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第52回 2008年6月19日
●執筆者紹介●
 
加藤泉
有隣堂 読書推進委員。
仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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〜有隣堂スタッフが選んだ2008年上半期ベスト1〜
 
月日の経つのは早いもので、今年も折り返し地点にさしかかろうとしています。
今回の「本の泉」では、「2008年上半期ベスト1」と題して、有隣堂スタッフ有志に、今年の上半期(2007年12月〜2008年5月発行のもの)に読んだ単行本の中から最も心に残った作品を挙げてもらいました。
皆様、読み逃した本はないでしょうか?

どうぞご参考になさってください。

(書名五十音順)

 

 

赤めだか・表紙画像
赤めだか


扶桑社
1,400円
(5%税込)
  赤めだか』 立川談春:著

今年3月、NHK衛星で落語家・立川談志を一挙に9時間放送するという快挙があった。
衛星とはいえ、ひとりの噺家に9時間である!
大勢集まる紅白だって3時間ほどなのに。
逆に、9時間の番組を成立させてしまうのが談志である、ともいえる。
その談志に今から30年ほど前に弟子入りしたのが、この談春。
入門から二つ目になるまでの前座時代を、談志を軸に、さまざまなエピソードを通して語ります。
全編、師匠への畏敬の念がにじみあふれ、さわやかな青春記、成長物語としても読めます。
ちなみに、本書では何かと仇役として登場する志らくは、この本を評して「ウソばっかりなんですから」。

(アトレ目黒店・梅田勝)


愛しの座敷わらし・表紙画像
愛しの座敷わらし


朝日新聞出版
1,890円
(5%税込)
  愛しの座敷わらし』 荻原浩:著

この本は、面白かったです! “普通の家族”の“普通の倦怠感”をコミカルに書かせたら、荻原浩さんほどうまい作家はいないのではないかと思います。
出世路線からはずされた万年ヒラのお父さんは、ド田舎の町に転勤になります。 お母さんは、引きこもりぎみのお祖母ちゃんとの同居に不満ブチブチ。 お姉ちゃんは、プチいじめに遭いながらも、家では反抗期の最中。 小学生の智也は、喘息持ち。
そんな五人家族プラス犬一匹が引っ越したのは、田舎の大きな旧い家。 彼らの前から、その家に居ついていたのは、なんと子供の妖怪の“座敷わらし”。
不可思議なことがたくさん起きて、家族全員がほのぼの翻弄されて、明るさと元気を取り戻していく、とても“やんちゃ”で“キュート”なお話でした!!
(最後の“おとし”も、効いてます。 )

(ヨドバシAKIBA店・佐伯敦子)


それぞれに悩みを抱えたありふれた家族が、東京から田舎の古民家に引越した。 そこで出会ったのは何とも可愛らしい座敷わらし!?
くすくす笑えて、最後にはほろり。
力を入れずに読めるので、疲れた時に少しずつ読みたい方にお薦めします!

(川崎BE店・小林あゆみ)


かもめの日・表紙画像
かもめの日


新潮社
1,680円
(5%税込)
  かもめの日』 黒川創:著

この物語は主人公が登場しない。 群像劇とも違う。 登場人物達を見つめる眼は、人の眼というよりカメラの眼に近い。 宇宙から俯瞰した人工衛星のそれだ。 しかし、その眼差しは繊細で優しさに溢れている。
それぞれの登場人物は苦しみや悲しみを抱えて生きている。 一見何の関係もないそれらの人達が、「かもめ」「通信」「孤独」のモチーフで、次第に繋がってゆく過程は、スリリングで極めて刺激的だ。 文体も抑制されて美しく、伏線もモザイク状に張られていて、読む楽しみを十二分に与えてくれる。 ドラマにしても翻訳しても、新しい評価が出来るであろう小説だ。

(販売促進室・中村努)


カルトローレ・表紙画像
カルトローレ


新潮社
1,575円
(5%税込)
  カルトローレ』 長野まゆみ:著

川上弘美の初期の作品が好きで、江国香織もそこそこ読んでいて、美猫LOVE、 という人は長野まゆみを読まないともったいないです。
残念ながらカルトローレに猫は出てきませんが、猫に負けず魅力的なワタという術師がでてきます。 お楽しみに。
砂漠の町で繰り広げられる物語のトーンはいたって静か。 出来事も事件も不可思議だけど、凪いでいる。
料理の数々が美味しそうで、少しおなかが空きます(笑)。
摩訶不思議という言葉がピッタリの一冊です。

(ルミネ横浜店・富澤明子)


傷物語・表紙画像
傷物語


講談社
1,365円
(5%税込)
  傷物語』 西尾維新:著

今年最高の物語ということなのでラノベから珠玉の1冊を。
西尾維新の最高傑作『化物語()』の前日譚『傷物語』を押します。 物語は西尾維新版『月姫』です、以上。
えー、好きな方はどうぞ。
ん、もう少し詳しくですか?
うーん、吸血鬼物なのですが青春の蹉跌というか、今の若者の絶望感と絡めかなり、きつい話です。 それなのに、ある種さわやかな突き抜けた観のある、後味悪くない不思議な物語です。
人間と吸血鬼の妥協点を、今風の若者が優しすぎる自身の心の強さと弱さに振り回されながら追求していきます。 必然、シーンに妥協はなく、あまりに鮮やかで納得させられる終幕で、やはり西尾維新節炸裂でした。
1冊で物語を見事に締めくくらせた筆力に感嘆の1冊です。 ラノベファンにも、ラノベ初心者、初めの1冊にも、お勧めです。

(ミーナ津田沼店・安田信之)


シズコさん・表紙画像
シズコさん


新潮社
1,470円
(5%税込)
  シズコさん』 佐野洋子:著

…しんどかった。 こんなにしんどい読書は久しぶりだ。
自分の心をナイフで切りとってはぶん投げてよこす佐野洋子。 なるべく当たらないように注意深く読み進むのだが、何度か避け損なって命中する。 そうなったらもう、ただもう泣くだけ泣くしかなかった。
100万回生きたねこ』から30年。
佐野洋子のなかであの物語は今やっと完結したのかもしれない。

(八王子店・吉澤みどり)


ヘルマフロディテの体温・表紙画像
ヘルマフロディテの体温


ランダムハウス講談社
1,575円
(5%税込)
  ヘルマフロディテの体温』 小島てるみ:著

読む人を選ぶ本だと思います。 しかしどうしても推したいのです、この本を!
"真実ではなく、真実として感じさせてくれる途方もないおとぎばなし"が放つ芳しい香り、そして幻想的世界にノックアウトされてしまいました。
同時デビュー作である「最後のプルチネッラ」は、この作品よりエンターテイメント性があふれておりこちらもオススメです。

(小田原ラスカ店・佐藤真)


編集者国木田独歩の時代・表紙画像
編集者国木田独歩の時代 (角川選書)


角川学芸出版
1,785円
(5%税込)
  編集者国木田独歩の時代』 黒岩比佐子:著

100年前、36歳の若さで亡くなった国木田独歩。
作家として後世に名を残した彼が、実に優れた雑誌編集者でありジャーナリストでもあったという事実を、本書を読んで知りました。
天真爛漫で、まっすぐで、時に酒乱にもなる独歩の人間的魅力にも惹かれましたが、強い絆で結ばれた仲間たちと「何か楽しいことやらかそうぜ!」という気概を持っていたことが本書から伝わってきて、胸が熱くなりました。
独歩没後100年の今年、代表作『武蔵野』と一緒に本書も読んでみてはいかがでしょうか。

(アトレ恵比寿店・加藤泉)


猛女と呼ばれた淑女・表紙画像
猛女と呼ばれた淑女


新潮社
1,470円
(5%税込)
  猛女と呼ばれた淑女』 斎藤由香:著

斎藤輝子さんは、歌人斎藤茂吉氏の奥様であられ、斎藤茂太氏、北杜夫氏の母上である。 輝子さんを表現するのに「猛女と呼ばれた淑女」にまさる言葉はないと思う。
本著は、輝子さんと茂吉氏の出会いから、晩年になってからも御歳を感じさせないお元気な生活振りを、孫娘の由香さんが綴った軽快な一作である。
特にアフリカ・南極・セイシェルと世界を生き生きと旅するお姿は、圧巻でうらやましい限り。
こんな風にいつまでも若々しく素敵に上品に、そしてちょっぴりわがままに年を重ねていきたいものです。
また、作品中しばしば出てくる躁状態の北杜夫氏の奇行ぶりも必読です。

(藤沢店・大嶋慶子)


百瀬、こっちを向いて。・表紙画像
百瀬、こっちを向いて。


祥伝社
1,470円
(5%税込)
  百瀬、こっちを向いて。』 中田永一:著

小中学校時代にあった男女の相容れなさなんてものを、世の中の大多数の人々は、軽々と飛び越えて手を取り合っているわけです。
でもさ、この物語の「ノボル」みたいにモテるモテない以前にひっそり生きてる高校男子が生息してるんです!!
表題作は、思春期男子のマイノリティな学生生活を見事に描いている、と快哉をあげたくなったので推します。

(横浜駅西口店・広沢友樹)


流星の絆・表紙画像
流星の絆


講談社
1,785円
(5%税込)
  流星の絆』 東野圭吾:著

三人の兄妹に降り懸かる災難、三人の織り成す人生模様、そしてその悲劇の結末、長い歳月を経て知った衝撃の真実……それを乗り越える武器はただひとつ、三兄妹の「絆」。
様々な人間の出会いと別れ、そして何より強く優しく温かい『絆』が読者の心に流星のように降り注ぐ。
「僕もあなたたちと絆で繋がれていたい」
そんな思いが溢れる作品です。

(書籍外商部・矢部久美子)
       

文・有隣堂 読書推進委員 加藤泉

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