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有鄰


平成12年4月10日  第389号  P5

 目次
P1 P2 P3 ○座談会 子どもと本の出会い (1) (2) (3)
P4 ○「湘南」はどこか  土井浩
P5 ○人と作品  高嶋哲夫と『ダーティー・ユー』        藤田昌司

 人と作品

”いじめ”問題を俎上に日本の教育の病根に迫る

高嶋哲夫とダーティー・ユー
 



  核融合の研究生活をやめ、学習塾を経営

 ”いじめ”をテーマに『ダーティー・ユー』(NHK出版)を書いた高嶋哲夫氏は、昨年『イントゥルーダー』で サントリーミステリー大賞、同読者賞をダブル受賞、続いて『スピカ−原発占拠』を出したばかり。新人とも 思えぬエネルギッシュで多彩な仕事ぶりであるが、その経歴もユニークだ。

高嶋 哲夫氏
高嶋 哲夫氏
 高嶋氏は、慶応義塾大学工学部卒、同大学院修士課程修了後、日本原子力研究所の研究委員となり、さらに 渡米して研究活動。ところが帰国後は一転して、神戸で学習塾経営。作品もさることながら、その経歴に興味を もって、自宅を訪ねた。
「大学院では、電磁流体力学の研究室で核融合の研究をやり、原研(原子力研究所)でも核融合研究部門に 就職しましたが、アメリカに渡ってUCLAで三年余り研究生活をした結果、能力の限界を感じてしまい、 あきらめて帰ってきたのです。目標が高すぎたのかもしれません。学習塾は食べていかなければなりません から始めたのですが、それからもう十七年になります」

 小説デビューは六年前、第一回小説現代推理新人賞を受賞した『メルト・ダウン』。 専門分野にふさわしく原子炉事故を題材にしたミステリーだが、『イントゥルーダー』(侵入者という意)は コンピューター犯罪を扱った作品。そして今度の『ダーティー・ユー』は、最も今日的な中学校での”いじめ”の 問題を俎上に、日本の教育の病根に鋭く迫っている。
「僕の塾にもいじめられた子がいました。子供たちは学校の教師には相談しなくとも、塾ではホンネで話します。 高校入試をひかえた中三でいじめに遭っていた子がいましたが、僕は”もう学校へは行くな”と言って家で 勉強させ、高校も無事入れました。その後は楽しくやってます」

 この作品の主人公、僕=小野田雄一郎は、アメリカ生まれのアメリカ育ちだが、帰国して名門中学の二年に編入。 何もかも適合しないのはやむを得ないが、とくに何かのクラブに強制的に加入させられるのに反発したことから、 悪ガキ四人組から「生意気」と狙われるようになる。体操帽を隠されたり、弁当にチョークの粉や消しゴムの カスを振りかけられたり……。

 そうした中で、一人の同級生と親しくなる。悪ガキ四人組に追従しながら徹底的にいじめられている羽山伸一と いう、少し間の抜けた少年だ。犬の真似をさせられたり、万引きを命じられたり、小遣い銭はほとんど巻き上げられたり している。しかも学校は見てみないふり。

 雄一郎と親しくなり、悪ガキ四人組から離れようとした伸一は、かえってヤキを入れられ、ついに雄一郎は四人組と 対決する。暴力を振るう四人組に雄一郎は丸太を振り回して対抗、相手に傷を負わせる。正当防衛だと主張するが、 結局、謝らなければならない羽目に。

 そうした矢先、伸一は深夜、校舎の屋上から飛び降り自殺する。「いじめは犯罪なんだ。この学校には犯罪者がいるんだ」と 雄一郎は叫ぶが、遺書らしき物も見つからなかったことから、学校側は誤って墜死した”事故”として穏便に 処理しようとする。かくて雄一郎は弁護士と相談して、刑事、民事双方から告訴に踏み切るという展開になる。

  「諸悪の根源は義務教育」と教育行政を批判

 「今の子供たちは、われわれが考えているよりも善悪の判断がついていないんです。悪いことをしても悪いと いう意識がなくなっている。人間関係のタテのつながりが薄くなってヨコのつながりしかないからです。 学校のクラブ活動など、そのいい例です」

 作者はこのような子供が増えてきた原因について、教育行政を厳しく批判している。雄一郎の父の持論は、 「諸悪の根源は文部省と日教組にあり。そのきわめつけが、義務教育だ」ということだが、これはとりも直さず 作者自身の意見だろう。
「僕の意見は、”義務教育を潰してしまえ”ということです。公立の小中学校すべてを選択制にして、学習塾も そこに加えて、自由に選択できるようにすること。学校制度を変えてしまわないと、何もかもよくなりません」

 塾も選択肢に加える──というと”我田引水”に聞こえそうだが、「僕のやっている塾は生徒数三十人たらず」と いうから、そういう意味にはならない。
「実際、学校の教師の質は塾にくらべて格段の差がありますが、これは全く競争原理がない世界だからです。 塾で学級崩壊なんか起きたら、先生はただちにクビです」

 高嶋氏は、今年、あと四、五冊の本が出るという超売れっ子ぶりだが、「できるだけメッセージ性の強いものを 書いていきたい」とのことだ。
1,575円(5%税込)。

(藤田昌司)


(敬称略)


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