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平成11年7月10日 第380号 P5 |
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目次 | |
P1 P2 P3 | ○座談会 現代読書事情 (1) (2) (3) |
P4 | ○横浜・龍華寺で発見された天平の乾漆像 水野敬三郎 |
P5 | ○人と作品 鈴木明と『新「南京大虐殺」のまぼろし』 藤田昌司 |
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人と作品 |
新しい視点から事件の真相に迫る 鈴木明と『新「南京大虐殺」のまぼろし』 |
中国で出された 資料だけで まとめる 鈴木明氏は二十六年前、『「南京大虐殺」のまぼろし』を書いてセンセーションを巻き起こした。 日中戦争初期の南京攻略戦の際に行われたという日本陸軍による"大虐殺"の謎を追及したノンフィクションで、 大宅壯一賞を受賞したが、賛否の渦も呼び起こした。あれから四半世紀余りを経て、 このほど書下ろされた『新「南京大虐殺」のまぼろし』(飛鳥新社)は、 全く新しい視点からこの事件の真相に迫った作品だ。 〈日本、中国、アメリカという、東アジアだけではなく、 二十一世紀の世界に最も大きな影響を与えるかも知れない重要な三つの国の中で、 いまでも喉もとに突き刺さったままでいるような大きな歴史的課題が、まだ未解決のままである。 いわゆる「南京大虐殺論争」である〉と、鈴木氏は書き出している。「前に書いた時は、まだ自由に中国を歩き回ることなどできない時代だったので、 日本国内で取材して書いたんですが、今度は日本の資料は使わない、日本人には会わない、 中国で出された資料か、中国人に聞いた話だけでまとめてみることに徹したんです」 鈴木氏はこのため、一九八七年(昭和六十二)以来、数度にわたり中国を取材した。 南京の「南京大虐殺記念館」にも足を運んだ。記念館の入口には"300000"という数字が大書されている。 中国人三十万人が虐殺されたというアピールだ。たしかに、「東京裁判」の南京地方法院首席検察官・陳光虞の供述書には、 「被屠殺者タル我同胞、二七九、五八六名」とある。 だが、意外なことに、中国でこの事件のことを知っている人は、ほとんどいないという。 現地で鈴木氏を案内してくれた中国人によると、「300000と書かれているのは"沢山"という意味」。 日本で考える三十万とは違うというのだ。 中国で知識人として知られた王若望氏(現在アメリカに亡命中)に尋ねても「戦時中、 南京大虐殺の話をきいた記憶はない」という意外な返事。 では、だれが南京大虐殺を伝えたのか。 鈴木氏は中国旅行のたびに買い求めたおびただしい文献から中国通のアメリカ人ジャーナリストとして知られたエドガー・スノーに行きつく。 エドガー・スノーといえば、一九三七年に初版が出版された毛沢東との世紀の特ダネインタビュー『中国の赤い星』で有名だ。 スノーは、当時上海にいた宋慶齢(蒋介石夫人宋美齢の姉で、孫文未亡人)の援助によって、 延安の毛沢東に会うことができたことが明らかになっている。 ではなぜ、宋慶齢は近くに住んで親交のあったシンパのアグネス・スメドレー (『偉大なる道−朱徳の生涯』などの著書で知られるアメリカ人女性記者) ではなく、北京にいたスノーに、延安潜入という千載一遇のチャンスを与えたのか。 そしてまた、毛沢東がなぜ、 ソ連でもイギリスでもフランスでもないアメリカという国のジャーナリストを選んだのか。 そのプロセスは冒険小説やミステリーより面白い。 宋慶齢の指示によって実際にスノーに延安入りの手引きをしたのは燕京大学の若い教授 (モスクワ帰りの秘密党員徐冰)だが……。 「この時スノーは、一枚の白い紙と、無雑作に引きちぎられた宋慶齢の名刺の半分を持たされるんです。 白紙はあぶり出しになっている毛沢東あての手紙。 名刺の半分を持って連絡場所のホテルで待っていれば、王という牧師が来ることになっている。 王牧師は残り半分の名刺を持ってくるから、その破れた箇所が合えばホンモノ。 あとはその人に従って行動して下さい・・ということで、インタビューが実現するんです」 この世紀のインタビューが世界に報道された後、中国では抗日戦争のための国共合作が進み、 "アカ嫌い"だったアメリカも中国共産党に理解を示すようになる。 「スノーは毛沢東に利用されたのではないか」というのが、鈴木氏の推理だ。 ところで、"南京大虐殺"の出所は、 『中国の赤い星』で一躍名を上げたスノーの次回作『アジアの戦争』にあることを鈴木氏は突き止める。
スノーは同書で〈日本軍は南京だけで、少なくとも四万二千人を虐殺した〉と書き、 さらに〈いやしくも女である限り、十歳から七十歳までの者は、すべて強姦された〉と書いた。
これが東京裁判の"南京大虐殺"の原本だと鈴木氏はいうのだ。 (藤田昌司)
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