作家・福田和代
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加藤: |
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今回は、去年『ヴィズ・ゼロ』でデビューし、第二作『TOKYO BLACKOUT』を刊行されたばかりの福田和代さんをゲストにお招きしています。
すごいです、『TOKYO BLACKOUT』は発売前から大評判でした!
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福田: |
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皆さま、初めまして。 加藤さん、『本の泉』に呼んでくださってありがとうございます。 大変光栄です。 そして今、「大物新人作家」という副タイトルを見て、ひそかに冷や汗を流しています(笑)。 そんな、大物じゃないですよ。 『TOKYO BLACKOUT』、ありがとうございます。
発売前にゲラを読んでくださった書店員さんたちから、「面白かった」と言ってもらったときには、嬉しかったですね。 エンターテインメントを追求したいので、「面白い」と言われるのが一番嬉しいんです。
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加藤: |
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福田さんは理系出身ということですが、いつ頃から執筆活動を始められたのでしょうか?
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福田: |
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商業出版を目標にミステリーを書き始めたのは、二十代後半の頃でした。
小学生のころからノートやわら半紙に「お話」を書くのが好きで、学生時代を通じてずっと、冒険小説やファンタジーのようなものを書きなぐっていましたけど。
生業(なりわい)は理系、心は文系と自分で呼んでおります。
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加藤: |
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現在も会社勤めをされているそうですが、お差し支えない程度でお仕事の内容など教えていただけますか?
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福田: |
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本業は金融機関のシステムを開発するシステムエンジニアです。
学生時代はプログラミングが苦手だったのですが、会社に入って仕事を始めると、けっこう楽しいと思うようになりました(笑)。
今の職場で二十年近く仕事をしてきた経験が、色々なシーンで小説にも生きていると感じます。 会社には感謝しているんですよ。
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加藤: |
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それでは、デビュー作からお話を伺ってまいりましょう。
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この講座には、現役バリバリの作家さんたちが大勢講師として来られていて、ご自身の執筆活動もお忙しいはずなのですが、後進の指導に時間を割いてくださっているんです。 私、あれには感じ入りましたね。 こりゃもう、とことん面白いものを書くことが、先生方へのご恩返しだぞと思っています。
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加藤: |
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青心社の社長さんは目利きでいらっしゃいますね。 『ヴィズ・ゼロ』を世に出したわけですから。
この『ヴィズ・ゼロ』ですが、ハイジャックものの冒険小説と言っていいと思いますが、サイバーテロや二重スパイも絡んでくるスケールの大きい小説です。
執筆される上で何に一番苦労されましたか?
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福田: |
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苦労ではないのですが、一番時間をかけたのは関西空港の取材でした。 関西空港に入るまでのアプローチも色々ありまして、JRで行ったり南海電鉄で行ったりバスで行ったり船で行ったり。 空港内の見学ツアーがあると、それに参加してみたり、展望ロビーではラジオで航空無線を流している航空無線ファンの横に陣取って、通信内容を聞きながら気分を出してみたりして。 だんだん、空港の小説を書こうとしているのか、単なる空港のファンなのか、自分でもわからなくなってくるくらい取材に通いました。 正直なところ、取材に行って見たことのないものを見るのは、わくわくします。
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加藤: |
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サイバーテロのあたりなどは、福田さんの得意分野なのだろうとお見受けしましたが。
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福田: |
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たしかに本職がシステム関係なので、書きやすい部分でした。 現在『ミステリマガジン』に三か月に一度掲載してもらっている「プロメテウス」シリーズも、ハッカー小説ですしね。
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加藤: |
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タイトルの『ヴィズ・ゼロ』はvisibility zero(視程ゼロ)の略とのことですが、本書を読みながら、なんて格好いいタイトルなのだろう、とゾクゾクしました。
このタイトルはいつ頃思いつかれたのですか?
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福田: |
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1999年には、もうこのタイトルでした(笑)。 『ヴィズ・ゼロ』を書くにあたり、取材させていただいた管制官の方がいて、その方に「ヴィズ」という言葉を教えてもらったんです。 先が見えない=(イコール)ヴィズ・ゼロって、ちょっと格好いいんじゃないかと思いまして、タイトルにしました。
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加藤: |
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続編を期待してしまうようなラストだったのですが、「ファントム」が出てくる続編の構想などおありでしょうか?
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福田: |
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よくぞ聞いてくださいました(笑)。 「ファントム」が主人公の続編を企画中です。 まだこれから書くのですが、『ヴィズ・ゼロ』と同じ青心社さんから刊行される予定です。 ファントムとシンの思いなど、『ヴィズ・ゼロ』で書ききれなかった部分を書きたいと考えています。
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最新刊『TOKYO BLACKOUT』
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加藤: |
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冒頭でも申し上げましたが、この第二作『TOKYO BLACKOUT』は発売前から評判が高かった作品です。
面白くて面白くて、私も一気に読んでしまいました。
『ヴィズ・ゼロ』が刊行された後、この作品の執筆依頼がきたのでしょうか?
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『TOKYO BLACKOUT』
角川書店 刊
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福田: |
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そうですね。 『ヴィズ・ゼロ』が刊行される直前に、以前紹介を受けたことのあった東京創元社の編集者の方から、「出版されるそうでおめでとう」とのメールを頂きました。 まだ本が出ていなかったのでびっくりしたのですが、『ヴィズ・ゼロ』のブックデザインを担当してくださった方から偶然にも聞かれたそうで、それからとんとん拍子に出版の話が進みまして、『TOKYO BLACKOUT』を書かせていただくことになったんです。 人の縁というか、きっかけって本当に不思議で面白いですよね。
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加藤: |
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東京が大停電に陥ってしまう電力テロのお話ですね。
電力マンの活躍に胸が熱くなりました。
こちらも、入念な取材をされたことと思いますが、取材中に特に印象に残ったことは何ですか?
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福田: |
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取材をするまで、電力マンのお仕事内容をよく知りませんでしたので、取材をしていくうちに、これは大変なお仕事だなと思うようになりました。 電力の需要と供給の状況を表示する「需給カーブ」というのがあるんですが、それを見た時に、「人間の生活がこの曲線ひとつに表現されているんだ」と感動を覚えましてね。 その瞬間、「この小説は書けた」と感じました。
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加藤: |
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デビュー作の『ヴィズ・ゼロ』に比べると、群像劇として深みを増しているのではないかと思ったのですが、何かきっかけのようなものはあったのですか?
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福田: |
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そうですか、ありがとうございます。 編集者の方といろいろ相談しながらシーンを増やしていきましたので、それが良かったのだと思います。
『ヴィズ・ゼロ』は一応、クローズド・サークルなので(笑)。 ある意味、空港島の中に閉じこめられた人々の話ですから(笑)。
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加藤: |
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ラスト近くで私は大泣きしたのですが、福田さんご自身が一番好きな場面はどこですか?
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福田: |
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実は意外と犯人側のシーンが好きなんですよね。 犯人のアジトのシーンとか。 書いているときは視点人物に感情移入してしまっているのですが、書きながら泣けたのは犯人側でした。
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〜最後に〜
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加藤: |
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福田さんが影響を受けた作品や作家の方はいらっしゃいますか?
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福田: |
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これを語り始めると、紙面がいくらあっても足りないのですが……(笑)。
冒険小説とハートボイルドに限ってお話しますね。 海外では、ディック・フランシスの『大穴』『利腕』、エドモン・ロスタン『シラノ・ド・ベルジュラック』が筆頭ですかね。 あ、今「シラノ」でちょっとコケませんでしたか? あの熱さが大好きなんです。 国内では、ぎりぎりお二方に絞って北方謙三「ブラッディ・ドール」シリーズ、高村薫『レディ・ジョーカー』『わが手に拳銃を』。 本当はもっともっと上げたいのですが、きりがありませんので。
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加藤: |
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福田さんの作品を読んでいて、映画鑑賞もお好きなのでは?とお見受けしたのですが、好きな映画、影響を受けた映画はありますか?
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福田: |
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映画鑑賞は、ハリウッドのアクション映画が多いです。 好きな映画を強いてひとつだけ上げるなら、ジョン・ウェインの『リオ・ブラボー』でしょうか。 颯爽たる保安官、昔は一流のガンマンだったのに今はアルコールに溺れる保安官助手。 私の思う「格好よさ」の原点です。
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加藤: |
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福田さんが執筆される上で、これだけは守っている信条のようなものはありますか?
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福田: |
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楽しんでもらえることが一番の目標です。 あとは、こういう不穏な時代ですので、なるべく読後感を良くして、読んでくださった方が爽やかな気分で一日を送れるようにと願っています(笑)。
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加藤: |
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今後の刊行予定や執筆予定を教えていただけますか?
お差し支えない程度で結構ですので。
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福田: |
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次の書き下ろしは、来年の早いうちに海洋冒険小説が早川書房から刊行される予定です。 阪神淡路大震災の年の神戸、瀬戸内海を舞台に、スプリンターの夢を断たれた青年が友のために立ち上がる。 「再生」への祈りを込めた青春小説です。 その次の書き下ろしが、『ヴィズ・ゼロ』の続編の予定です。
短編は「ミステリマガジン」の「プロメテウス」シリーズと、「ミステリーズ!」でも掲載される予定です。 あ、ちょっとどきどきしてきました。 頑張って書かないと。
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加藤: |
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最後に、読者の皆様にメッセージを!
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福田: |
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『TOKYO BLACKOUT』は、自分に与えられた仕事と毎日誠実に向き合っている、様々な「現場」の人たちを想って書きました。 書店でお見かけの際には、手に取ってくださると嬉しいです!
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加藤: |
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お忙しい中、本当にありがとうございました!
福田和代さんでした!
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