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平成15年6月10日 第427号 P5 |
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目次 | |
P1 P2 P3 | ○座談会 小島烏水と版画コレクション (1) (2) (3) |
P4 | ○大自然の愛・母の愛 鮫島純子 |
P5 | ○人と作品 前田速夫と『異界歴程』 藤田昌司 |
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人と作品 |
日本文化の影の部分に光をあてた歴史・民俗学エッセイ 前田速夫と『異界歴程』 |
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全国に伝わる白山信仰の謎を追う
前田速夫(はやお)氏の『異界歴程』(晶文社)。近ごろ、これほど知的刺激に富んだ本は珍しい。全国が平準化し、都市化してしまった現代、その奥に分け入り、日本民族の底辺にひそんでいる文化の影の部分に光を当てているからだ。全八編、そこに通底しているのは、白山信仰の謎である。白山信仰とは古代の死と再生の秘儀にかかわる信仰だ。 「白山信仰に関心をもったきっかけは、社の先輩にすすめられて菊池山哉(さんさい)の本を読んだことでした。菊池山哉といっても、一部の被差別部落史の研究者か、歴史の裏読みのマニアぐらいにしか知られていない、異端の民俗学者でしたが、それをもとに地図を見だして、好きになってしまったんです」 著者は、最近まで新潮社の雑誌『新潮』の編集長だったが、同好の士とともに「白山の会」を結成、激務の合間を縫って知のトレッキングに参加した。白山信仰は全国いたるところに形を変えて伝えられており、みちのくの果て恐山の、イタコの口寄せで知られるオシラサマも、その流れだという。 巻末に収録されている谷川健一氏と著者の対談の一部を引用しよう。 |
谷川 |
『異界歴程』の隠れた一番大きなテーマは白山信仰ですね。白山(しらやま)への道をあちらからこちらからとたどっている。頂上は雪に覆われたり紅葉だったりして、よくわからないけどね。
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前田 | 白山信仰がどういうふうに広まっていったかは謎なのですね。白山(はくさん)神社と白山(しらやま)神社とは区別されて、後者は被差別部落の神様だとされるんですが、はたしてそうだろうか。正式にはどちらも白山比「め」神社(しらやまひめじんじゃ…「め」は口編に羊)です。よく言われるのは、江戸時代、浅草の弾左衛門が自分の子供が病気になったときに白山神を邸内に勧請したところ効き目があった。それで各地の部落がそれを見習ったという。それもあるだろうけれど、もっと以前から、白山信仰を祀っていた部落はたくさんあります。では、古い時代に、白山神は誰がどういうふうにして広めたのか…。
もうひとつは『日本書紀』の一書の十にのみ登場する菊理姫を白山信仰の主神としていることです。(以下略) |
広範に及ぶ知のトレッキング この対談でも明らかにされているが、著者が民俗学に興味を抱くようになったのは、中学生だった1950年代にでた谷川健一氏編集の『風土記日本』七巻(平凡社)を読んだのがきっかけだという。 そして、それが決定的となったのは『日本残酷物語』(平凡社)の第一巻「貧しき人々のむれ」と、第二巻「忘れられた土地」を読んだことによるという。 それだけに、本書の知のトレッキングも広範に及ぶ。ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の島根県松江市から、東京都八丈支庁の青ヶ島、魔法の谷の岐阜県上宝村の双六、南海の奄美大島……と各地にわたり、博引旁証される文献も柳田國男や折口信夫はもちろん、泉鏡花や現代作家の高田宏の作品まで、まるで自家薬籠中だ。したがって話柄も多彩だ。 たとえば第2話「ネズミの話」では、日本各地に伝わるネズミにちなんだ地名をたどり、その語源が、じつは”寝ず見”、つまり不寝番としての見張り、関所や番所のあったところだったと明らかにする。また、木彫りの仏像で有名な円空は、じつは癩患者であったとする説も驚異だ。 奄美大島には壇ノ浦の合戦で源氏に敗れた平家一門のうち、平資盛、有盛、行盛らが逃げのびてたどりつき、有盛の居住跡が神社となって残されているという。 このような、平家の公達が落人となって辺地に逃げのびたという、いわゆる平家谷伝説は各地に残っているが、なかでも異色なのは、入水したはずだった幼帝・安徳天皇も生きのび、鬼界島(鹿児島県三島村硫黄島)には、その末裔と称する人がいて、島のひとから「天皇さん」と呼ばれているという。ここまでくると著者も半信半疑のようだ。 「すべてが事実とは思いませんが、口碑伝承として、そのようなことを今日まで伝えるところに、僕は興味があるんです」 いわば虚構の真実ということであろう。題材はまだたくさんあり、本腰を入れて取材にとりかかりたいと、意欲を燃やしている。白山信仰の謎が解き明かされるときがくることを期待しよう。 前田速夫 著 『異界歴程』 晶文社 2,940円(5%税込) ISBN 479496563X (藤田昌司)
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