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平成13年4月10日 第401号 P4 |
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目次 | |
P1 | ○なぜ横浜県ではなく神奈川県なのか 樋口雄一 |
P2 P3 P4 | ○座談会 海へのロマン (1) (2) (3) |
P5 | ○人と作品 磯貝勝太郎と『司馬遼太郎の風音』 藤田昌司 |
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座談会 海へのロマン (3)
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藤田 | しかし、科学的には調査捕鯨で、日本の主張が証明されてきていますよね。 |
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足立 | はい。南氷洋には七十数万トンのミンククジラがいる。これはIWCの科学委員会で各国の学者たちも認めている。
ですから、そのうちの千頭、二千頭ぐらいは全然問題ないんです。ただ総会では、捕るときに、環境保護団体も乗せろと言う。 そんなのでは仕事はできないですよ。
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救うのは「絶滅に瀕している」クジラ
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藤田 | クジラが少なくなったのは、もとをいえばアメリカが捕り過ぎたんじゃないですか。 |
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足立 | 僕はそう思います。シロナガスクジラとナガスクジラに関しては、日本にも責任があると思いますが、マッコウクジラ、
ホッキョククジラなどの減少に関しては、アメリカの責任は大きい。アメリカは、かつては鯨油をとるためだけにクジラを捕り、 鯨油以外はほとんど全部捨ててたわけですから。「セイブ・ザ・ホエール」というのがキャッチフレーズになっているのがよくないんです。
本当は「セイブ・ザ・インデンジャード・ホエール」なんです。絶滅に瀕しているクジラを救え、と。 それは日本だって救っている。シロナガスクジラもナガスクジラも一切手をつけてないわけですから。ところが、ミンクは シロナガスと同じようなエサを食べて、シロナガスがいなくなったすき間に入ってきて、バッとふえた。それも手をつけちゃいけないというのは、 科学的な態度ではないと思うんです。 |
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藤田 | じっくり説得しなければだめなんでしょうね。 |
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足立 | そう思います。ところが、これがなかなか難しい。でも、やってみる価値はあると思います。我々は魚を食べる民族ですから。
鯨問題はほかのことにも波及します。水産資源の枯渇に関して、我々はもっと積極的に取り組まなきゃだめです。 マグロの場合も、便宜置籍船なんかから買わないで、きちんと国際法にのっとって操業している船から買うように しないと。さもないと、日本は口ではいいことを言っているが、裏で汚いことをやっていると言われることになる。 |
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斎藤 | 水産省もホームページで、便宜置籍船から買った商社を公表しています。大手の商社は不買宣言をして買わないんですが、
中小のマグロ専門の商社は、名前を公表されても、買っている。 |
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斎藤 | それと干潟や藻場を再生するとか、沿岸の環境をよくしなければだめですね。まず有明海あたりからやってもらって魚の稚魚が
育つ環境をもう一回復元していかなきゃだめだと思う。私は船橋に住んでいるので三番瀬にはよく行きます。磯の香りがプーンと して、波打ち際なんか歩くと貝がサッカサッカいうぐらい。
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足立 | 三番瀬はきれいですね。海水が、豊富な生物によって浄化されている。あそこは全面的に残さなきゃ。本当にすばらしい財産です。
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斎藤 | 残したいですね。 |
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足立 | 日本はせっかく世界でベストテンに入るぐらいの広い経済水域を持っているわけですから、海洋牧場みたいなものを
国家プロジェクトでやってほしいと思いますね。海の広さを有効利用する方向です。 今、室戸沖などの海洋深層水がいろいろ注目されていますが、例えば、海洋深層水を利用して湧昇流をつくり、湧昇域に するだけで大分違う。深海の栄養分が上に上がってくると、それだけですごくいい漁場が自然にできる。自然の状態で、漁場を 日本の近くに引き寄せてくるというか。こういうものをもう少し真剣に考えるべきだと思う。 それと、やはり沿岸域の再生ですね。例えば沖縄だったら、沖縄本島の周りは本来は全部マングローブ林でしたから、それを 再生するとか。赤土を垂れ流す現在の工事をやめてサンゴ礁を整えるとか。本州の場合でもそうですね。そういうものに公共事業を使って ほしいわけです。そうすれば、今、ジリ貧状態の水産業も何とか息がつけて、今後も新鮮な魚が食えるんじゃないかと思うんです。 |
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斎藤 | それと、資源は無限じゃないんです。今、飽食の時代といわれ、大人も子供も食べ物を粗末にしている。日本の漁業を残すためにも、食卓から
魚を消さないためにも私たちにも果たすべき義務があると思います。 |
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リズムが違う働き方を若者に見せてあげることが大事
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藤田 | ハワイ沖で「えひめ丸」が米原潜に衝突される悲劇がありましたが、若者たちの間で海洋志向は結構あるんですか。
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斎藤 | そうですね。船橋港も、三時頃になると、底引きや巻き網船がどんどん帰ってくる。脱サラ漁師というか、船橋あたりでは
若い人が誇りを持ってやっています。 |
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足立 | 漁師の生態が生々しく描かれている『まぐろ土佐船』で非常に重要なのは、漁師さんや船員さんのライフスタイルや
働き方が陸のそれとは違うということがキチンと描かれているところです。そこが重要なんですね。 ふだんは、てれーっとしていますが、一たび嵐になったり、縄を揚げるときなんかはとんでもないす早い動きで全力を出し切る。 それが数時間でぴたっと終わると、また、てれーっとしていたりする。 陸の仕事とはリズムが違う働き方なんですね。非常に男らしい仕事でもあるし、天候を読んだり、生物にも通じたり、各地の港を 通して外国のことも知らなきゃだめだし。それはそれでいろんな知識が必要なんです。 若い人に、海の上にも生きる場所があるんだ、そういう所も面白いんだよ、ということを見せてあげることが大事だと思う。 大学を出て、会社で働くしか生きる道がないといやになる。そうじゃない働き方をして、輝いている男の子は、かつてはたくさんいた。 僕は第一次産業応援団なんですが、第一次産業で働く人たちをもっと認めなきゃだめですね。 |
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マグロ船での仕事ぶりを家族に知ってほしい
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斎藤 | 『マグロ土佐船』を書いた理由の一つは、遠洋マグロ船で父親や亭主がどうやって仕事をしているのか、ほとんど家族の人は
知らないんです。長い航海から帰ってきて、家ではごろごろしている格好の悪いところばかり家族は見ている。だけど、沖に出ると そうじゃないんだ、こういう仕事をしているんだと。そこら辺を知ってもらいたいというのがありました。
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足立 | 僕もカツオ船やイカ船に乗って、まず思ったのはロープワークのすごさですね。たくさんの技法をTPOに応じて使い分けて、あっという間に
作業を終える。網やひもの使い方、ひもとひもの結び方、これはすごいです。それだけでも芸術的ですね。二度と解けない結び方、簡単に誰でも 解ける結び方とか、何百もある。それをTPOに応じてすぐやるわけです。
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斎藤 | だから、縄が切れたというと、パッパッと一瞬のうちに結ぶ。絶対ほどけない。 |
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足立 | それも揺れの激しい甲板で、すべりながらやる。 |
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斎藤 | 尊敬しますよ。 |
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藤田 | 脱サラで海を志向する若者も結構増えているというお話でしたが、その辺はいかがですか。
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足立 | はい。女性も熱心でした。夫婦船というのもありますから。イカなんか北陸の船で夫婦船が多く、北海道あたりまで
一緒に釣って、二、三か月して帰ってくる。 |
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藤田 | 丸木舟をつくって実験をしてみようというグループもありましたね。 |
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足立 |
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藤田 | 丸木舟で航海をしたいという気持ちは人間のロマンですかね。 |
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足立 | 現在の若者も何か手ごたえのあるものを求めているんじゃないですか。黒曜石が運ばれたというのは研究すればわかりますが、
それを実際やってみるというのは個人的な体験ですから。 |
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藤田 | 漁船に乗ってみるというのも、同じような意味がありますね。 |
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斎藤 | そうです。もしかしたら非現実的なことですね、漁船に乗ることは。 |
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足立 | やっぱり体で感じたいというのがありますよね。 |
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斎藤 | あります。だから、マグロ船の場合は二通りあります。根っからの漁師が乗るのと、僕たちみたいに都会の人間が
体験したい・稼ぎたいとか。そういう余所者が大体どこの船でも何人かいる。 |
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未知の世界ばかりの海の中
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足立 |
深海の太陽光の届かない所に、生物がたくさん生息しているのがわかったのはついこの間のことですからね。 また、北大西洋のグリーンランド沖や南極沖で冷却された海水が深く沈み、ゆるやかな深層海流となって、世界の海底を約二千年かけて 循環している事実なんて、知るだけでロマンがわいてくる。 現在問題になっている養殖なんかの弊害も、海洋深層水で育てた親魚は、今のところ病気が出てないから、恐らくいろんなことに使える んじゃないかと思う。 ですから、親魚生産はひょっとしたら、これから海洋深層水でやる時代になるのかもしれないです。海の深い所、深海に目を向けることに よって、いろんなことが見えてくると思うんです。 |
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藤田 | いずれにせよ、海というのはまだまだ未知の分野ばかりで、これから期待の持てる分野だと思うんですね。
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海における価値観をもう少し考えの中に入れてもいい
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足立 | 『まぐろ土佐船』の中で、林勝明さんという若い人が最初は甲板員として出てきて、最後は、一等航海士になっている。
あの話はいいなと思う。ああいう人がいるから、土佐船は続いているわけだし、非常にはっきりとした夢と希望を持っている。 人間が魚を捕ってくるんだ、人間が沖で働いているんだというのが、林さんの最初と最後の登場でわかります。すばらしいですね。
海は不思議なことに男心をかき立てる。 |
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斎藤 | 何なんでしょうね、僕は「海」という字を見ただけで、何かわくわくしてきますものね。 |
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足立 | 海からの視線とか、海における価値観とか、海での暮らし方とか、そういうものは常に陸の世界の活動と不即不離の
関係にあったわけですが、今まで、ともすると軽視されてきましたから、もうちょっと考えの中に入れてもいいんじゃないか。 それから若者の人生の選択肢の中に入れてもいいし、就職先として考えてもいい。その条件を整える責任が社会の側にあると思うんです。 |
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藤田 | きょうは、どうもありがとうございました。 |
あだち のりゆき |
一九四八年鳥取県生れ。 |
著書『海洋ニッポン』岩波書店2,310円(5%税込)、『森林ニッポン』新潮社1,470円(5%税込)、ほか。 |
さいとう けんじ |
一九四七年東京生れ。 |
著書『マグロ土佐船』小学館1,575円(5%税込)。 |