■『有鄰』最新号 | ■『有鄰』バックナンバーインデックス |
平成12年6月10日 第391号 P5 |
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目次 | |
P1 P2 P3 | ○座談会 横浜はダンスのメッカ (1) (2) (3) |
P4 | ○装丁にみる出版文化 臼田捷治 |
P5 | ○人と作品 垣根涼介と『午前三時のルースター』 藤田昌司 |
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人と作品 |
ドイ・モイ下のベトナムを背景に、生きる真実とは何かを追及 垣根涼介と『午前三時のルースター』 |
殺人事件が一つも起きないミステリー作品 垣根涼介氏の『午前三時のルースター』(文藝春秋)はサントリーミステリー大賞、同読者賞のダブル受賞作。 “大型新人”というのはもう常套語になって新鮮さを失ったが、これはまさしく大型新人の登場だ。
この作品の特色の一つは、恐怖の場面は相次ぐものの殺人事件は一つも起きないことだ。殺人ゲームばやりの ミステリーの中で、これは異色。 「人殺しを書くのは好きでないんです。警察や探偵も好みとして嫌いなので、そういうのが出ない世界を 書こうとしました。人を殺すことで人間の内面が描けるならOKですが、ただストーリーをころがすため だけの殺人は、安直すぎると思います」 慎一郎少年の祖父、宝飾店のオーナー社長は叩き上げの創業者。いわば戦後日本経済復興の立て役者の 世代だ。その後継者として女婿に迎えられた父は、祖父の路線を継承発展させる責任を課された世代だが、 行方不明となって四年、母は新しい夫(少年にとっての義父)を迎え入れることになる。そうした世代間の 谷間の空白に置かれた慎一郎少年は、癒しがたい孤独をかかえて父探しの旅に出るのだ。 慎一郎が父探しを思い立ったのは、一編のドキュメンタリーテレビ番組がきっかけ。その中に、ヤミ市のような 盛り場で魚を売っている父の姿があったのだ。 おれは出発に先立って源内という高校時代からの友人で元テレビ局プロデューサーだった男に協力を求め、 その番組をつくったクルーに会う。このクルーは、その市場の映像をフィルムに収めたことが原因で、命を 落としかねない事件に巻き込まれたという。 少年の父探しにでかけたサイゴンで理不尽な襲撃に おれは、今はテレビ局を辞めて悠々自適の源内と慎一郎と三人でサイゴンを訪ねる。だが意外にも、出発 に先立って予約しておいたホテルもガイドも車もすべてキャンセルされていた……。
(藤田昌司)
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