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第46回 2008年3月20日 |
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〜これからの季節、新たなスタートを切る方に〜 | ||||||||
花粉症の方には辛い時季ではあるものの、日ごとに春の訪れが感じられ、心が浮き立つ今日この頃である。 今回は、今春新しい環境に身を投じる方におすすめの3冊をご紹介したいと思う。 |
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まず最初に、アンソロジー『Re‐born
(はじまりの一歩)』を。 宮下奈都、福田栄一、平山瑞穂、豊島ミホといった若手有望作家から、瀬尾まいこ、中島京子、伊坂幸太郎などの人気作家まで、7人の短編が収められている。 『Re‐born』というタイトルどおり、「再生」の意味が込められた短編ばかりだが、宮下奈都のような正統派あり、中島京子のような変化球ありと、読んでいて色んな味が楽しめる1冊だ。 中でも、印象的だったのは豊島ミホの「瞬間、金色」。 この短編には、人はもう一度生まれ変われる、ということを味わわせてもらった。 この春、特に大きな環境の変化はないけれど、何か自分を変えてみたい、と思っている方にも、この本はおすすめしたい。 |
Re‐born (はじまりの一歩) アンソロジー 実業之日本社 1,470円 (5%税込) |
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次に、重松清の短編集『ツバメ記念日
(季節風・春)』。
今後3巻刊行予定の「季節風」というシリーズの第一弾で、〈春〉がギュッと詰まった1冊だ。 「さまざまのこと思い出す桜かな」という芭蕉の名句があるが、本書はまさにその「桜」のようなもので、一編読むごとに、これまでの春、自分が経験してきた出会いや別れをじっくりと思い出す時間を与えてくれる。 今春、大学一年生や社会人一年生になる方には是非お読みいただきたいが、それ以上に、大学卒業して○年も経っています、という方や、入社○年目で何も新鮮ではありません、という方にこの本はおすすめしたい。 忙しくて気がついたら春が終わっていた、となる前にこの本を読んで春をじっくり味わっていただきたいと思う。 まさに旬の1冊。 |
ツバメ記念日 (季節風・春) 重松清:著 文藝春秋 1,470円 (5%税込) |
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最後に、羽田圭介『走ル』を。
去年話題になった近藤史恵『サクリファイス』とは、また違った興奮が味わえる自転車小説だ。 ある夏の日、高校生の男子が八王子の自宅から四谷の高校までなんとなくロードレーサーを走らせ、なんとなく授業をさぼって、そのまま北に向かって自転車で走り続ける6日間。 東京から青森までの道程は、著者の実体験が生かされているらしく、臨場感に満ちている。 「自分の生活圏は自転車で四時間くらいしかかからない短い距離で成り立っているのだと、今になって初めて実感した」という主人公の言葉には、飛行機や電車ではなく自力で旅をした人ならではの思いが感じられ、胸に響く。 道が続く限りどこにでも行ける、という本書のメッセージには人生訓さえ感じるほどだ。 そう、道が続く限りどこにでも行けるのだ。 |
走ル 羽田圭介:著 河出書房新社 1,260円 (5%税込) |
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文・読書推進委員 加藤泉
構成・宣伝担当 矢島真理子 |
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