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第62回 2008年11月20日 |
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〜注目の新人作家たち〜 | |||||||||
そろそろ年末ベスト本が発表される時節だが、今年の文芸書を振り返ってみると新人作家の活躍が目立ったように思う。 この「本の泉」でも、真藤順丈・福田和代・湊かなえ・小川糸など、今年は新人作家の方々をたくさん紹介させていただいた。 今秋、またさらに注目すべき新人作家が続々とデビューしているので、今回は4作ご紹介しようと思う。 |
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まず初めに、中村弦『天使の歩廊 ある建築家をめぐる物語』を。 受賞作のレベルの高さでは定評のある日本ファンタジーノベル大賞の、本年度の受賞作。 舞台は明治から昭和初期の東京。 依頼主本人でさえ自覚していない望みに適った建物を実現する、笠井泉二という天才建築家をめぐる謎が描かれた連作短編集だ。 ファンタジーノベル大賞受賞作だけあって、「天使」が出てきたり、〈あの世〉の存在が暗示されたりするが、そうした題材が苦手な読者でもすんなり入っていける内容になっている。 それは、大切な誰かを失った人間や辛い記憶を抱えて生きている人間に対する暖かい眼差しが本書全体を覆っているからだ。 著者は受賞直後に、読売新聞のインタビューで、“幻想を好むのは「現実の世界がすべてでないと考えると生きるのが楽になる」から”と答えている。 著者の頭の中に在る、果てしない世界が感じられるデビュー作だ。 |
天使の歩廊 中村弦:著 新潮社 1,575円 (5%税込) |
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次にご紹介したいのは、雀野日名子『トンコ』。 著者は去年「あちん」で『幽』怪談文学賞短編部門大賞を受賞。 受賞作を連作短編集化した単行本『あちん』(「本の泉」第50回参照)は、人の心の奥底に潜む悲しみを覚醒させるようなデビュー作だったが、この『トンコ』もまた哀切に満ちた名短編集だ。 表題作「トンコ」は脱走した食用豚(トンコ)の2日間が描かれているだけの話なのだが、きょうだい豚を思うトンコの姿はまるで「母を訪ねて三千里」のマルコ少年を彷彿させられ、海に沈む夕陽をトンコが見つめる場面は、絵画的な美しささえ感じさせる。 同時収録されている「ゾンビ団地」も「黙契」も、かなりグロテスクで食欲を奪うような場面もあるのだが、根底に流れているのは「家族への報われない愛」。 どの短編も、「怖い」というより「切ない」と表現したほうが適しているような内容だ。 選考委員の林真理子が言っているように、この短編集は純文学としてもじゅうぶんに通用することと思う。 表題作「トンコ」は第15回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作。 ちなみに、今年の日本ホラー小説大賞大賞受賞作は、真藤順丈『庵堂三兄弟の聖職』(「本の泉」第60回参照)。 |
トンコ 雀野日名子:著 角川書店 (角川ホラー文庫) 540円 (5%税込) |
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次に、小野寺史宜『ROCKER』。 著者は、2006年「裏へ走り蹴り込め」でオール讀物新人賞を受賞し、今年「ROCKER」で第3回ポプラ社小説大賞優秀賞を受賞。 不登校気味の女子高生・実美(ミミ)と、実美の従兄弟で高校教師の永生(エイショウ)。 本書は彼らの周りで繰り広げられる人間模様を描いた連作短編集だ。 何かを目指す人のひたむきさや爽やかさを感じさせる王道の青春小説ではあるが、「stand by me」が歌われるラスト間近のライブシーンは、光景がありありと浮かんでくる名場面。 読み終わった後は、快い余韻が残る。 永生のキャラクターや、洒落たセリフの応酬、音楽と小説をリンクさせる手法などは、伊坂幸太郎の作品世界を彷彿させる。 伊坂ファンにもお勧めできる1冊だ。 |
ROCKER 小野寺史宜:著 ポプラ社 1,680円 (5%税込) |
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最後に、まだ単行本になっていない新人賞受賞作から1編。 『ミステリーズ!』vol.31に掲載されている、梓崎優「砂漠を走る船の道」を。 本作品は第5回ミステリーズ!新人賞受賞作。 選考委員の綾辻行人をして傑作と言わしめた短編だ。 サハラ砂漠を、片道15日間かけて塩と交換するための物資を運ぶキャラバン。 帰路、次々と隊員が殺されていく、というミステリー。 殺人の動機にもなるほどと思わせられるが、本作の後半にはアッ!と叫びたくなる驚きが待っている。 これはもう一度読み返さなくては気がすまないほどの衝撃だ。 この短編を読んだ誰もが、こんな小説があっていいのか、という呆然とした気持ちと、騙されたー!という悔しい気持ちと、新たな才能の出現を喜ぶ気持ちを味わうことになるだろう。 『イニシエーション・ラブ』や『葉桜の季節に君を想うということ』に心地よく騙された方には強くおすすめしたい。 今号の『ミステリーズ!』はこの短編を読むだけでも買う価値あり! |
ミステリーズ! vol.31 東京創元社 1,260円 (5%税込) |
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文・読書推進委員 加藤泉
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