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第35回 2007年10月4日


●執筆者紹介●


加藤泉
有隣堂読書推進委員。

仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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〜注目!エンターテインメント時代小説〜

畠中恵の「しゃばけ」シリーズが大ブレイクして以来、エンターテインメント系時代小説が注目を集めているが、この秋、その『しゃばけ』がドラマ化されたりして、ますます人気を集めそうな予感で胸がいっぱいの今日この頃である。
今回は、時代小説ってなんか難しそう…と敬遠している若い読者の方々にも楽しんでいただけそうな時代小説をご紹介しようと思う。
 
  
 まず初めに畠中恵の最新刊『つくもがみ貸します』。

本書の舞台は、江戸・深川。
主人公はお紅と清次の姉弟。
人々に物品を貸し出す"損料屋"を営む彼らは様々な品物を所有しているのだが、その中のいくつかは、"つくもがみ"である。
付喪神(つくもがみ)とは、生まれて100年を経て妖(あやかし)の力を得た古道具のこと。
この付喪神たちを仲介して、難事件が解決されていく連作短編集。

畠中恵の出世作「しゃばけ」シリーズでも付喪神が活躍したが、『つくもがみ貸します』では、主人公と付喪神たちとの間に主従関係はなく、歯に衣着せぬ彼らの本音が思う存分楽しめる。
シリーズ化したら、「しゃばけ」に匹敵するシリーズになることと思う。
下手をすると「しゃばけ」シリーズよりも面白いかもしれないので、今のうちに多くの人に是非お読みいただきたいと思う。
 
 
つくもがみ貸します・表紙画像
つくもがみ貸します

畠中恵:著
角川書店
1,470円
(5%税込)

 次に、畠中恵と同じく日本ファンタジーノベル大賞出身の作家、西條奈加の『烏金』を。

"烏金"とは日銭貸しのことで、「明烏のカァで借り、夕方のカァで返すことからこう呼ばれる」とのこと。
日銭貸しを営むお吟のもとで、浅吉という青年が働くことになる。
この2人の間にある因縁が徐々に明らかにされていくあたりはミステリー仕立てとなっているが、本書の面白さはプロジェクトⅩさながらの、浅吉の手腕にある。
彼は加重債務者からきちんと借金を取り立てるばかりでなく、彼らがきちんと生活を送っていけるように知恵を与えるのだ。
なので、普段ビジネス書しか読まない方にも本書はお楽しみいただけると思う。

デビュー作『金春屋ゴメス』では、ゴメスの登場シーンで「ぃよっ!待ってました!」と多くの読者に言わしめたことはよく知られるところではあるが、登場人物がここぞという場面で啖呵を切るのが、西條奈加作品の一番の魅力だ。
今回も読んでいて胸がスカッとする啖呵が随所にちりばめられているので、鬱屈した日々をお過ごしの方には『金春屋ゴメス』ともども是非おすすめしたい。
 
 
烏金・表紙画像
烏金

西條奈加:著
光文社
1,470円
(5%税込)

 最後に、とっておきの作品、荒山徹『柳生百合剣』を。

あまりの素行の悪さに、父・柳生宗矩から蟄居の命令を受けている柳生十兵衛が本書の主人公。
十兵衛が不如意の日々を送っているところに、謎の念仏僧集団が「断脈の術」なる妖術を使って柳生一門を破滅させようとする。
御家存続のため十兵衛が奔走する、というのが大まかなあらすじなのだが、笑いどころ満載で、特にラストは、ここで紹介するのが憚られるほどハチャメチャな展開になる。

前作『柳生薔薇剣』では、十兵衛の姉・矩香(のりか)の活躍が中心だったが、本書では十兵衛の破天荒ぶりが、思う存分堪能できる。
本書の柳生十兵衛のキャラクターは、「柳生」あらため「野牛」とでも言ったらいいのか、あまりにもワイルドなので、エンターテインメントとしてかなり楽しめる。
本書は「柳生十兵衛誕生400年記念作品」だそうだが、これを見たら十兵衛は草葉の陰で嘆くのではないか、と心配にもなる1冊だ。
いや、本書のキャラクターどおりの十兵衛だったら、きっと大笑いしてくれるだろう。

今月末には『柳生大戦争』も刊行予定とのこと。 荒山徹&柳生十兵衛コンビから、ますます目が離せなくなりそうである。
 
 
柳生百合剣・表紙画像
柳生百合剣


荒山徹:著
朝日新聞社
1,785円
(5%税込)
 

文・読書推進委員 加藤泉
構成・宣伝担当 矢島真理子

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