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平成12年12月10日 第397号 P5 |
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目次 | |
P1 P2 P3 | ○座談会 『星の王子さま』の魅力 (1) (2) (3) |
P4 | ○鏑木清方と金沢の游心庵 八柳サエ |
P5 | ○人と作品 猪瀬直樹と『ピカレスク 太宰治伝』 藤田昌司 |
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人と作品 |
太宰治の遺書の謎に迫るミステリー評伝 猪瀬直樹と『ピカレスク 太宰治伝』 |
上昇指向の強い文学青年だった太宰 戦後間もない昭和二十三年、愛人山崎富栄と玉川上水に入水自殺した太宰治の文学は、死後五十余年を経た今も 多くの読者に読み継がれ、その評伝も枚挙にいとまがない。そうした中で、気鋭のノンフィクション作家猪瀬直樹氏による “本格評伝ミステリー”と銘打った『ピカレスク 太宰治伝』(小学館)は異色である。
「太宰は挫折をくりかえしてきたが、挫折のない人生などありえない。太宰は大きな夢を抱いていただけに、夢と現実との ギャップが大きく、挫折も深刻だった。しかし太宰にはそこから這い上がろうとする凄いパワーがあり、必死で這い上がった 上昇指向の強い文学青年だったということに、僕は気づいたのです」 その太宰が、なぜ死んだのか。これが猪瀬氏が本書の執筆に取り組む動機だった。「『斜陽』がヒットして(それまでの 太宰の小説は増刷は皆無に近かったが、本書は初版一万部でたちまち増刷、ベストセラーに)人気絶頂のときだった。 作家としてもアブラが乗っていて順調で、チヤホヤされている時期だった。愛人との問題にしても、太田静子(『斜陽』のモデル)との 関係はうまく切り抜けたし、山崎富栄との問題も切り抜けられないはずはなかった」 たしかに太宰は、カフェの女給との心中未遂では、相手だけが死んで自殺幇助罪に問われたものの起訴を免かれ、同棲していた 女とはカルモチン自殺未遂を図った末、離別した。「だがやはり、太宰はフグの肝を食いたかった。いずれ当たると思いつつも、 作品の原動力のために、フグの肝を食いたかったのです」 自殺の謎を解くカギは井伏鱒二との関係
この評伝で最も注目されるのは、太宰が文壇で唯一、親炙していたとされている井伏鱒二との関係だ。太宰が姿を
消したとき、東京新聞は紙屑籠から「みんな、いやしい欲張りばかり。井伏さんは悪人です」と書いた遺書の下書きが
みつかったと写真入りで報じた。このニュースは当時、ちょっとした波紋を呼んだものの、その後は文壇史の上でも忘れられ、
あるいは無視されてきたが、猪瀬氏は本書でこれこそ太宰の自殺の謎を解くカギだとしているのだ。
(藤田昌司)
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