■『有鄰』最新号 | ■『有鄰』バックナンバーインデックス |
平成14年9月10日 第406号 P5 |
|
|
目次 | |
P1 P2 P3 | ○座談会 北方「水滸伝」の魅力 (1) (2) (3) |
P4 | ○井伏氏の原稿 出久根達郎 |
P5 | ○人と作品 逢坂剛と『重蔵始末』 藤田昌司 |
|
人と作品 |
蝦夷地探検隊・近藤重蔵の若き日を描く時代小説 逢坂剛と『重蔵始末』 |
|
火盗改として凶悪な事件を次々に解決 国際派ミステリー作家として知られる逢坂剛氏が、初の時代小説シリーズを出した。蝦夷地探検家として間宮林蔵、最上徳内などと並び称される近藤重蔵が若かりし日、火付盗賊改方与力として活躍する『重蔵始末』(講談社)だ。「時代小説は、作家になったときからいつかは書きたいと思っていたのですが、 勤めもあって、ハードボイルドで手いっぱいでした。四年前に勤めを辞めたとき、いよいよ書こうと決意し、資料集めなど助走に入っていたんです」
博覧強記、機略縦横の上に六尺(約百八十センチ)近い大男、酒も腕力も強い重蔵は若党の根岸団平、同心の橋場余一郎を使って凶悪な事件を次々に見事に解決していく、という胸のすくようなストーリーがこのシリーズだ。「そのころの重蔵についての記録はほとんどありませんので話はフィクションですが、時代背景だけは 史実に基づいてキチンと書きました」 第一話「赤い鞭」から第五話「猫首」まで、いずれも寛政初期の物情騒然とした江戸市中が背景として書き込まれている。たとえば第五話「猫首」。深夜みんな寝静まったころ、商家にひそかに潜入する賊に金品が盗まれる事件が相次ぐ。死者も怪我人も出ないが、その家の飼い猫が首をへし折られ、皮をはがされて厠(かわや)の便壺に 投げ込まれているという不気味な点が共通していた。この事件は作者のフィクションだが、当時の背景として描かれている「葵小僧」の事件は史実だ。深夜、葵の御紋の高張提灯を先頭にかかげて大店の商家に押し込み、金品を強奪するだけでなく、手向かう者は容赦なく殺し、婦女子とみれば手あらく犯した。この一味はやがて、 鬼平に捕えられたらしい……。 ところで、第一話に「赤い鞭」とあるように印象的なのは重蔵のいでたちだ。重蔵は町与力と違って羽織の裾を巻き込んでいない。そして外廻りのとき、脇差を持たず、代わりに赤い色の二尺三寸ほどの鞭を腰に差しているのだ。重蔵の説明によると“牛の一物”の皮でこしらえた鞭で、よくしなり、強靱このうえもなく、これで叩かれると、 どんな悪党でも悲鳴を上げて泥をはくという。「ああ、あれはフィクションというより、僕が持っているものです。スペインへ行ったとき買ってきたもので、やはり、“牛の一物”でつくったものです。叩くとすごく痛いですよ」 時代背景だけでなく当時の会話などにも配慮
ところで、このシリーズの装画と挿絵を担当しているのは、時代考証の第一人者として知られる中一弥氏。逢坂氏の父だ。「子供のころから父の苦労を見てましたから、いい加減なことは書けません。父は小説は時代考証にこだわりすぎて興味がそがれるようなことになってはいかんと言ってくれましたが、やはり江戸時代の図録などをよく調べて、
イメージを頭に入れてから書きました」
(藤田昌司)
|
『有鄰』 郵送購読のおすすめ 1年分の購読料は500円(8%税込)です。有隣堂各店のサービスコーナーでお申込みいただくか、または切手で〒244-8585 横浜市戸塚区品濃町881-16 有隣堂出版部までお送りください。住所・氏名にはふりがなを記入して下さい。 |