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平成13年4月10日 第401号 P3 |
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目次 | |
P1 | ○なぜ横浜県ではなく神奈川県なのか 樋口雄一 |
P2 P3 P4 | ○座談会 海へのロマン (1) (2) (3) |
P5 | ○人と作品 磯貝勝太郎と『司馬遼太郎の風音』 藤田昌司 |
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座談会 海へのロマン (2)
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藤田 | また追ってくる。 |
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斎藤 | はい。あとサメ。シャチは釣り具のかかった部分だけ残して食べるから絶対かからない。でもサメは頭まで食うから、よくかかってくる。
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藤田 | 残念ですね。 |
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斎藤 | そうです。十三時間とか十五時間とかかかって縄を揚げるんですが、時化の中で揚げたら、全部頭だけだったとか。
これはコンピュータでもわからない世界で、もう漁労長の勘ですね。 魚群探知機に映ったときには、群れは、もうそこにはいないと言いますから。百五十キロぐらいのスピードで泳ぐ ので追いつけないんです。 |
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足立 | イカの遊泳速度は船にかなわないけど、深さはイカの場合ものすごい。通常は水深二百メートルぐらいの所を
移動してますが、水深二千メートルの深海底で発見されたこともあるんです。 |
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今は、船は外国の港に入れたままで船員は飛行機で交代
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藤田 | マグロも最近は群れがなかなか発見できないようで、大変ですね。 |
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斎藤 |
前は一航海に二年近くかけていたんですが、それだと水揚げ高が少ないので、採算がとれない。今は一年二、三か月が平均です。 それで船はそのまま外国の港に入れておいて、船員たちだけ飛行機で交代する。そういうサイクルになっているそうです。 |
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藤田 | さきほど斎藤さんは、漁師じゃない、船乗りという感じだとおっしゃいましたが、やっぱり漁師かたぎは変わってきていますか。
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斎藤 | 僕がマグロ船に乗っていたときは、まさに漁師で海の男でしたね。今のマグロ船は、漁労長や機関長など幹部は日本人ですが、
船員さんたちは、インドネシアの人たちが半分以上です。穏やかで喧嘩もないし、一生懸命働くということです。 人件費の節約のためです。コックもインドネシア人で、日本人が向こうの食事に合わせているそうです。
若い人でマグロ船に乗りたいという人がインターネットを見ますとかなりいますが、日本人よりインドネシア人のほうが人件費が 安いため、若い人がどうしても乗りたければ、一等航海士や船長の資格を取る形でしか乗る道がないんです。 |
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藤田 | 斎藤さんは最初は機関員として乗られたんですよね。 |
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斎藤 | はい。仕事を覚えるだけで精一杯でしたね。途中でコック長の具合が悪くなって、急遽、僕が代わったんです。
二航海目からコック長になりました。 |
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藤田 | どんなことに苦心されましたか。 |
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斎藤 | コックの場合は、日本を出たら帰るまで一日も休みがないんです。外国の港に入っても、外食をしない人もいるから
食事をつくらなきゃいけない。それが精神的にきつかったですね。 あとは野菜不足。だんだんと材料が限られてくる。でもみんなの楽しみは食べることだから、そこを満足させて あげなくてはいけない。その辺ですね。 |
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藤田 | 献立表をつくられていたんですか。 |
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斎藤 |
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足立 | 揺れているときはつくるのも、食べるのも大変ですよね。 |
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斎藤 | 食器がテーブルの上を走りますから、濡れたバスタオルを敷いて。テーブルには、食器が落ちないように枠がついているんです。
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板子一枚下は地獄の底という恐怖感
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藤田 | 船乗りと言うと、板子一枚下は地獄の底という怖い感じがあるんですが、お二人には船は怖いという意識は
なかったようですね。 |
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足立 | いや、ありますよ。『まぐろ土佐船』にも海難事故とか、転落事故の話がたくさん出てきますよね。ケープタウン沖
なんかやっぱり怖いなと思いましたね。 |
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斎藤 | すごい時化ですからね。怖いですね。 |
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足立 |
一晩そういうのが続くと、沈むかと思って寝れないんです。寝ている間に転覆したらどうしようと思うんですね。 ブリッジの一番高い所、すぐ外に出られる場所にいて、一晩まんじりともしないです。それでも漁師さんは寝てますけどね。 それが何日も続くと、こりゃ耐えられないと思いました。 |
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安い輸入物に押されて倒産が相次ぐ水産業界
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藤田 | 日本の漁獲高はかつてと比べると随分減少しているそうですね。 |
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足立 | いずこも同じだと思うんですが、自主規制が始まってます。漁獲可能量(TAC)というのがあって、
スルメイカなら年間いくら捕っていいとか条件を決めてやってるわけですが、制限枠までいっていない。 マグロの場合は、資源の枯渇と海洋環境の悪化と、乗る日本人の減少ですね。日本の第一次産業は どの業種でもいえますが、水産業もかなり危機に陥っていますね。 ただ、食べる量だけは減っていない。商社がどんどん輸入していますからね。今、輸入が全体の四割ですよ。 |
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斎藤 | マグロの場合は、半分が輸入です。 |
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足立 | 水産物を消費する世界の平均は年間一人当たり大体十六キロぐらいですが日本は約七十キロ。世界ではトップランクです。
この消費量をずっと続けるとした場合、輸入の割合をただ増やしていくだけでいいのかという話はありますよね。 |
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斎藤 | マグロの場合もどんどん輸入品が日本に入り込むわけです。冷凍ですから、船の中で二~三年でも保存できる。
それで倉庫に入り切れなくて、清水港では荷揚げできずに、順番待ちで船が待機している状態なんです。それまで してどうして買い付けるのかという問題があります。
ですから、日本船がちゃんと規制を守って操業して、満載にして帰ってきても、輸入物のほうが安いし、規制も いいかげんなので、日本船のマグロの値段が上がらないで、倒産していく。 |
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遠洋漁業が消滅して養殖の時代になるか
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藤田 | それから省力化というか、船に乗っている船員の数が最近非常に減っているそうですね。 |
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足立 | 先ほどの話の延長ですが、漁船でも商船でも基本的に日本人は使わない。使ってない。 |
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斎藤 | マグロ船の場合、人件費が安いから人数はむしろふえているとも聞きます。人数が多ければ、それだけ効率よく
水揚げができる。 |
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足立 | ひょっとしたら遠洋漁業というのは消滅していくかもしれない。あれは一時的に日本人の人件費が安くて、船の
性能がよくて、日本の消費意欲も非常に旺盛だという要素が重なった、そういう時代に現出したんだと思う。 費用対効果からいえば、地球の裏側まで三、四千万円もかけて行って、往復して見合うという時代じゃなくなったんじゃないですか。 |
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藤田 | マグロ船の一航海の水揚げ高はどのくらいなんですか。 |
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斎藤 | 当時、一年半くらいで五億四千万円でしたね。 |
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藤田 | それでどのくらいもらわれたのですか。 |
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斎藤 | 五百五十万円ぐらいでした。 今はホンマグロの養殖が盛んで、地中海やニューヨーク沖でやっている。ミナミマグロはオーストラリアで日本の 水産会社が養殖をしてます。 巻き網で小さいマグロを捕り、養殖場で三~四か月で太らせる。だから、巻き網で捕ったときはキロ千円ぐらいの 魚価が、太らせて、キロ二千五百円とか三千円になって、ホンマグロの生を氷詰めにして日本に飛行機で運ぶ。 |
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藤田 | 味はどうですか。 |
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斎藤 | 素人にはわからないですね。バチマグロなどに比べれば、まさにホンマグロ、ミナミマグロだし。スーパーでも
見かけます。小さいパックで千五百円というのは全部養殖のホンマグロです。 |
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足立 | 奄美大島でもマグロの養殖をやっていますね。 |
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三浦三崎は現在はマグロの流通基地
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藤田 | 神奈川県の三浦三崎もマグロの基地ですが、土佐とは違うんですか。 |
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斎藤 |
それと、土佐人は採算を度外視して一発勝負みたいな性格を持っています。三崎は東京に近いから、これは会社として 成り立つのかとか、ミナミマグロは採算に合わないとか、そういう安定した漁業をやっていたんですね。 今、三崎には船はほとんどないそうで、マグロの漁業組合もだんだん小さくなりましたが、マグロはどんどん市場に 入ってきています。ですから流通のほうで、三崎はマグロの基地になっています。 土佐は四十七隻ぐらいが頑張っていて、土佐船はまだ三本の指に入ると思います。 |
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便宜置籍船という無法船が捕り放題
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藤田 | マグロを捕り過ぎたのは日本ですか。 |
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斎藤 | そうです。あとは便宜置籍船ですね。 |
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足立 |
斎藤さんの本にも書いてありますが、中古になった日本のマグロ船が台湾に行っているんです。それが便宜置籍船になって、 言ってみればまったくの無法船で、捕り放題なんです。 それはまずいので、日本が金を出すから何とか破棄してくれということになった。ところが今度は台湾が船を中国にどんどん 貸している。本当のオーナーは台湾人で、これも捕り放題。そして捕れた魚をとんでもない安値で日本に輸出している。 ですから中国をどうにかしないと。WTO(国際貿易機構)に加盟すれば規制はかかるでしょうが、それまではやりたい放題でしょう。 |
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斎藤 | でも中国のマグロは解剖も荒いし、水洗も雑で、よく血が抜けていないから使えないという話もあります。
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藤田 | 足立さんの『海洋ニッポン』では、捕鯨はそのうち自由になるかもしれないと淡い期待をお書きでしたが……。
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足立 | 取材した時はそうでした。それから少し逆風が吹いてますが。日本鯨類研究所では世界の漁獲量の五、六倍をクジラが
食っていると計算してます。ヒゲクジラのミンククジラも大量のサンマやサバを食べている。それはクジラを裂いてみて わかったことで、その意味では、日本の調査捕鯨というのは意味があると思います。
しかし昨年、ニタリクジラとマッコウクジラの調査捕鯨に踏み切った。これは時期尚早だったと思う。もう少し待って、 それこそ国連方式の、その国のGNPに従って年会費を払う方式にして、それを、イギリスやアメリカがやったように日本が たてかえて、途上国をどんどんIWC(国際捕鯨委員会)に加入させればよかったんです。 数を増やせば、捕鯨再開は賛成多数で通る。イギリスやアメリカはそうやって日本に商業捕鯨を諦めさせたんですから、 同じ手を使って、合法的に戦える。その方策を押し進めていたのに、途中で辛抱ができなくなったんでしょうね。 向こうは、クジラといえばすぐ『モービィ・ディック』のエイハブ船長を連想するから、マッコウクジラはクジラの中のクジラ、 ということになる。日本が、マッコウクジラが余っているからと言って安易に手を出すと、非常に感情を害すわけです。ですから それはやらないほうがよかった。陣取りゲームをやっていけば、まだ勝算はあると思います。 |