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平成12年5月10日 第390号 P5 |
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目次 | |
P1 | ○「カラス」 高橋千劒破 |
P2 P3 P4 | ○座談会 岡倉天心と近代の日本美術 (1) (2) (3) |
P5 | ○人と作品 押川國秋と『十手人』 藤田昌司 |
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人と作品 |
岡っ引として駆け回る中で成長していく若者を描いた連作小説 押川國秋と『十手人』 |
今年の時代小説大賞受賞作 賞金一千万円、受賞作はテレビ全国ネットで放映という破格の条件で優れた新人を送り出してきた 時代小説大賞(朝日放送・講談社共催)が今年の第十回で打ち切りとなったが、押川國秋氏の『十手人』(じつてにん)(講談社) は、その有終の美を飾るにふさわしい傑作だ。
「僕の造語です。最初、『八丁堀慕情・流刑の女』としていたのですが、編集部の方から、少し通俗ではないかと 言われ、苦しまぎれにつけた題です」 主人公の源七は渋柿長屋に住む若い香具師。お琴という母親は生後間もなく出奔して行方不明、父親も 喧嘩がもとで殺され、天涯孤独だ。源七もつまらぬ喧嘩の末、軽敲(かるたたき)と入墨の刑に処せられた前科者だが、 定町廻り同心佐々木弦一郎に見込まれ、母のお琴を捜し出してもらうことを条件に、その手下になるのだ。 第一章は、小間物問屋に奉公しているお菊という若い女が、盗みの濡れ衣を着せられたのを苦にして 大川に投身自殺を図るが、通りがかった船に助けられ、弦一郎の吟味を受けるという設定。そこで出会った 源七とお菊は、互いに心を通わす仲となる……。 この作品の魅力の第一は、こういった登場人物のイメージが鮮やかに描かれている点だ。悪い噂ばかり 聞こえてくるのに、その母を恋い続ける源七。人使いは荒いが道理も人情も心得た同心の弦一郎、古風だが 純情なお菊、そしてそれらを取り巻く長屋の面々など。 「長年、脚本家をやってきたせいか、描きたくなる人物のイメージがどんどんふくらんでくるんです。この 作品ではお菊という可憐な女に対比させて、お琴という奔放で放埒だが、それでいて純な女を登場させ、 イメージを浮き立たせようとしたわけです」 押川氏は東映脚本課を振り出しに映画・テレビで活躍してきたシナリオライターだ。 「鉄道公安36号」「遠山の金さん」「半七捕物帳」など七百本もの脚本を書いてきた。 「映像の世界にいたせいで、まず造形を考えます。登場人物が画面に出たときの身長とか肉付き、顔、目、鼻、口…」 精緻に描かれている江戸の情景や制度、風俗
この作品の第二の魅力は、ディテールが精緻に描かれていることだ。舞台となっている江戸の町は、
まるで自分の庭のようだ。何種類もの地図と、当時、外国人が撮った江戸の写真を重ね合わせて情景を
作り出したという。
(藤田昌司)
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