■『有鄰』最新号 | ■『有鄰』バックナンバーインデックス |
平成14年5月10日 第414号 P5 |
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目次 | |
P1 P2 P3 | ○座談会 横浜港大さん橋 (1) (2) (3) |
P4 | ○横浜・野毛−大道芸人がやって来る街 森直実 |
P5 | ○人と作品 阿川佐和子と『いい歳 旅立ち』 金田浩一呂 |
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人と作品 |
軽妙でリズミカルなエッセー集 阿川佐和子と『いい歳 旅立ち』 |
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落語好きと“頭の中の朗読”が文章にリズムを 〈電車に乗ったら、前に座っている女性が文庫本を読んでいた。えらいなあと思った。電車で読書に集中している人の姿を見かけるたびに、激しいコンプレックスと憧憬の念を抱かざるを得ない。〉阿川佐和子さんの『いい歳旅立ち』(講談社)の「読めないもの書き」と題した章の冒頭である。
「いまでもそうなんです。電車で本を広げて何頁か目を通しているうちに、周りの人の話し声がピンピン耳に入ってくるんです。途中でハッと気づくと、いままで読んだはずのところが全然頭に入っていないんです」 同じ疑問は〈父はことあるごとに私を叱った。本を読みなさい。読まないからお前はダメなんだ〉と本書にも書かれているように父君の阿川弘之氏にもあったらしい。 氏の最新刊『春風落月』中の「娘の学校」に〈何しろ本を読まない子供だった〉娘が文章を書き始めたと聞いて愕然としたとある。その後〈時には親の欲目かと疑ひながら、「あれ、案外うまいぞ」と感心することすら〉あるようになった。理由を考えると〈どうも最後に落語が残る〉。 落語好きの父君は、志ん生、文楽のテープを車の運転中など繰り返し聞き、「つまらない小説読むより、こっちの方がずっと勉強になる。散文だって此の種の話芸と同ンなじで、一番むつかしいのは間の取り方なんだ」と言い聞かせていたのだという。「落語の影響は他の方からも指摘されたことがあります。私は落語にある江戸の下町の風景とか、男女関係が好きなんです。志ん生の『替り目』知ってますか」と、その筋書きを語ってくれたが、巧みな声色と記憶力に感心した。 もう一つ、著者は本を読むとき、声こそ出さないが、一字一字を頭の中で朗読している感じだという。冒頭にあげた文章につづいて〈今でもおそらく普通の人の三分の一ぐらいのスピードでしか活字を読むことができない〉とあるのはそのためだろう。だがその“頭の中の朗読”が文章のリズムを体に染み込ませているのではないか、と思う。 父母兄弟のこと、自分のこと、世間一般もろもろのこと 本書は、これまでに書きためたエッセーが、I「確認家族」、II「主役時代」、III「いい歳 旅立ち」に分けられている。 (金田浩一呂)
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