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第79回 2009年8月6日 |
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〜夏が足りないあなたに〜 | |||||||||
いよいよ8月。 夏、真っ盛り!と言いたいところだが、梅雨に逆戻りしたようなすっきりしない空模様が続く今日この頃。 今回は、なんだか夏って感じがしな〜いとお嘆きの方に、少しでも夏らしさを味わっていただける本をご紹介したい。 文芸書好きにもきっと気に入っていただけるコミック3点だ。 |
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まず最初に、鈴木ともこ『山登りはじめました』。 本書の帯によれば、女子登山が「きている」とか。 本書は、運動音痴でインドア派の著者がいかにして登山にはまったのかを描いたコミックエッセイだ。 ダイエット、ストレス解消、健康アップなど、「登山」と聞いて真っ先に思い浮かぶ効能についてももちろん触れているが、本書を読むと、なぜ人はかくも山に惹かれるのか、がよく分かる。 グルメ、お土産、温泉など女性の心をくすぐる情報も満載だが、高山病にならないための「正しい山の歩き方」にも触れられていて実用性にも優れている1冊。 今年の夏は、本書を片手に山登りに挑戦!というのもよいのではないだろうか。 |
山登りはじめました 鈴木ともこ:著 メディアファクトリー 1,155円 (5%税込) |
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次に、こうの史代『この世界の片隅に』。 『夕凪の街 桜の国』でヒロシマを描いたこうの史代が、再度「戦争」をテーマにした全三巻のコミック。 広島から呉に嫁いだ「すず」というヒロインの楽しげな生活がホームドラマのように綴られ、当時の人々の暮らしぶりがコマから溢れ出さんばかりに描かれている。 このおっちょこちょいで天然ボケなヒロインのキャラクターがとても良く、なんとも大らかな気持ちにさせられる。 が、戦局が悪化するにつれて大事なもの(体の一部も)がすずの周りから奪われ、天真爛漫な彼女も世界の「歪み」に気づいていく。 その過程は胸を締め付けられるほど辛いのだが、読み終わった後は奇跡的なほど前向きな気持ちにさせてくれる本である。 ラスト間近で、本書のタイトルの意味が分かるセリフが出てくる場面では涙が溢れて仕方なくなるはずだ。 戦争を抜きにしては語ることの出来ない日本の夏。 今年の夏はこの作品を読んで当時の人々の生活をしみじみ味わってみるのもよいのではないだろうか。 |
この世界の片隅に (上)・(中)・(下) こうの史代:著 双葉社 各680円 (5%税込) |
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「君こそ淋しがらんか ひまわりのずばぬけて明るいあのさびしさに」という佐佐木幸綱の短歌がある。 イタリア映画『ひまわり』を挙げるまでもなく、輝ける夏の太陽のようなこの花を、悲しみの象徴とする例は多く存在する。 村上たかし『星守る犬』を読んだ後にこの表紙をつくづく眺めると、上に挙げた短歌の味わいが深く理解できる。 本書によれば、「星守る犬」とは「犬が星を物欲しげに見続けている姿から、手に入らないものを求める人のことを表す」とのこと。 廃車の中から男性の遺体と犬の死体が見つかる場面で本書は幕を開ける。 鑑定の結果、男性は死後1年から1年半、犬は死後3ヶ月だとわかる。 この「ふたり」はどのようにして出会いこのような結末に辿り着いたのか。 涙なくしては読めないこの夏一番の話題作だ。 実際にこの本を読んで感じていただきたいので詳しくは書かないが、この本を読んだ多くの人が、これは自分にも起こり得る物語だ、と思うことだろう。 「普通に真面目に生きている人が、理不尽に苦しい立場に追いやられていくような そんな世の中だけは、勘弁してほしい」と「あとがき」で著者は書いている。 衆院選挙も最後に控えているこの夏、本書を読んで自分たちの暮らしている社会についてじっくり考えてみるのもよいのではないだろうか。 |
星守る犬 村上たかし:著 双葉社 800円 (5%税込) |
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文・読書推進委員 加藤泉
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