花や散るらん
葉室麟:著
文藝春秋
1,575円 (5%税込)
|
|
|
|
本命・葉室麟 『花や散るらん』(文藝春秋)
|
|
悠木: |
|
葉室麟は前回、前々回に続いて3度目の候補です。 |
|
平尾: |
|
前回(「本の泉」第77回参照)我々は葉室麟を本命に予想して大ハズレだったな、野口。 |
|
野口: |
|
………。
|
|
悠木: |
|
落ち込むなよ、野口。 今回は3人揃って葉室麟を推すんだからさ。 |
|
野口: |
|
ああ、あの時私がユーハイムを贈っていれば! |
|
平尾: |
|
それは関係ないと思うぞ。 ま、今回は版元から考えても順当だな。 |
|
悠木: |
|
『花や散るらん』は第140回で候補になった『いのちなりけり』の続編と言える作品で、主人公の雨宮蔵人と咲弥が忠臣蔵騒動に巻き込まれるという話です。 |
|
平尾: |
|
蔵人の無骨キャラは相変わらず魅力的だけど、なんと言っても今回は吉良上野介像が光ってたな。 |
|
野口: |
|
そうなんですよ! 吉良のためにどれだけ涙を流したか…。 『秋月記』もそうでしたが、葉室さんの作品を読むと、イヤなヤツだと思っていた人物にも同情すべきところがあって、人には添うてみないと分からないってつくづく思うんですよ。 |
|
平尾: |
|
前半ちょっとゴチャゴチャしていて人物関係が掴みづらい、という指摘もあるかもしれんが、そんな批判を覆すような情熱を感じる作品だ。 |
|
悠木: |
|
3回目の候補で受賞した作家は過去に、重松清、石田衣良、京極夏彦など数多くいます。 最近の時代小説では松井今朝子もそうですね。 しかも葉室麟は3回連続の候補ですからね。 受賞の可能性は大いにあるのではないでしょうか。 |
|
野口: |
|
葉室さんが松本清張賞を受賞した時の選考委員でもあった宮部みゆき先生に、是非頑張っていただきたいです! |
球体の蛇
道尾秀介:著
角川書店
1,680円 (5%税込)
|
|
|
|
対抗・道尾秀介 『球体の蛇』(角川書店)
|
|
悠木: |
|
3度目の正直と言えば、この道尾秀介も3回目の候補です。 |
|
平尾: |
|
巧いよな〜。 |
|
野口: |
|
巧いですね〜。 読んでいてかなり暗い気持ちになる作品ですが、リーダビリティと読み終わった後の「ああ、すごい作品を読んでしまった!」という驚きは相当なものです。 |
|
悠木: |
|
いや、正直言って驚きましたよ。 間違いなく、道尾秀介の現時点での最高傑作でしょう。 この作品だったら納得の受賞でしょう。 |
|
野口: |
|
率直に言って、この作品を貶す選考委員がいたら早くその選評を読みたいくらいですね。 |
|
悠木: |
|
この作品を一言で表せば「青春のリグレット」ですね。 あの時ああしていれば…という思いが自分のことのように胸に迫ってきました。 |
|
平尾: |
|
人生とはそういうものだ。 |
|
悠木: |
|
直木賞の選考ではミステリーは不利と言われています。 確かに驚きの展開はあるというものの、この作品はもうミステリーではないですよね。 |
|
平尾: |
|
純文学系の読者にもじゅうぶん通用する作品だな。 |
|
悠木: |
|
余談ではありますが、売る側の目線で言わせていただくと、去年は『悼む人』と『利休にたずねよ』の2作が受賞していますので、道尾秀介くらいの人気作家が受賞してくれないとちょっと困るという思惑もあります。 |
|
平尾: |
|
まあ、ここで商売の話はやめようぜ。 |
|
野口: |
|
前回『鬼の跫音』で候補になった時に大プッシュしていた北方謙三先生に頑張っていただきたいところですね! |
|
|
辻村深月
『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』
(講談社)
|
|
悠木: |
|
辻村深月は初ノミネートです。 |
|
野口: |
|
ああ、辻村さんがノミネートされて本当に嬉しい! 個人的にすごく応援している作家の方です。 |
|
平尾: |
|
どうしてだ? |
|
野口: |
|
私が勤務している店によくご来店してくださるからです。 いえいえ、それだけじゃなくて、この作品自体すごい力作なんですよ。 辻村さんの魂がこもっているのが感じられます。 |
|
悠木: |
|
テーマは「母殺し」ですね。 確かに第二章のリーダビリティは半端ではありません。 角田光代『八日目の蝉』にも匹敵するほどです。 |
|
平尾: |
|
うむ。 このタイトルの意味がわかる場面は何とも言えない気分になったな。 |
|
悠木: |
|
ただ、冒頭がちょっともたつくというか、もう少し整理されても良かったかなという印象は残ります。 |
|
平尾: |
|
この作家はこれからの人だからな。 このノミネートを励みにしてさらにいいものを書いていってほしいものだ。 |
|
野口: |
|
ちょっと、まだ受賞するかどうか分からないじゃないですか。 いずれにしても、この作品は1人でも多くの方に読んでいただきたいです。 特に20代30代の女性の方に。 |