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第43回 2008年2月7日


●執筆者紹介●


加藤泉
有隣堂読書推進委員。

仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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〜家族小説はいかが?〜

新しい年を迎えたと思ったらあっという間に1月が去り、時の経過のあまりの速さに呆然としている方も多いことだろう。
旧暦で1月は「睦月」だが、これは、新年に家族が集まり仲睦まじく過ごすことが由来とされているらしい。

今回は過ぎ去った睦月を惜しむ気持ちで、家族にまつわる小説を3冊ご紹介しようと思う。
 


 まず初めに、中島京子の最新刊『平成大家族』。

本書の舞台となる緋田家は72歳の龍太郎を主に、妻の春子、姑のタケ、30歳で引きこもりの長男の4人で静かに暮らしていたのだが、破産した長女一家が転がり込み、出戻りの次女はシングルマザーになると宣言する。

あらすじだけ読めば、橋田寿賀子のホームドラマのような話に思われるかもしれないが、本書のすごいところは、〈家族〉にまつわる至極当然なことを、圧倒的な説得力をもって表現している点だ。
たとえば、
どんなに平凡に見える家族でも、それぞれ何らかの悩みを抱えているということ、
家族とは、一番身近にいるのに一番分からない存在であるということ、
些細なことの積み重ねが家族を作っていくということ、等々。
当たり前のことで読者を共感させる、これはもっとも難しいことなのではないかと思う。

中島京子は前々から「巧い」作家であるが、この『平成大家族』は著者の最も良い面が最高の形で表れたのではないだろうか。
本書で大ブレイクしてくれることを切に願う。
 
 
平成大家族・表紙画像
平成大家族

中島京子:著
集英社
1,680円
(5%税込)

 今まで読んだ中で一番面白かった家族小説は?と聞かれたら、平安寿子の『グッドラックららばい』と即答する準備はいつでもできている。 と言っても、一度も尋ねられたことはないのだが。
その平安寿子の新刊『風に顔をあげて』は、『グッドラックららばい』とはまた違った意味で〈家族〉がテーマになっている。

主人公の風実(ふみ)は25歳のフリーター。
理想主義で身勝手な母親から逃れるかのように、高校卒業と同時にフリーターの道を歩み自活しているのだが、このまま転々とアルバイトをしていていいのだろうかと悩み始めている。 そんな折、ホモであることをカミングアウトした弟が風実のもとに転がり込んでくる。
その後数ヶ月の間に、この姉弟がいかに成長するかを描いたのがこの物語だ。

特に、恋の悩みと仕事への不安で頭の中がいっぱいだった風実が、それ以上に大事なものがあるということに目覚めるのが本書の肝だ。
それは、「家族じゃないのに家族のように、人生に寄り添ってくれる人たち」の存在。
〈家族〉の定義は人それぞれだろうが、この言葉はとても素敵だ。

本書は変化球の家族小説だが、とびきり元気が出るお仕事小説でもある。
道に迷っている20代の方には是非読んでほしいと思う。
何よりタイトルがいいじゃないか。

 
 
風に顔をあげて・表紙画像
風に顔をあげて

平安寿子:著
角川書店
1,470円
(5%税込)

 最後に新人作家の中から、原田ひ香『はじまらないティータイム』。

思うところあって親族の結婚式に出席しない、というのは穏やかならぬ事態であるが、本書はまさに、略奪愛のうえ出来ちゃった婚の甥の結婚式など出席するものか、と初老のミツエという女性が息巻いている場面で幕を開ける。
ミツエは元妻の佐智子に同情しきりだ。
一方、略奪した側の里美という女性は、自分は努力して欲しいものを手に入れただけなのに何故祝福してくれないのだ、とミツエの娘の奈都子に直談判する。

こうしてあらすじを書いていると、また木曜夜9時のドラマの説明をしているような気分になってくるのだが、女性4人のキャラクターが立っているのに加え、ミツエ—佐智子、里美—奈都子という組み合わせが面白く、ぐいぐいと引き込まれてしまう。

本書の中で特に印象的だったのが、佐智子が持つ、ある「秘密」だ。
ネタばれになるので詳細は割愛するが、器としての〈家〉に対する愛おしさがじんわりと伝わってくる。
住む人の息遣いが感じられる無人の家の描写は、向田邦子の小説を彷彿させるほどだ。

本書は第31回すばる文学賞受賞作で、選考委員の高橋源一郎氏が評しているように通俗に徹したような作品なのだが、「秘密」のくだりがもたらすある種の郷愁が、作品全体を温かい色に変えているのだと思う。
いい小説だ。
 
 
はじまらないティータイム・表紙画像
はじまらない
ティータイム


原田ひ香:著
集英社
1,365円
(5%税込)
 

文・読書推進委員 加藤泉
構成・宣伝担当 矢島真理子

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