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第75回 2009年6月4日

●執筆者紹介●
 
加藤泉
有隣堂 読書推進委員。
仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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〜今、最も注目の作家・湊かなえ登場!〜

  加藤:   今回は、デビュー作『告白』で第6回本屋大賞を受賞された湊かなえさんをゲストにお招きしています!
 
  湊:   こんにちは、湊です。 このたびはお招きいただき、ありがとうございます。
 
  加藤:   もう何度も同じ質問をされていると思いますが、本屋大賞受賞が決まった時はどのようなお気持ちでしたか?
 
  湊:   信じられませんでした。 そういうときって、本当につねってしまうんだな、って実感したくらいです。
 
  加藤:   受賞する前とした後で、湊さんの周囲に変化はありましたか?
 
  湊:   近所の人たちには作家デビューしたことを内緒にしていたのですが、テレビに出していただいたおかげで、一気に知れ渡り、すごく驚かれました。
 
  加藤:   それでは、デビュー作『告白』から順にお話を伺ってまいりましょう。
 
 デビュー作 『告白
 
  加藤:   第一章「聖職者」で小説推理新人賞を受賞さ れたのがデビューのきっかけと伺っています。 その 後、連作としてお書きになり『告白』として1冊の本 になったわけですが、その経緯について教えていた だけますか?
 
告白・表紙画像
告白
双葉社:刊
 
  湊:   小説推理新人賞の授賞式後の食事会のとき、担当編集者の平野さんに「あの後、どうなるの?」と聞かれたのが、続きを書くことになったきっかけです。
 
  加藤:   独白していく人物が章ごとに替わっていく形式で、まるでその人物が湊さんに乗り移ってしまったような感じを受けました。 編集者の方は「憑依」と仰っていましたが、書き始める前に何か儀式のようなものを行われたのですか?(笑)
 
  湊:   儀式、というか、普段の生活の中でも、視点人物になりきったりしていました。 お母さんになったつもりでファストフードに行ってみよう、とか、直くんになったつもりでクイズ番組を見てみよう、とか、修哉くんになったつもりで文学作品を読んでみよう、とか。 おもしろかったです。
 
  加藤:   なるほど道理でリアリティがあると思いました。 それにしても主人公の女教師が怖い! ドラマ「女王の教室」の天海祐希のようでした。 湊さんにとって理想の教師像とは?
 
  湊:   先生自身の姿ではなく、教えたことを、生徒の記憶に残せる先生。
 
  加藤:   『告白』は後味が悪いということで評判ですが、そう言われることについてどう思っていらっしゃいますか?
 
  湊:   何かを感じていただけた、という点ではありがたいと思っています。 ただ、できれば「悪かった」で終わらせるのではなく、「じゃあ、どうすればよかったんだろう」とか「こういう続きがあるかもしれない」と考えていただけると、もっとありがたいです。 最悪の結末を回避させる要素は残していますので…。
 
 〜第二作『少女』〜
 
  加藤:   次に、第二作『少女』について伺います。 2人の女子高生が「死体を見たい!」と切望して夏休みに老人ホームや病院で働くという設定ですね。 スティーブン・キングの『スタンド・バイ・ミー』を思い出したのですが、このお話を思いついたきっかけは?
 
少女・表紙画像
少女』 
早川書房:刊
 
  湊:   10代って、目先5分のことだけを考えながら生きてるような子が多いんじゃないかな、と思って。 その場限りの円満解決を続けているうちに、気が付いたらとんでもないことになってるかもしれないよ、という話を書きたいと思ったのがきっかけです。
 
  加藤:   読みながら、野球選手の追っかけをしていた自分の高校時代を思い出しました。 湊さんはどのような高校生だったんですか?
 
  湊:   朝から晩まで部活(剣道部)。 とにかく、部活、部活、部活、の日々でした。
 
  加藤:   剣道部ですか!ちょっと意外です。
湊さんは、これまでに死体を目撃して人生観が変わったという経験はおありですか?

 
  湊:   ありません。 でも、見ず知らずのおばあさんの遺体のほっぺにキスをしたことはあります。 人生観は変わりませんが、死に対する考え方は少し変わったかもしれません。
 
  加藤:   遺体のほっぺにキス!それはまた貴重な経験ですね!
 
 最新作 『贖罪』
 
  加藤:   さあ、いよいよ話題の最新刊『贖罪』について伺います。 あらすじを湊さんからざっとご説明していただけますか。
 
『贖罪』
贖罪
東京創元社より
6月中旬刊行予定
予価1,470円
(5%税込)
 
  湊:   空気のきれいな田舎町で殺人事件が起こります。 殺されたのは10歳の女の子。 一緒に遊んでいた4人の女の子たちは、犯人の顔を目撃しているはずなのに、思い出すことができません。 そんな彼女たちに、被害者の母親が「時効までに犯人の顔を思い出すか、それに見合った償いをしなさい」と言います。 さて、4人の女の子たちはその後どうなったでしょう……というお話です。
 
  加藤:   4人の少女の描き分けが見事です! 『告白』の時のように登場人物がまた湊さんに憑依してしまったように感じたのですが…。
 
  湊:   今回は自分が通過した年齢の女性、ということで、楽しくなりきらせていただきました。
 
  加藤:   都会と田舎の対比も印象的でした。 湊さんは広島でお生まれになり、青年海外協力隊に参加してトンガに行かれたこともあると伺っています。 住む土地が人間形成に影響を及ぼす、と実感されたこともあるのではないでしょうか?
 
  湊:   あるような、ないような、微妙なところです。 土地の影響だと思っていたことも、やっぱりパーソナリティの問題なのかな、と思うようになってきたので。
 
  加藤:   ラストはこれまでの作品で最も爽やかだと思いましたが。
 
  湊:   読後感の悪さを狙っているわけではないので(笑)。
 
  加藤:   失礼いたしました(笑)。
 
  湊:   この話では、このラストだな、と思って書きました。
 
 さいごに
 
  加藤:   今後の作品の刊行予定を伺ってもよろしいですか?
 
  湊:   東京創元社さんの「ミステリーズ!」で「Nのために」を連載中です。 双葉社さんの「小説推理」でも、8月号から連載をさせていただきます。
 
  加藤:   湊さんがお仕事をされる上で、これだけは守っているという信条のようなものはありますか?
 
  湊:   手を抜かない! 締め切りを守る!
 
  加藤:   最後に、湊さんのファンの方々にメッセージを!
 
  湊:   好みに合う作品も、合わない作品もあると思いますが、末永くおつきあいいただければ、幸いです。 これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
 
  加藤:   湊さん、今回はお忙しい中、本当に本当にありがとうございました!
 
 
 

インタビュー/文・読書推進委員 加藤泉

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