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第77回 2009年7月9日


●執筆者紹介●


加藤泉
有隣堂読書推進委員。

仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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  〜第141回直木賞大予想〜
  (この鼎談はフィクションであり、実在する人物・小説上の人物とは関係ありません)
 
 
平尾才助
(55歳…書店員歴33年)

悠木和雅
(44歳…書店員歴15年)

野口魚子
(33歳…書店員歴6年)
  悠木:   さあ、またもや直木賞の季節がやってまいりました。
 
  野口:   今回も私たちは本命・対抗・大穴と予想しなくてはならない辛い立場にいます。
 
  平尾:   毎度のことながら誰にも頼まれてないけどな。 俺たちも好きだよな。
 
  悠木:   今回の候補作は時代小説あり、ばりばりのミステリーあり、とバラエティに富んでいます。
 
  野口:   予想するのが本当に難しいですね。
 
  平尾:   ハズれてもともとのつもりで気楽にやろうぜ。 我々の使命はお客様に少しでも興味を持っていただくことなんだから。 これも毎回言っているけどな。
 



秋月記・表紙画像
秋月記
葉室麟:著

角川書店
1,785円
(5%税込)

   本命・葉室麟 『秋月記』(角川書店)
 
  平尾:   おいおい、本命は北村薫じゃないのか?
 
  野口:    今回は版元関係なしに作品だけで決めさせてください。 これでハズれても悔いはありません!
 
  平尾:   どうしたんだよお。 やけに力が入ってるじゃないかよお。
 
  野口:   だって、本当にいい作品なんですよ、『秋月記』。 今年のベストワンと言っても過言ではありません。
 
  悠木:   野口がここまで時代小説を推すのは珍しいですね。 葉室麟は前回も『いのちなりけり』で候補になっていますが、確かに作品の質は段違いに良くなっています。
 
  平尾:   そうだな。 『いのちなりけり』は話が入り組んでいて誰が誰だか途中からよく分からなくなったけど、この『秋月記』はすっきり整理されている気がしたな。
 
  悠木:   ただ、ひとつ懸念されるのが、先日行われた山本周五郎賞の選考で、選考委員の浅田次郎先生が『秋月記』に対して辛い評価を付けていることなんですよね。 浅田先生は直木賞の選考委員にもなっていますからね。 『秋月記』の受賞は難しいかもしれないな、野口。
 
  野口:   ちょっとユーハイムまで行ってきます!
 
  平尾:   どうしてだ?
 
  野口:   浅田次郎先生のお好きなフランクフルタークランツというお菓子をお送りしてきます!
 
  平尾:   おまえが袖の下を贈っても何にもならないと思うぞ。
 



鷺と雪・表紙画像
鷺と雪
北村薫:著

文藝春秋
1,470円
(5%税込)

   対抗・北村薫 『鷺と雪』(文藝春秋)
 
  平尾:   北村薫は6回目の候補か。 とっくに受賞していていい作家なのにな。
 
  悠木:    直木賞には「6度目の正直」なるものが存在するんですよ。 東野圭吾も宮部みゆきも6回目で受賞しています。 北村薫もいよいよですね。
 
  平尾:   あれ? 野口はどこに行ったんだ?
 
  悠木:   ユーハイムに行っています。
 
  平尾:   本当に行ったのか!馬鹿な奴め。 野口がいない隙に本命は北村薫に変更した方がいいんじゃないか?
 
  悠木:   まあ、今回は野口の好きなようにやらせておきましょうよ。 北村薫も鉄板かと言われればそう言い切れない部分もありますからね。
 
  平尾:   どうして?
 
  悠木:   『鷺と雪』はシリーズ第3作目ですが、2作目の『玻璃の天』が第137回の候補になった時にけっこう辛い評価で落とされています。 それを覆すだけのものがこの作品にあれば話は違ってきますが…。
 
  平尾:   でも、いかにも直木賞を受賞しそうな装丁じゃないか。 やっぱりこっちを本命にした方がいいんじゃないか?
 



プリンセス・トヨトミ・表紙画像
プリンセス・トヨトミ
万城目学:著

文藝春秋
1,650円
(5%税込)

   大穴・万城目学 『プリンセス・トヨトミ』(文藝春秋)
 
  悠木:    万城目学は2度目の候補です。
 
  平尾:   鹿男あをによし』が候補になった時の選評は酷かったな。
 
  野口:   はい。 鹿が喋る時点でもう受け容れられなかったんでしょうね。
 
  平尾:   戻ってきたな、野口。 ちゃんと贈れたのか?ケーキは。
 
  野口:   それが…、よく考えたら浅田次郎先生の住所を知らなかったんですよね。 テヘッ!
 
  悠木:   うん、贈らなくて正解だと思うよ。 大穴は万城目学でいいか?
 
  野口:   異議なしです!豊臣秀吉の末裔が今も大阪に暮らしている、というお話ですね。 ロマンがあっていいじゃないですか。
 
  平尾:   そうか。 わしはどうも万城目学は合わないな。 何だかさっぱり分からなかった。
 
  悠木:   そこなんですよ。 平尾さんと同年代の選考委員の先生方がどこまで万城目ワールドに耐えられるかが焦点になってくると思います。
 



きのうの神さま・表紙画像
きのうの神さま
西川美和:著

ポプラ社
1,470円
(5%税込)

   西川美和 『きのうの神さま』(ポプラ社)
 
  悠木:    西川美和は初めての候補です。 驚きました。
 
  野口:    私も驚きました! この人の文才に驚きました。
 
  平尾:   確かに。 映画監督が余興で書いたものと思って読んでみたら腰を抜かすぞ。
 
  悠木:   はい。 2006年に監督した映画『ゆれる』が各映画賞を受賞して注目されましたが、『ゆれる』を自らノベライズした小説は三島由紀夫賞の候補にもなっていたんですね。
 
  平尾:   いやはや、すごい才能の持ち主がいたものだな。
 
  悠木:   この『きのうの神さま』には、日本の医療制度をテーマにした短編が多く収録されています。 「医療ドラマは多いが、“僻地で働く素晴らしい医師、温かい村民”という構図ではくくれない現実を描きたかった」と著者はインタビューで答えています。
 
  平尾:   自分の行く末を考えたとき、非常に身につまされるものがあるな。
 
  野口:   田舎に暮らしているお年寄りとか、夫のために仕事を辞めた専業主婦など、どこにも行くことのできない人たちの閉塞感みたいなものを描くのが抜群に巧い作家ですよね。
 
  平尾:   この作品が受賞しても全く疑問に思わないな。
 



乱反射・表紙画像
乱反射
貫井徳郎:著

朝日新聞出版
1,890円
(5%税込)

   貫井徳郎 『乱反射』 (朝日新聞出版)
 
  悠木:    貫井徳郎は2回目の候補です。
 
  野口:    『乱反射』、すっごく面白かったです! 幼い子どもが死んでしまう話だということは冒頭で分かるのですが、ボランティア活動に勤しむ主婦や飼い犬を溺愛する老人、覇気のない青年医師、病弱な大学生などの話が順繰りに描かれていきます。 一体どこに連れて行かれるんだろうと思いながら読んでいたのですが、これらのエピソードが幼児の死亡事故に収斂されていく展開が見事でした。 続きが気になって一気に読みました。
 
  平尾:   ああ、これは確かに面白かったな。 また、登場人物ひとりひとりの描き分けも巧いな。 これだけたくさん登場人物がいながら、頭の中がごちゃごちゃになることがなかったからな。
 
  悠木:   貫井徳郎は第135回に『愚行録』で候補になっています。 その時にけっこう辛い評価を受けたのですが、その酷評をきちんと咀嚼して自分なりに研鑽した印象がこの作品からは伺えます。
 
  平尾:   いい線行くんじゃないか?
 
  悠木:   ただ、突っ込みどころが全くないかと言われるとそうでもないですからね。
とかく直木賞の選評では、驚くようなところを突っ込むことが多いので。 何とも言えませんね。
 



鬼の跫音・表紙画像
鬼の跫音
道尾秀介:著

角川書店
1,470円
(5%税込)

   道尾秀介 『鬼の跫音』 (角川書店)
 
  悠木:   葉室麟と同じく、道尾秀介も前回に続いてのノミネートです。
 
  平尾:   今、ノリにノッてる作家だろ。 受賞してもおかしくないんじゃないか。
 
  悠木:   勢いは一番あるかもしれませんが、この作品で受賞したらファンは怒るかもしれません。
 
  野口:    悠木さんと違ってミステリ脳のない私は、初期の道尾作品にはどうにも付いていけなかったのですが、最近だいぶ道尾さんの作品を愉しんで読めるようになりました。 これは私がミステリーを読めるようになったのではなく、道尾作品が一般読者向けに傾いてきているからなのだと思っているのですが。
 
  平尾:   確かに。 そういう点では選考委員にも好印象を与えるかもしれないな。
 
  悠木:   前回の選考でも道尾秀介はかなり高評価でしたからね。 今回受賞するかどうかはともかく、いずれ直木賞作家になることは間違いないですね。
 


 
  悠木:    以上で私たちの予想する本命・対抗・大穴が出揃いました。
 
  平尾:   今回は野口の意見が強力だったな。
 
  野口:   えへへ。 たまにはいいじゃないですか。
 
  悠木:   結論としては、どの作品が受賞してもおかしくない、ということです。
 
  野口:   ずるい大人の見本みたいな「まとめ」ですね。
 
  平尾:   どの作品も読んでみて損はないものばかりだということだ。
 
  悠木:   第141回直木賞の発表は7/15(水)の夜です。 皆様お楽しみに!
 
 
文・読書推進委員 加藤泉

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