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平成14年12月10日 第409号 P5 |
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目次 | |
P1 P2 P3 | ○座談会 戦前・戦後の横浜 (1) (2) (3) |
P4 | ○米屋和吉夫婦の「関所抜け」 金森敦子 |
P5 | ○人と作品 渡辺淳一と『シャトウ ルージュ』 藤田昌司 |
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人と作品 |
男女の性をめぐる前人未踏のテーマの実験的小説 渡辺淳一と『シャトウ ルージュ』 |
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『失楽園』の対局にある男女を描く 『失楽園』から四年半。『シャトウ ルージュ』(文藝春秋)は男女の性をめぐって前人未踏のテーマに分け入った実験的小説である。「『失楽園』は、世間から認知されていないダブル不倫の二人の中年の純愛を描いたわけですが、こんどは理想の夫婦として認知されていながら身も心も離れ離れになっている男女という、『失楽園』とは対局にある二人を描く構想だったわけです」
月子は色白の美人で、聡明で、しかも老舗の製薬会社社長の娘。はた目には理想の妻だ。だが、〈僕〉はそんな月子を愛しながら憎んでいた。セックスをほとんど許してくれないのだ。夫としてこの屈辱には耐えられない。今回のフランス行きもセックスをしないという条件つきだった。パリでレンタカーを借り、フォンテーヌブローの森に来た二人は、午後の陽ざしの中、のんびりと散策を楽しむ。そのとき突然、暴漢が現われて〈僕〉は打ちのめされ、月子は拉致されてしまう。 じつは〈僕〉が友人を通じて秘密結社に依頼した策謀だった。月子は中世の古城シャトウ・ルージュに幽閉され、仮面をかぶった男女から、性のドレサージュ(調教)を受けるのである。「ボルドウの、古いシャトウに泊まったことがありましてね。豪華で怪しげで、ファックスを送りに部屋を出たんですが迷宮の中みたいでした。出入りはハネ橋一つです。ええ、ここがシャトウ・ルージュのモデルです」 月子はシャトウ・ルージュでどんなドレサージュを受けるのか。〈僕〉はそれを一方側からだけ見えるガラス窓を通して観察し、また帰国後はパソコンのサイトにその画像を送信してもらって観察する。そのドレサージュの実態が、この作品の読みどころの一つではあるのだが、それをサワリだけ紹介しては読者の楽しみを侵害することになるのでひかえよう。 ただ、その流れだけを言えば、最初はやさしいマッサージやカレッス(快擦)。徐々に露骨さを増し、〈僕〉はいたたまれなくなり、「やめろ!」「やめろ!」と口走りながら身もだえるほどになる。 女文化の時代になり男らしさを全面に出す時代は終わった
「性的不一致があっても、かつては夫はオレについてこいといって、力ずくでねじ伏せていた。女は子供をつくればそれでいいと考えられていたんですね。しかし、この二、三十年来、女文化の時代になり、それでは女は納得しなくなった。男らしさを全面に出す時代は終わったんです。ジェンダーがぶつかり合い、女文化の時代になった。そういうところから、月子という人物が生まれてきたんです」
(藤田昌司)
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