デビュー作 『食堂かたつむり』 |
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加藤: |
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2008年1月に『食堂かたつむり』でデビューなさいましたね?
デビューの経緯についてざっとお話ししていただけますか?
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『食堂かたつむり』
ポプラ社:刊
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小川: |
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あの作品は、ポプラ社小説大賞という、賞金が2,000万円というびっくりする額の文学賞の、その第1回に応募した作品なんです。 選考の途中の段階で落選しましたが…。
でも、作品を読んだ編集者さんの一人が手を上げてくれて、そこからまた二人三脚で作品を作り、構想から含めると10年くらいかけて完成させた作品です。
ただ、初版が4,000部、しかも私は全くの無名で、受賞という冠もなく、本当にゼロからのスタートでした。 そんな作品を、最初の頃から恵比寿の有隣堂さんが大々的に応援してくださって、本当にありがたく思っていました。
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加藤: |
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いえいえ。 正直に申し上げると、こちらとしても発売当初はノーマークだったのですが不気味な売れ方をしていて(笑)、これはいけるんじゃないかと思い、拡販していったんです。 そうしたら、あれよあれよという間に話題になって良かったです。
さて、『食堂かたつむり』はヒロインが故郷に戻り実家の離れで食堂を始める、というお話ですね。
食堂を舞台にしようと思いついたきっかけは?
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小川: |
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私は主婦でもあるので、もっとも身近にある題材を使って物語を描いてみようと思ったんです。
この作品がダメだったら、もう書くのは諦めようと思っていました。
それまで、もうずいぶん長いこと、真っ暗なトンネルの中をさまよっているような状況だったので。
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加藤: |
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『食堂かたつむり』を読んでいると、食べ物に対する敬意というか、食べることは他の生き物の命をいただくことなんだなあとしみじみ思いました。
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小川: |
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私も、日頃台所に立って、素材と向き合ったり、料理を作ったりするのですが、そういう感覚を普通に持っていました。
おそらく、多くの方が、無意識に感じていたことなのではないかと思います。
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加藤: |
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映画化も決まっていて2月に公開されるそうですね。 映画公開にあわせてレシピ本も発売になるとか…。 楽しみです!
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小川: |
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ありがとうございます!
ただ、それぞれ小説とはまた別の作品ととらえています。 小説が映画化されることが私の目標というわけではないので、嬉しく感じつつも冷静に受け止めている感じです。
映画は既に出来上がっていて、初号試写を見せていただいたのですが、とても素敵な作品に仕上がっていました。 ぜひご覧になってみてください!
私自身は、これからも物語を書くことを大切にしていきたいと思っています。
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第二作 『喋々喃々』 |
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加藤: |
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2作目の『喋々喃々』についてお伺いします。
谷中でアンティーク着物店を営むヒロインの恋愛小説ですね。
舞台を谷中に設定されたのは?
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『喋々喃々』
ポプラ社:刊 |
小川: |
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実際の谷中を訪れてみると、とても空気が澄んでいるのを感じるのですが、東京にも、人と人とがほどよい距離感を保ちながら心地よく暮らしている所があるということを、描いてみたいと思ったんです。
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加藤: |
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「恥ずかしながらタイトルの意味を存じ上げなかったのですが、小川さんからご説明していただけますか?
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小川: |
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男女が仲睦まじくしている様子のことを言います。
私の中では、イチャイチャというより、もう少しホンワカしたイメージです。
私自身、男女が寄り添って幸せそうにしている姿を見るのは、その人達が若かろうが年を取っていようが、場合によっては男同士だろうが女同士だろうが、とても幸せな気持ちになります。
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加藤: |
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可愛らしい言葉ですね。
この本を読んで、谷中や千駄木あたりの季節感が印象に残っています。
小川さんにとって特にお気に入りのシーンはありますか?
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小川: |
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イッセイさんと栞が、酉の市に行くシーンあたりは特に好きですね。
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加藤: |
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着物を含め、和の雰囲気が素敵な1冊でした。 装丁もそれを意識されていますね?
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小川: |
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私が直接装丁に関して何かリクエストする、ということはないんです。
装丁は装丁家の方におまかせしています。
『喋々喃々』は、着物のような和菓子のような、本当に楚々とした、ステキな装丁にしていただいたと思っています。
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最新刊 『ファミリーツリー』 |
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加藤: |
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最新刊『ファミリーツリー』についてお話を伺ってまいりましょう。
これまでの2作は若い女性が主人公ですが、今回の主人公は少年ですね。
けっこうびっくりしたのですが。
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『ファミリーツリー』
ポプラ社:刊
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小川: |
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今回は、とにかく「強い」作品が書きたかったというのがあります。
それから、男の子の目から見たリリーや菊さんを、私自身、追体験したいという思いがありました。
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加藤: |
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小川さんの作品はいつもタイトルが素敵ですよね。 『ファミリーツリー』というタイトルに込められた意味をお聞かせ願えますか?
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小川: |
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今回のタイトルは、私ではなく、担当編集者の吉田さんが考えてくれたんです。
直訳すると「家系図」ですが、そのものずばりというよりも、「ファミリー」や「ツリー」という単語から連想される、スケールの大きな、ご先祖様すべてを含んだ「家族の木」をイメージしました。
とてもいいタイトルになったと思っています。
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加藤: |
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先ほど『喋々喃々』で季節感が印象的だったと申し上げましたが、この『ファミリーツリー』も舞台となっている安曇野の季節感が最高の形で描かれていますよね。
安曇野を舞台にしようと思われたきっかけは?
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小川: |
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前作がいつも着物をきている主人公だったこともあり、書いていて、走ってくれたらいいのに、と思うシーンがいくつかあったんです。
だから次の『ファミリーツリー』では、登場人物達が、思い切り走ったり、自転車を乗り回したりできる作品にしたいと思っていました。
そう考えた時に、以前訪れたことのある安曇野という地が浮かびました。
行ったのはだいぶ前でしたが、ハァハァいいながら、坂道を自転車でのぼった記憶があって…。
今回、取材でもたくさん自転車に乗りました。
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加藤: |
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この作品はこれまでとは違った読者層の方も読まれると思います。
その点で、書きながら気を配られたことなどありますか?
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小川: |
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気を配ったこと、ですか。 そうですね、読者の方を思い浮かべてというよりは、主人公が「流星」という男の子なので、書いている間は常に、自分も「流星メガネ」をかけて、流星だったらどう思うのだろう、というのを想像しながら書き進めました。
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