『スコーレNo.4』 |
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加藤: |
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2004年、「静かな雨」で文學界新人賞 佳作に入選してデビューなさいましたね。
『スコーレNo.4』を書かれるまでの経緯を教えていただけますか?
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『スコーレNo.4』
光文社:刊
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宮下: |
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「静かな雨」を読んだ角川書店の編集者から依頼を受けて書いたのが「日をつなぐ」(『コイノカオリ』所収)、それを読んだ講談社の編集者から依頼を受けて書いたのが「新しい星」(「エソラ」vol.2掲載)。 最初の一年はその2本だけという非常にゆっくりしたペースでした。 少しずつ依頼が増えてきたところに、非常に熱心な光文社の編集者が現れて、彼女の熱意に押されて書き下ろしたのが『スコーレNo.4』です。
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加藤: |
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この本はTBS「王様のブランチ」で紹介されて話題になったことを記憶していますが、この番組で取り上げられると知った時、どのようなお気持ちでしたか?というか、この番組の存在はご存知でしたか? 関東では有名な番組なのですが…。
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宮下: |
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実は福井では放映されていないので番組自体は知らなかったのですが、件の光文社の編集者がものすごく興奮した様子で電話で知らせてくれて、ああそんなにすごいことなんだ、と身震いしました。 『本の雑誌』で北上次郎さんに褒めていただいたときにも、その幸運に身震いしました。 「本の泉」に取り上げてくださったときにもやはり身震いしましたよ。 身震い続きの単行本デビュー作でした。
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加藤: |
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タイトルの『スコーレNo.4』の意味についてお聞かせ願えますか? また、このタイトルを思いついたきっかけは?
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宮下: |
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スコーレとは「学校」の語源になったギリシア語です。 スコーレNo.4で、4つの学校、あるいは4つめの学校、という意味です。 もともとは家で夫と「レコールNo.41」という名前のワインを飲んでいて、「41番目の学校ってイヤだろうね」と話していたのが始まりです。 No.4くらいまでならゆるせるだろうと。 そのときに、ほんとうに大事なことを教わる4つの学校のことを書こう!と思いつきました。
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加藤: |
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人生には四つの小さなスコーレ(学校)がある、という意味なんですね。 非常に個人的な思い出で恐縮なのですが、『スコーレNo.4』を初めて読んだ頃、自分はとても仕事で行き詰っていました。 でも、就職したばかりの主人公がしなやかに道を切り開いていく第三章を読んでとても救われたんです。 ああ、こういうふうにならないといけないな、と思って。 本を読んで感動することはあっても、「救われた」という思いを抱くことは特別なことで、本当にこの本は私にとって宝物なんです。 それと言うのも、懸命に働く人に対する宮下さんの真摯な思いが『スコーレNo.4』には溢れ出ていたからだと思うのですが…。
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宮下: |
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仕事をすることって、すごく大事なことだと思っています。 私自身は、会社勤めをしていた頃はぜんぜん仕事ができなくて、ほんとうに辛かったんですね。 大事だとわかっているのにできない。 その当時から、仕事のできる人、働き続けている人には敬服しています。
そのぶん、No.3(第三章)を書くときは死力を尽くしました(笑)。 加藤さんのように、実際に悩みながらも仕事を続けている方に「救われた」といっていただけるのが一番うれしいです。
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加藤: |
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「どうしても忘れられないもの、拘わってしまうもの、深く愛してしまうもの、そういうものこそが扉になる」というセリフがとても好きです。
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宮下: |
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どうしても忘れられないものや、拘ってしまうものには、囚われて振りまわされますよね。 マイナスの面もたくさんあると思うんです。 それでも、その人らしさはそこから育っていく。 忘れられないことがたくさんある人は豊かな人だと思います。
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加藤: |
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宮下さんご自身で、思い入れのあるセリフやシーンはありますか?
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宮下: |
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No.1(第一章)に出てくる木月くんが好きでした。 もう一度出てきてほしかったんですが、チャンスがなくて残念に思っています。
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『遠くの声に耳を澄ませて』 |
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加藤: |
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宮下さんの2冊目となる『遠くの声に耳を澄ませて』についてお伺いします。
新潮社の「旅」という雑誌の連載でしたね。
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『遠くの声に耳 を澄ませて』
新潮社:刊 |
宮下: |
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はい。 原稿用紙25枚を一年間連載しました。
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加藤: |
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「旅」がテーマの短編集ですが、旅と言っても実際の旅ではないものも含まれていますね。 たとえば冒頭の「アンデスの声」。 すばらしい短編です。 宮下さんにとって「旅」ってずばり何でしょう?
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宮下: |
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旅… 旅… うーん、旅って何でしょうね。 わからないまま書いてしまいました。 人にはいろんな旅がある、という12編です。
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加藤: |
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登場人物が微妙にリンクしている連作短編集と言ってもいいと思いますが、最初から連作にするおつもりだったのですか?
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宮下: |
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いえ、最初は読み切り短編のつもりで書き始めました。 でも25枚って短いんです。 やっと登場人物が素顔を見せたと思った瞬間にもう終わっている。 書き足りない、この人のことをもっと書きたい、と感じることが多くて、3話目くらいから連作形式を思い立ちました。
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加藤: |
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新潮社さんのお計らいで、この本が刊行される直前に、『スコーレ№4』で宮下さんのファンになった書店員数名による宮下さんを囲む会が開かれました。 私も隅の方で参加させていただいたのですが、実際に宮下さんにお会いしてますますファンになってしまいました。 私たちの質問に首を傾げながら一生懸命に答えてくださる宮下さんが、とても可憐で。 本来なら、作品と作家の人柄は切り離して考えなくてはいけないと、自分はつねづね肝に銘じているのですが、宮下さんに関しては、こういう人を応援するのが私たちの使命なんだと思ってしまいました。 もちろん、作品がすばらしいこともありますが。
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宮下: |
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いや、もう、あのときは感激しました。 私なんかのために集まってくださるそのお気持ちがありがたくて、うれしくて、ほんとうに。 応援してくださる方に応えるためには、いい小説を書いていくしかない、とあのとき強く思いました。
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『よろこびの歌』 |
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加藤: |
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さあ、最新刊『よろこびの歌』について伺ってまいりましょう! 素晴らしい本です。 宮下作品の良さが一番いい形で結実したような1冊です!
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『よろこびの歌』
実業之日本社:刊
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宮下: |
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えっ、そうでしょうか。 うれしいです。 ありがとうございます。
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加藤: |
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音楽的な才能を持つ高校生の女の子と、その周りの女の子たちの成長を描いた連作短編集です。 誰もが持つ劣等感や自己嫌悪の気持ちを、優しく包み込んでくれているように感じました。
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宮下: |
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果たして優しく包み込んでいるのかどうか…。 書いている間は必死で、毎回、どこにたどりつくのかわからずに書いていました。 喉もと過ぎれば何でもすぐに忘れる宮下ですが、今、はっきりと思い出しました。 高校生の一所懸命さを正面から書こうとすると、こちらまで痛かったり、苦しかったり、かなりしんどかったです。
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加藤: |
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本書では「音楽」が重要な役割を担っていますね。 各章のタイトルは、ハイロウズの歌のタイトルを拝借したとか?
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宮下: |
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そうです! ハイロウズが大好きで、タイトルにハイロウズの歌のタイトルを借りるというアイデアを編集者から出された瞬間、「あっ、書きます!」って。 あとはもう、ハイロウズの歌に負けないように、といっても負けないわけがないので、とりあえず足を引っ張らないように、気合いを入れて書きました。
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加藤: |
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宮下作品は「気づきの文学」ですね。 たとえば第一章で、本書のヒロイン御木元玲は「もともと、歌のはじまりはこういうものだったのかもしれない」と気づきます。 第二章では、玲に憧れる千夏が「私には私の、別の道があるんじゃないか」と気づきます。 大きな事件など起きなくても、人は目の前にある日常から大切なものに気づくことができる。 宮下さんの書かれるものを読んでいるとつくづくそう思うことができます。
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宮下: |
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私たちは日常を生きているんですよね。 うちは小さいこどもが3人いて、まさに日常にまみれて生きているんですが、こうやって生きていく以上、そこで気づく、日常で変わる、そういうことの積み重ねなんじゃないかと思います(人生って、と恥ずかしいので小さな声で)。
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