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第95回 2010年4月8日 |
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〜ベテラン女性作家競演!の春〜 | |||||||||
大型新刊が目白押しだった3月末。 その中でも目を引いたのがベテラン女性作家陣の新刊だ。 今回は特に注目したい3冊をご紹介しよう。 |
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まず初めに、姫野カオルコ『リアル・シンデレラ』を。 継母とその娘たちから虐げられていたが、魔法の力のおかげで王子さまと結婚したシンデレラの物語。 本書は、このシンデレラというヒロインは幸せな女性の象徴と本当に言えるのだろうか? という問いから始まり、本当に幸せな人とはこういう人だと描いてみせた、姫野カオルコ久々の長編小説だ。 本書の主人公である倉島泉(せん)は、1950年に長野県諏訪で生まれる。 幼い頃から母親に冷たく扱われ、美しい妹の陰のような存在として育てられる。 年頃になると、家業のために好きでもない男性と結婚し、その夫を愛人に取られ、旅館の女将の座もその女性にあっさりと譲り渡す。 泥だらけになりながら畑仕事をし、ある事件をきっかけに近所の人たちから「痴女」と揶揄されるようになる。 このように紹介してしまうと、不幸な女性の話であるかのように思われるかもしれないが、幸せの何たるかをこれほど体現しているヒロインはそうそういないのである。 それは彼女が、人を妬まず、日々の暮らしを心からエンジョイしているからであり、そして何よりも、「何を願って生きているか」で彼女の幸せは決まっているのである。 ラスト間近でその彼女の「願い」の内容が明かされる時、読者はこのヒロインを愛さずにはいられなくなるはずだ。 自分って幸せなのかな? と、ふと立ち止まって考えてしまう時はおそらくこれからの人生の中でも何度もあると思うが、そのたびにこの本を読み返すだろう。 一生付き合っていける本だ。 |
リアル・シンデレラ 姫野カオルコ:著 光文社 1,785円 (5%税込) |
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次に、江國香織『真昼なのに昏い部屋』
「せめてきちんとした不倫妻になろう」というコピーを目にして、自分には縁のない小説かも…と思う女性の方は多いかもしれないが(かく申す私がそうでした)、それだけで遠ざけてしまうのは少しもったいない1冊。 夫との何となく満たされない日々の中、近所に住むジョーンズさんという外国人と出会い、親しくなっていくヒロインの美弥子。 お互い惹かれていく彼らの恋はどういう結末を迎えるのか…。 不倫小説と言ってしまえばそれまでなのだが、不倫小説というよりも、夫婦小説+恋愛小説と呼ぶほうが合うように感じられるのが本書の不思議なところ。 それはやはり、こうした小説につきまとうドロドロした面を強調していないからだろう。 たとえば、 「互いに相手の物語を、声や言葉と一緒にたっぷりと聞き、不思議なことに自分のなかからも物語が、おさえきれない勢いでとびだしてくる」 「ジョーンズさんといると、一日ずつが新しいということや、世のなかにはいろいろな人がいるということ、色が溢れ音が溢れ匂いが溢れていること、すべて変化するということ、すべての瞬間が唯一無二であること、でも、だからこそ惜しまなくていいこと、などがこわいくらい鮮烈に感じられます」 こういった表現からは、恋愛し始めた頃のただただ瑞々しい感覚だけが感じられ、温かい気持ちになれる。 恋愛小説好きや恋愛真っ最中の方におすすめしたい本だが、恋愛に倦怠気味の方こそ読むべき1冊かもしれない。 |
真昼なのに昏い部屋 江國香織:著 講談社 1,470円 (5%税込) |
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最後に、三浦しをん『天国旅行』を 自殺しようとした男が樹海の中で奇妙な若い男に出会う話や、自殺した男子高校生の死の真相を明らかにしようとする女子高生や、成仏しない彼女の霊につきまとわれる男など、ユーモアのあるものから深刻なテーマまで様々な味わいが愉しめる、「心中」をテーマにした短編集。 生きることと死ぬことの間にはそれほどの違いがあるのだろうか? と思わせる短篇もあれば、生と死の間のどうしようもない隔たりを感じさせるものもある。 どの短編を読んでも考えさせられるのは、人が生きた証とは何かということ。 それは「愛」の一語に尽きるのではないだろうか。 本書を読み終えて、ぼんやりとそう思った。 一編一編読み終えるたびにため息をつきたくなるような、短編小説集の醍醐味を味わわせてくれる見本のような1冊だ。 |
天国旅行 三浦しをん:著 新潮社 1,470円 (5%税込) |
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文・読書推進委員 加藤泉
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