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平成12年4月10日 第389号 P2 |
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目次 | |
P1 P2 P3 | ○座談会 子どもと本の出会い (1) (2) (3) |
P4 | ○「湘南」はどこか 土井浩 |
P5 | ○人と作品 高嶋哲夫と『ダーティー・ユー』 藤田昌司 |
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座談会 子どもと本の出会い (2)
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篠崎 | 大人は「ためになるから、これを読んで」とか、よく言いますが、子どもはどうなんでしょうか。 |
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松居 | 私の編集方針として、ためになる、役に立つ本はつくらない、というのがあります。「ああ、面白かった」というのが本当は一番ためになるのかもしれません。やはり子どもは喜びを感じないと成長していかないと思います。
どういうふうに成長するかは『魔女の宅急便』を書いた角野先生に。(笑) |
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角野 | 私は、子どものためにと思って書いたことは一度もなくて、自分が楽しく思うものを書いています。一度書いてしまって本になると、子どもたちに受け取られていくわけですが、そのときに、受け取ってくださる方が自分のお話だと思ってくれればいいなと思います。与えられたものでなく、自分が近寄っていったものだと。書くときに、「ために」とか、作家がそう思うのは、何かすごく偉そうに思います。だから私は自分がワクワクしたいから書くんです。そのワクワクしている気持ちが伝わればいいなと思っているんです。
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『魔女の宅急便』は娘の鉛筆書きの絵がヒント
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角野 | 『魔女の宅急便』はひょんなことから生まれた作品で、娘が五年生のとき、若い女の子の魔女がラジオを提げて飛んでいる絵を鉛筆書きで書いたのが机の上にあったのを見て、それから始まりました。
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篠崎 | お書きになるときはどういうふうにお書きになるんですか。 |
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角野 |
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篠崎 | 魔女を訪ねて、ヨーロッパ各地をご旅行されたエッセーも書かれていますね。 |
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角野 | この本を書いて二年ぐらいしてアニメになると、すごくたくさんの方が見てくださいました。そして私は魔女をすごくよく知っていると思われて、皆さんご質問なさるんですが、私は娘の絵で書いたものですから……。後追いで調べていきました。まだよくわからないんですけど。『魔女のひきだし』という本も書きました。
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心に残った本は「わたしのもの」と宣言したくなる
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山崎 | 先生の『ぼくびょうきじゃないよ』と『魔女の宅急便』は小学生と中学生になった孫たちの書架に残っています。きっと、その本を読んだときの楽しい思い出があるのだと思います。まず楽しく読める本との出会いが読書の習慣を育てる第一歩だと思います。
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松居 | そうですね。私にはこれは自分の本で、絶対に貸したくないという本がありました。そして一年生になったとき、母がお下がりの古い本箱をくれたのですが、そのときはすごくうれしかった。これは僕の本だと、初めて財産を持ったわけです。
私は六人兄弟で、本はツケで買えたんです。月末に請求書が来て、誰が何を買ったかすぐわかるから、いいかげんには買えませんでした。 |
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角野 | 小さいとき、娘が好きな本の裏にシュシュッと波線を書いてあるんです。名前を書けないからそれを書いたんだと思っていたら、少し大きくなって違う本の同じような所に、「わたしのもの」と書いてあるんです。「自分の大切なもの」と宣言したかったんだなと思いました。
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驚きや喜びを感じることが知ることの原点
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山崎 | 子どもたちは不思議なことに出会うと、それを確かめようとします。こんなことがありました。今のおもちゃは電池入りで、ボタン操作で動いたり言葉を語ったり。直接体験が少ない子どもにとって、人と同じように話をする鳥がいるということは信じられません。体験に勝るものはないので、オウムを飼っている友人宅に連れていきました。ボタン操作なしで「おはよう」と話しかける鳥との出会いは彼にとってまさに未知との遭遇。上・下・横から覗き込み、「本当なんだ」と目をキラキラ輝かせていました。
一週間後、幼稚園から鳥の図鑑を借りてきて、真剣な顔でページを開いていました。不思議との出会いと感動が夢の実現につながりますね。 |
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松居 | 驚きや喜びを感じるのが、知ることの一番の原点だと、レイチェル・カーソンが言っています。彼女は『センス・オブ・ワンダー』の中で、知ることは感じることの半分も重要でないと書いています。今は頭の中に詰め込むことばかりです。
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角野 | やっぱり心が動かなければ何事も始まりません。 |
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松居 | 驚かなきゃだめですね。怖がらないとだめです。私は怖い話が大好きでした。子どもも怖い話が好きで、もっぱら私は怖い話係でした。
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あぐらの中で子どもに読んでやるのがよかった
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篠崎 | 松居先生が子どもの本の編集をお仕事にされたきっかけは……。 |
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松居 | 私は、大体子どもの本にかかわるとは思ってもいませんでした。子どものときから本は好きでしたが、まさか出版界に入るとは思わなかったし、子どもの本の編集をするとは、私の発想には全然なかったことです。
子どもの本にかかわるようになったのは、子どものときに少し本が好きだったこと。あと、自分がたまたま子どもの本の編集者になり、子どもが生まれて本を読んでやり始めたのがきっかけです。それが一番勉強になりました。 長男が八か月ぐらいのころ「岩波の子どもの本」を一生懸命見ている。絵があるから見るんですね。私はいささかびっくりして、ひざに抱いて読んでやったら、ものすごくよく聞く。わかっているのかどうか、知りませんが。 そして、その次の日も帰ってきたら、その本を持ってきて、これを読めと出す。またひざに抱いて読んだら、一生懸命聞くんですね。 |
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角野 | そのひざというのがいいんですよね。私も父のあぐらを覚えています。あぐらに座って本を読んでもらう。すると声と一緒にあぐらがゆれるんです。
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篠崎 | 読んでやった父親としての感想はどうですか。 |
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松居 | 子どもが喜べば、こっちは楽しいし、してやったりみたいなものですよ。(笑) |
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絵雑誌を読んでもらい北原白秋と西條八十の違いがわかった
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松居 | 私は、母が絵本を小さいときによく読んでくれたから、それが非常に鮮明に残っています。読んでもらうことは楽しいことだという意識はあります。耳で育ったわけで、字が読めるのは、昔は小学校に行ってからですから、それまではキツネのお話をしてくれたり、『コドモノクニ』という有名な絵雑誌を読んでもらいましたね。
それがほとんど北原白秋、西條八十、野口雨情の代表作で、子どもでも、北原白秋と西條八十が違うことはわかるんです。同じモダニズムでも言葉の使い方とリズムと、イメージが違う。はっきりは意識していませんでしたが、これはあの人だ、これはこの人らしいと。字は読めませんけれども。 今でも、北原白秋と西條八十の子どもの詩集を読んでもらったら、大体どちらかわかると思いますね。最相葉月さんの『絶対音感』という本がありますが、絶対語感みたいなものもあると思うんです。 |
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角野 | 小さいときに体に入っているんですね。そうじゃないものは、やっぱり気持ちよく使えない。 |
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篠崎 | お父様のあぐらの中で育った、お子さんはどうなりましたか。 |
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角野 | みんなクリエイティブなお仕事をしておられますよね。 |
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松居 | 一番下は娘ですが、三人ともものを書いていて、非常に言葉にこだわります。でも、そんなふうに育てた気持ちもないし、私は編集者ですから、ものを書くことがどれほど大変で、お金にならないかよくわかっているから、なるべくそれはしないほうがいいと思っていました。勝手にやったから、文句の言いようがありません。
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篠崎 | 「読みきかせ」ということが今、読書推進の一つの活動としてさまざまな所でおこなわれてますが、どういうことなのでしょう。
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山崎 |
「読みきかせ」はもともと家庭内で祖父母、親、兄弟や親戚の人たちが、子どもを身近において寝物語にお話を語り聞かせ、また本を読んできたもので、それほど難しいことでも特別なことでもありませんが、今の時代は、母親も外に出て働く機会が増え、家族の形態も大きく変化しました。子どもたちも保育園や幼稚園での集団生活を営む時間が長くなりました。したがって、集団を対象にして絵本を読む、お話をする機会が多くなっています。集団を対象にしておこなう場合は、それなりの工夫も必要です。しかし昔からの自然体を基本に、おおらかに展開するのが望ましいと思います。 |
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お話の面白さを伝えるには楽しめる本を
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山崎 | 日本の出版物の量は膨大で、とかく子どもの本は書店でも脇におしやられがちです。「読みきかせ」をする先生やボランティアの方たちにお願いしたいことは、百年をへても子どもたちが大好きで、楽しみ、読み継ぎ、語り続けられている絵本やお話にはどのような作品があるか。作家たちがどのように心をこめて書いたか、つくってきたかも、学んでほしいと思います。「読みきかせ」る本に対して一層の理解や共感が深まるはずです。聞いてる人に、本がもっているさまざまな素晴らしい世界を伝えるためには、読み手の心も豊かになってほしい。
今、学校で子どもたちにさかんに音読をすすめているところもあります。 |
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松居 | 子どもたちに? |
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山崎 | 孫が、「今日は音読するから聞いてね」と国語の教科書をもってやって来て、「はっきり読めた?」「点や丸のところちゃんとしてた」「よくできたら二重丸つけてよ」と対話することも楽しいものがあります。言葉の再生に向けて、家庭、学校、地域でこうした活動が相互ですすめられるといいですね。
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図書館の司書資格に児童サービス論が必修に
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山崎 | アメリカを含め外国の児童図書館では、児童への読書サービスは重要事項になっています。司書の資格にも必要です。日本でもようやく「児童サービス論」が必修科目になりましたから、これからは司書の方たちも、子どもたちと本との出会いを助ける読みきかせ、ストーリーテリングなどの技能を学ぶことになります。
二十年も前ですが、ロンドンの児童図書館のチーフライブラリアンに、「何を一番大切にお仕事をしておられますか」と質問したら、「入館してきた子どもたちに声をかけること、本を楽しむための人間関係を大切にしている」と答えてくれました。 私は長年、本と最も近い距離で仕事をしてきましたので子どもを含め、いろいろな読者との出会いを経験していますが、ともかく楽しんで読める本を手渡すようにしてきました。 本との出会いのために、言葉を聴きとる耳を育てる方法は、読みきかせだけでなく、ブックトーク、ストーリーテリング、朗読や影絵などいろいろあります。それぞれの目的や対象年齢などを考えておこなえば、子どもも大人も楽しめます。 |
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読む人が好きな本を読むことが一番子どもに伝わる
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篠崎 | 子どもには、どんな本を選んだらいいんですか。 |
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松居 | 子どもはよく知っていますよ。自分の好きな本というのがあります。 |
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篠崎 | 子どもが選ばなければ、親が好きなものを読んであげればいいんですね。 |
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角野 | 読む人が好きな本をね。 |
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松居 | 一番伝わりますよ。 |
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山崎 | 私は外地から戦後日本へ帰国しましたが、限られた荷物、リュックの底にジィドやゲーテ、シュトルウムなどの岩波文庫数冊をしのばせて帰ってきました。『エミール』という難しい本もありました。それぞれに思い出のある本なのです。
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篠崎 | 小さいころはどんな本を読まれました。 |
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山崎 | キンダーブックに始まり、小学校の中学年ころは女の子らしくない『鉄仮面』『三銃士』『巌窟王』など。また母の書棚にある本を隠れて読んでワクワクしたり。石坂洋次郎の『若い人』が出たばかりで、吉屋信子の『花物語』も全盛時代。そして私の通った台北の学校の図書館は蔵書も当時すでにオープンシステムでスタッフもいて、毎日開館していました。よく借りて徹夜の記憶も度々でした。
日本の学校の図書館に勤務した昭和二十八年はまだアメリカの占領時代で、混沌として貧しく電気も暗かった。アメリカの基金で購入した本は紛失したら大変と、鍵が掛かっていました。 私が忘れられない一冊の本に羊皮紙仕上げの『ポールとヴィジニー』があります。あの柔らかな手ざわりは、本がもっている不思議さと魅力が十分にありました。 |