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平成13年1月1日 第398号 P5 |
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目次 | |
P1 P2 P3 | ○座談会 横浜公園とスタジアム (1) (2) (3) |
P4 | ○古文書にみる相模野の女たち 長田かな子 |
P5 | ○人と作品 北方謙三と『水滸伝』 藤田昌司 |
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人と作品 |
”天に替って道を行う”梁山泊の男たちの物語 北方謙三と『水滸伝』 |
原典を解体し再構築した“北方水滸” 北方謙三氏が『水滸伝』に挑戦している。すでに三巻が集英社から刊行されている。全十三巻の予定といわれて いるが、もっと長くなるかもしれないというライフワークだ。
「そこで僕は、原典にはとらわれずに、登場人物たちを一つのタイムテーブルにのせてそれぞれの性格やエピソード をつなげ、実際のリアリティをだすために配慮しました」 つまり”北方水滸”は、何篇かの原典を解体し、再構築することを目指している。そこにはもちろん作家としての 本能や想像力が働いている。 もともと 城県(うんじょう)の役人だった宋江ら一味の反乱は、腐敗した官僚政治に対する三十六人の一揆と解されているが、 民衆の間で説話化され、反乱軍は百八人にまでふくれ上がったことになっている。「この時代、中国では民間の力 が強くなり、金持ちがふえていた。そこで官僚はその金を狙った。賄賂が横行することになるわけです。民間の 資金源は塩です。生活に塩は欠かせないが、奥地まで送ることは容易ではない。そこで塩を大量に買い集めて地方 に送るヤミの塩の道をつくる商人が現われた。それは“ヤミの権力”をつくることにつながったわけです」 この作品では、その商人は盧俊義(ろしゅんぎ)という名で登場し、反政府勢力に対する絶大なスポンサーとして暗躍する。 また面白いのは、王進(おうしん)という禁軍(きんぐん)(近衛兵)武術師範の活躍だ。王進は軍の中枢にありながら、腐敗した政治を 改革しようという志をもっている気骨のある男である。反乱に加担したとして捕縄されそうになるため、母を背負って 逃げ延び、反政府軍兵士らの武術師範となる。「王進は原典では、母を背負って逃げたということしか出てこないんですが、 僕の作品では人間として成長を遂げていくことにしたんです」 梁山泊はもともと黄河のほとり、 城に近い梁山湖の中に浮かぶ山寨[(さんさい)とりで]で、盗賊、無頼漢らがたむろ していたが、そこに晁蓋(ちょうがい)という反体制の指導者を中心とする同志が入り、制圧して拠点とするのだ。そのときから 山寨は「梁山泊」と呼ばれ「替天行道(たいてんぎょうどう)」の旗が掲げられることになる。「僕の水滸伝でも梁山泊に拠るのは百八人 になりますが、百八人をリアリティのある人間として描くには、その周辺の人物も描かなくてはなりませんから、 百五十人くらい描くことになると思います」 替天行道−−天に替わって道を行うという梁山泊の男たちが、どんな活躍を展開するかは今後の楽しみであるが、 「国家観に正義はない」と言い切る作者だけに、単純な図式でないことだけは、想像できる。「原典では、梁山泊の 反乱軍を滅ぼすことがむずかしいと知った政府側が、懐柔策をとって反乱兵たちを寝返らせ、政府軍に加えて遼(りょう)を 討たせたり、反乱軍を討たせたりして戦死させるんです」 宋江も、最後は奸臣に毒を盛られて死ぬという悲劇で終わるはずだが……。 「梁山泊の反乱は僕にとってのキューバ革命」
ところで、これほど大規模な物語だけに、その執筆もさぞかし大変なことだろう。登場人物は表をつくって参照
しながら書いているという。さらには、その広大な中国大陸のロケーションは−−。「この小説の舞台になっている
ところは、当時とすっかり地形が変わっているんです。中国は大雨がくると、黄河の流れが変わってしまったのです。
変わらないのは上流の山にはさまれた地域だけです」
(藤田昌司)
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