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第44回 2008年2月21日

●執筆者紹介●


加藤泉
有隣堂読書推進委員。

仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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〜この新人作家を応援したい〜

先月、第138回芥川賞が発表になり、受賞作家の川上未映子さんが話題になっている今日この頃。
ベテラン作家や中堅作家の中にもいい仕事をしておられる方はたくさんいるので、芥川賞に限らず、新人作家にばかり世間の目が集まるのはあまり良い傾向だとは思わないのだが、それでも、読者の応援を一番必要としているのは新人作家であるというのも否めない事実。
というわけで今回は、今この新人作家を応援したい!と思った作家の3冊をご紹介したい。
 


 まず最初にご紹介する小川糸は、浜田省吾らと音楽を制作していた作詞家で、先月『食堂かたつむり』で作家デビューを果たしたばかり。
この『食堂かたつむり』が、今じわじわと話題になってきている。

インド人の恋人に家財道具一式を持ち逃げされた主人公が、10年ぶりに故郷に戻り、1日1組限定の食堂を開く。
その食堂の料理を食べると、恋や願い事が叶うという噂が次第に広まっていく…。

この内容紹介や可愛らしい装丁から、とてもハートウォーミングな話を想像する方は多いと思うが、実際はもっと重たいものがこの本には詰まっている。
一言で言えば、人が生きている上でどうしても避けられない「別れ」を描いている小説だ。
〈喪失〉を描いた小説と言ってもいい。
数々の喪失を体験しつつも、厨房に立つ主人公の後ろ姿に、一人で生きていくことの強さと悲しさを教えられる。

また、ラスト近くで、それまで大事に飼っていた豚を屠る場面があるのだが、この描写が壮絶で、人が食べて生きていくことの凄みまで感じさせられる。

気になった方は是非ご一読を。
 
 
食堂かたつむり・表紙画像
食堂かたつむり


小川糸:著
ポプラ社
1,365円
(5%税込)

 次にご紹介するのは、津村記久子。
2005年、「マンイーター」(単行本化にあたり『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞を受賞し、小説家としてデビュー。
新刊『カソウスキの行方』は、デビュー2作目に当たる短編集。

第138回芥川賞候補にもなった「カソウスキの行方」は、本社から倉庫に異動になり、やる気も時間も持て余した28歳のヒロインが、同僚の独身男性と恋愛してみたらどうなるか仮想してみる、という内容。
タイトルの「カソウスキ」とはロシアの偉人の名前ではなく、「仮想好き」のこと。
この「仮想好き」の行方は実ることはないのだが、恋愛感情と友情の間のような、微妙な関係を築くことになる。
このゆるい人間関係は、現代の大多数の若者のリアルだと思う。

津村記久子の秀でている点はディテイルにあり、若者の日常のくだらないような、なさけないような細部をこれでもかとほじくっているところにある。
デビュー作『君は永遠にそいつらより若い』もそうだが、読んでいて脱力するような笑いを催す箇所が多々あるので、そのテの小説が大好きな方には是非お読みいただきたい。

津村記久子は今年ブレイク必至の作家の一人である。
 
 
カソウスキの行方・表紙画像
カソウスキの行方


津村記久子:著
講談社
1,470円
(5%税込)

 最後にご紹介するのは、吉永南央。
2004年、「紅雲町のお草」でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、この作品も含めた『紅雲町ものがたり』が発売になったばかり。

73歳のおばあちゃんが持ち前の気の良さから、身の周りで起きる難問題を優しく紐解くように解決していく、という短編集。
ただお年がお年だけに、ご近所を偵察していても徘徊と間違われたり、親友が老いていく姿に愕然としたりする。
先にご紹介した「カソウスキの行方」が働く独身女性のリアルだとすれば、こちらにはお年寄りのリアルが描かれている。

著者はいったい何歳なのだろうと思って調べてみたら、なんとまだ40代とのこと。
今後の活躍が楽しみな作家が、また登場した。
 
 
紅雲町ものがたり・表紙画像
紅雲町ものがたり


吉永南央:著
文藝春秋
1,500円
(5%税込)
 

文・読書推進委員 加藤泉
構成・宣伝担当 矢島真理子

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