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平成12年4月10日 第389号 P1 |
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目次 | |
P1 P2 P3 | ○座談会 子どもと本の出会い (1) (2) (3) |
P4 | ○「湘南」はどこか 土井浩 |
P5 | ○人と作品 高嶋哲夫と『ダーティー・ユー』 藤田昌司 |
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座談会 子どもと本の出会い (1)
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はじめに |
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篠崎 |
本日は、なぜ子どもに読書が大切なのか、子どもの本の魅力や面白さなどを交えてお話しいただきながら、現在、出版界をあげて取り組んでいる読書推進運動、さらに「子ども読書年」に具体化される事業についてもご紹介いただきたいと存じます。 ご出席いただきました松居直先生は、長く福音館書店社長を務められ、現在は同社相談役で、「子ども読書年」推進会議副代表としてもご活躍です。絵本についての評論のほか、ご自身も『やまのきかんしゃ』などの作品を発表していらっしゃいます。 |
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山崎慶子先生は、早くから「母と子の読書相談室」を開設されるなど、長年、読書推進活動に取り組んでこられました。またJPIC(出版文化産業振興財団)が主催する読書アドバイザーの講師としてもご活躍です。 |
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篠崎 | 「子ども読書年」が制定されたのはどういう経緯からなんですか。 |
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松居 |
それを政治家の方がいち早く国会で決議された。突然決議されたような感じですが、もし本当に子どもの読書のことを国を挙げてやろうというのなら、国会の決議は非常に大切だということを提案したことがあります。ただ、読書は日常のことで、ずっと続ける必要から、今、何をするかを話し合っているところです。 |
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篠崎 | 「子ども読書年」の制定は、子どもの本離れということも背景にありますか。 |
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松居 | そういう認識はかなり浸透していると思います。ただ、活字離れ、本離れといわれますが、私の認識は、言葉離れです。赤ちゃんのときから、子どもの言葉の体験が余りにも貧しい。特に耳から聞く言葉の体験が貧しいので子どもたちが言葉を大好きになっていません。
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篠崎 | 言葉を聞く力をもった子どもにしていきたいということもあるわけですね。 |
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松居 | それは、言葉を語る力を大人が持たなければだめだということになりますね。 |
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想像力を身につけるうえで、すごい力を持っていた昔話
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篠崎 | なぜ子どもは赤ちゃんのときから、言葉を聞く機会が減ったんでしょう。 |
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松居 | 赤ん坊を抱いて、お母さんが無意識に言葉をかける、言葉で抱いて育てるんだと思うんです。それが非常になくなって、今の赤ちゃんはベビーベッド。本当はお母さんの腕の中が居場所です。アメリカの学者が言っていますが、ベビーベッドと哺乳びんが、赤ちゃんと母親との間を離してしまった。その次がバギーカーに乗せること。昔ならおんぶ、抱っこでしたが。スキンシップが弱いんです。そして言葉で抱いてやらないとだめでしょうね。
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篠崎 | 母親もそういう形で育っているから、失ってしまったものがありますね。 |
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松居 |
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篠崎 | 「燈火ちかく衣縫う母は春の遊の楽しさ語る……囲炉裏のはたで縄なう父は過ぎしいくさの手柄を語る。居並ぶ子どもはねむさ忘れて」という唱歌もありますね。
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語る人が好きな話なら、子どもは一生懸命わかろうとする
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篠崎 | 角野先生は、そういうご体験とかは。 |
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角野 | 私は、小さいときに母に死なれたので、父がよく話をしてくれました。子どもにとっては難しい、ハリウッドの無声映画の話だとか、ラブストーリーなんかも。小さかったけれど、江戸っ子だったので独特の口調が私の体の中に入っていますね。今でもそれを聞きながら書いているという感じがします。いいものを与えられれば、それはすばらしいけれど、父はそれしか知らなかったから、それを与えたと思います。必ずしもいいものでなくても語る人がすごく好きなものなら、いいのかなと思います。
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松居 | そう思います。その人の気持ちが伝わるから、子どもは難しい話をしても一生懸命わかろうとしますね。 |
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角野 | そうですね。すごく頭をめぐらせてね。だから、宮本武蔵とか、ジャン・バルジャンとか、四、五歳のころに聞かせてくれました。
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山崎 | 私もお化けの話はよく覚えています。祖父やおばが「ちっぽたっぽ」が来るからおとなしくしなさい、と。 戦後、自立ということがかたよった形で、子どもと親を切り離すことが良しということになり、親と子どもの対話が少なくなった向きがありますね。 |
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角野 | 私が子どもを育てるときは『スポック博士の育児書』が大ベストセラーで、あれは離して育てろということでした。それで育った人たちが今お母さんです。育児にも一種の流行があり、戦後のアメリカ文化とオーバーラップして大きな影響がありました。
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二~四歳ころ子どもはリズムのある文章に耳を傾ける
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篠崎 | 子どもには、本を与えるのは何歳ぐらいからがよいのでしょうか。 |
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松居 | 人間は生後三歳までの間に、一生使う言葉の四分の三を理解するようになるといわれています。たとえば、俵万智さんが『リンゴの涙』というエッセーでお書きになっていますが、本と出会った体験をさかのぼっていくと、『三びきのやぎのがらがらどん』にたどりつくそうです。
これはマーシャ・ブラウンの書いた絵本で、三歳の時に一日に何度もお母さんに読んでもらった。そして、お母さんのまねをして、文字を読めないのに本を読み始め、本を読んだつもりになっていたそうです。俵さんにはこんな絵本体験があったのですね。 それから、マーガレット・ワイズ・ブラウンの『おやすみなさいのほん』という絵本があります。幼稚園の先生が外で遊んだ後に子どもたちに読んできかせると、眠りを誘う静かな言葉の繰り返しを聞きながら、子どもたちが本当に眠ってしまうそうです。 ですから二歳から四歳にかけての時期には、子どもは音や音声の響きの面白さや心地よいリズムのある文章に耳を傾けるようになってきます。 |