ』。 高校卒業までかなりひどいいじめられっ子だった主人公が、ひょんなことから入部することになったのは"正義の味方研究部"。 ガッチャマンや仮面ライダーといった正義の味方に萌えるヒーローオタクの部ではなく、学内にはびこる悪を懲らしめるために作られた伝説的な部だ。 スカウト制でしか入部できないこの部の面々のキャラクターが立っていて、のっけからグイグイと引き込まれる。 が、エンターテインメント小説かと思いきや、後半はガラッと雰囲気が変わるので要注意。 タイトルが「正義のミカタ」となっているのがミソで、本書の前半が「正義の味方」だとするならば、後半は「正義の見方」を描いた小説であると言える。 入学後1ヶ月で「井の中の蛙」である自分に気づいてしまった主人公の姿に、現役大学生の皆さんが何を感じるのか伺いたいところ。 |
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この「本の泉」では、3ヶ月以内に出版された単行本の中から、おすすめの文芸書を紹介しようと心掛けているのだが、今回は特別に文庫本の中から1冊ご紹介。 禁忌を犯してまでご紹介したい本とは、乾くるみ『イニシエーション・ラブ』だ。 本書は前半と後半に分かれている。 前半(Side A)は、大学生の「たっくん」と歯科衛生士の「マユ」が合コンで出会ってラブラブなクリスマスイブを過ごすまでが、後半(Side B)は「たっくん」が就職して上京し、遠距離恋愛の悲しい結末が描かれている。 …と書いたら、ただの恋愛小説かと思われるかもしれないが、それは大きな間違い。 この80年代風恋愛小説にはとんでもない「仕掛け」が施されている。 1回目と2回目に読むのでは、全く違う物語を味わうことになるほどの大驚愕本なのだ。 目次を見ただけで「仕掛け」に気づいた老練な本読みもいると聞いているが、私は最後の2行を読むまで騙され続けた。 本書を読んだのは、実は3年前のことなのだが、読み終わって数秒後、「仕掛け」にようやく気づいた時は、「見事に騙された!ぎゃはあ!」と自分のあまりの騙されっぷりに大爆笑したことを昨日のことのように覚えている。 よくこんな小説思いついたなぁと感心してしまうほどの大ドンデン返し本だが、かなり辛辣で含蓄深い超弩級の恋愛小説でもある。 大学生の皆さん、くれぐれも遠距離恋愛にはお気をつけ下さい。 |
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※価格はすべて5%税込です。 | ||||||||||
文・読書推進委員 加藤泉 構成・宣伝課 矢島真理子 |
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