Web版 有鄰

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有鄰


平成16年1月1日  第434号  P3

○座談会 横浜駅物語
 
(1) (2) (3)
P1 P2 P3  小林 重敬国吉 直行岡田 直篠崎 孝子
○司馬史観と現代 P4 磯貝勝太朗
○人と作品  横山秀夫と『影踏み』 P5  

 座談会

横浜駅物語 (3)
「みなとみらい線」開業にちなんで


(大きな画像はこちら約〜KB)… 左記のような表記がある画像は、クリックすると大きな画像が見られます。
 
  ◇みなとみらい線
     横浜駅と旧都心部をつなぐ
 
 
みなとみらい線Y500系(イメージ)
みなとみらい線Y500系(イメージ)
横浜高速鉄道株式会社提供
 
篠崎

三代目の横浜駅は昭和20年の空襲などを乗り越えて、長く市民に親しまれてきましたが、昭和55年に「ルミネ」の開業で駅舎が建て替えられ、今度は新たにみなとみらい線ができるわけですね。
 

国吉

昭和58年に、「みなとみらい21」の事業が着工されました。あそこにはもともと鉄道ヤードとかいろいろなものがあって、海側には貨物線がたくさん走っていた。三菱重工横浜造船所のドックとか国鉄の貨物駅や操車場がありました。

横浜には、関内周辺に開港以来の都心部があって、一方で、岡田さんが言われたように、戦後めざましく発展したダイヤモンド地下街を始めとして横浜駅周辺に新しい盛り上がりができて、都心部が二つに分かれて発達してくる。すると、二つの都心の間がどうも不思議な空間になってくる。谷間ができてしまうわけです。その谷間をつなぐ新しい業務地の形成をめざして、「みなとみらい」という都心部再整備事業が始まると、水際線が沖に出ていった。そこで、「みなとみらい」の中央部に新しい交通機関が必要となり、いろいろな鉄道ルートが考えられたようです。
 

小林

当初は東神奈川に向かって、横浜線に入るという案もあったんです。
 

国吉

ところが、当時、国鉄の民営化問題の真最中で、こういった検討や交渉は見通しがたたず、一方、渋谷と直結する東横線のほうが有意義だと評価され、有力となっていったようです。
 

篠崎

昭和62年に国鉄が分割民営化され、平成元年に横浜博覧会が終わって、その年に高速鉄道株式会社ができるんですね。
 

小林

結局、東横線相互乗り入れということに決定したんです。
 


    横浜駅はJR線を支えたままで地下を掘る難工事
 
国吉

みなとみらい線は今年2月1日に開業しますが、全長が4.1キロメートルです。駅は5つで、みなとみらいの中央地区の中に2つ、新高島駅とみなとみらい駅。それと関内地区に馬車道駅、日本大通り駅、元町・中華街駅の3つの駅ができます。

横浜駅周辺は、非常に難工事でした。東横線が潜ってきて地下で相互乗り入れするわけですから、JRの線路を支えたまま地下を掘っていくんです。それだけでもすごい記録になると思います。
 

小林

JRが走っている線路と平行に掘るから、地上と地下が全部ダブッてくる。そこをすこしずつ工事していくわけです。
 

横浜駅のホーム下で進む
横浜駅のホーム下で進む
東西自由通路の工事
横浜高速鉄道株式会社提供
(大きな画像はこちら約101KB)
 
 

これだけ近接した難しい鉄道工事をオペレートできる人は、日本で数人しかいないんです。その方が横浜に来ているために、ほかのそういう事業が滞っているというぐらいの人材が指揮したんです。
 


    地下の駅を地上の街が感じられる個性的なスタイルに
 
篠崎

国吉さんは駅やコンコースのデザインをコーディネートされたんですね。
 

国吉
馬車道駅の旧横浜銀行本店のレリーフ(中村順平作)
馬車道駅の旧横浜銀行本店の
レリーフ(中村順平作)(大きな画像はこちら約93KB)
 

当初、みなとみらい会社の社長を、高木文雄さん(元国鉄総裁)が長い間やっていらして、せっかくつくるんだから魅力的な鉄道にしようじゃないかということで、スタッフの方々が私のところに相談に来られました。

普通ですと同じシステムで駅のスタイルをつくって、色だけ少しずつ変えるとか、そういうことはよくやるんですけれど、地元の方々も参加した委員会を開いて、議論していったわけです。その中で、駅ごとに地上の街が感じられるような駅にしようということになったんです。

建築家に主要な幾つかの駅を設計してもらおうということで、伊東豊雄さんには元町・中華街駅、内藤廣さんには馬車道駅、早川邦彦さんにはみなとみらい駅をお願いしました。それから日本大通り駅は鉄道建設が設計する。後に追加された新高島駅はUG都市建築が設計しました。
 


    元町・中華街駅は震災前の街並みを壁面に転写
 
国吉

みなとみらい駅は現代的なものを目指したので、パリのポンピドーセンターのようにカラフルなパイプが見えるモダンな感じです。

馬車道駅は煉瓦のある馬車道を意識して、内装は、基本的に本物の煉瓦を積んでいます。地上にあった旧横浜銀行本店の金庫の扉とか、一階営業室の大きな壁画など、地域の歴史的なものが壁面に使われています。
 

小林

旧横浜銀行本店の壁画は、横浜国大建築学科の初代教授をつとめた中村順平先生の作品です。
 

国吉
元町・中華街駅と壁画
元町・中華街駅と壁画
横浜高速鉄道株式会社提供
(大きな画像はこちら約90KB)
 

馬車道駅は大きいドーム状の天井の大空間がありまして、そこでいろんなことができるんじゃないかなと思っています。

元町・中華街駅は、横浜開港資料館からお借りした震災前の横浜の街並みの写真を壁面に転写しています。横浜の「もののはじめ」とか、活躍した外国人とか、エピソードを伝える写真もあって、横浜開港資料館分館みたいな雰囲気で楽しめると思います。

横浜駅では、東西の発展をさらに活発にする仕掛けとして、中央の東西自由通路に加えて、もう二つ自由通路をつくりまして、さらに線路に沿って南北に、自由通路どうしを地下でつなぎます。
 

小林

地下で全体がうまくネットワークできるんです。
 


    駅に必要なのはシンボル性と市民に便利な多機能性
 
篠崎

小林先生はご専門のお立場から、駅についていろいろお考えをお持ちだそうですね。
 

小林

私は、駅にはシンボル性があると思うんです。ところが今、地上駅にそれがない。横浜駅も、両側が駅ビルで、地下鉄ができて地下の空間が非常に立派になりますけれども、駅としてのシンボル性がなくなってきているような気がするんです。

例えばヨーロッパの駅の多くは立派ですね。東京駅の赤煉瓦にもシンボル性がある。横浜は、かつては二代目横浜駅のようなシンボリックな建物が駅空間としてあったのに今はなくなってしまった。それがちょっと残念だなという思いがあるんです。

もう一つは、駅はいろんな機能が入っていたほうが楽しいんです。最近、かなり多機能化してきている面もあるようですけれど、まだまだ規制があります。その中で駅空間をどう使うかという議論も、必要ではないかと思います。結果としての多機能じゃなくて、意図的に多機能な駅空間をつくっていく必要があると思います。
 


    駅と周辺をつなぐネットワークづくりがこれからの課題
 
小林

昔の駅は、場末につくられて、周辺の町とは余りコンタクトのない孤立した場所だったんだろうと思いますが、今は町の中心になっている場合も多いので、駅空間とその周辺地域がどういう関係にあるのか、そこをどうつなげるかということも考える必要があると思うんです。

10年ぐらい前、地下も含めて横浜駅から延びている空間がどういう関係になっているか、かなり詳細に調べたんですが、それぞれの管理主体がばらばらで、必ずしもうまく調整がとれていない。歩く空間も、それぞれ違うレベルでつくられていて、バリアフリーの面でも問題を抱えています。今度の自由通路では、かなり改善されるんですね。
 

国吉

バリアフリーは交通施設としては絶対条件になっていまして、みなとみらい線はその辺はきちんとやっております。

自由通路は、基本的に通路ですから、道路と同じというのが今までの考え方です。モノを置いてはいけないとか、お店をつくってはいけないというのが普通なんですが、通行に支障がない範囲で、少し楽しくしてもいいんじゃないかとか、公的空間だけれども、別の魅力的な使い方とか、収益を上げる使い方とかも検討していこうという流れは出てきています。

それと、今後の議論となるでしょうが、廃止された東横線の跡地利用について、自転車とか歩行者の通路にできないかというプロムナード化へのアイデアもあります。
 

篠崎

桜木町駅から横浜駅への高架のところですね。
 

国吉

うまくできれば、まさに、初代の横浜駅から二代目、三代目横浜駅をつなぐプロムナードになりますので、その中に、駅の歴史もわかるような仕掛けもできるのではないかと思っております。
 

 
  ◇路面電車から地下鉄まで
      横浜の都市鉄道の
       歴史にスポットを
 
 
「みなとみらい線」路線図
「みなとみらい線」路線図
横浜高速鉄道株式会社提供 (大きな画像はこちら約176KB)
 
岡田

今回の「横浜地下鉄物語」という企画展示は、横浜開港資料館と横浜都市発展記念館の共催で行いますが、絵はがきや古写真を並べるだけではなく、横浜の地下鉄の歴史、都市鉄道の歴史にも踏み込んでみましょうというのが趣旨です。
 

  

地下鉄というのは、もとをたどっていくと路面電車なんです。路面電車が進化して地下鉄になっていくわけです。そこで、「それは路面電車からはじまった…」というサブタイトルにしました。横浜電気鉄道から横浜市電、それから郊外電車も取り入れて、横浜市営地下鉄、みなとみらい線に至る歴史を見ていただけるような展示を、1月24日から開催いたします。
 


    路面電車が発達した町は都市全体が元気
 
岡田

私は、都市と鉄道の関係に興味を持っているんですが、横浜は典型的な駅中心型の都市構造なんです。地価を指標にして日本の都市の中心と駅との関係を見ますと、7割は、大体駅から500メートル以内に最高地価地点、つまり都市の中心があるんですが、横浜のような人口100万を超える大都市で駅の周りにそれがあるところは極めて少ないんです。しかも駅前の地価が飛び抜けて高い。

例えば東京では、鉄道のターミナル新宿に最大の繁華街がありますけれども、銀座のほうに、もう一つの極がありますね。大阪も、ターミナルは梅田ですが、ミナミのほうにも極がある。名古屋では、名古屋駅のツインタワーに人が集まるようになっていますが、繁華街としては栄のほうがまだ賑わっている。京都も駅ビルができましたけれど、中心部は四条河原町で昔と変わらない。

駅前よりも古くからの中心部が強い都市をよく見てみますと、典型的なのは広島ですが、路面電車が非常に発達している。長崎、熊本、函館も同じで、路面電車が活躍している都市は、にぎわいの中心が駅に集中することがなくて都市全体が元気だなと感じるんです。

横浜の場合、みなとみらい線ができて、路面電車のような役割を果たしてくれるか否かということを考えているんです。もしそれができれば、また関内地区が活性化していくのじゃないか。
 

小林

同時にこれからの課題は、みなとみらい21と横浜駅、あるいは新たにできる新高島駅との関係をどうネットワーク化していくか。実際にどういうつながりができて、人々がどう流れるのかは、開けてみないと分からない部分がありますが、横浜駅との関係で大変面白いですね。
 

篠崎

ありがとうございました。
 




 
小林 重敬 (こばやし しげのり)
1942年東京生れ。
編著『協議型まちづくり』 学芸出版社 3,675円(5%税込) ほか。
 
国吉 直行 (くによし なおゆき)
1945年中国天津生れ。
共著『岩波講座 自治体の構想 5 自治』 岩波書店 2,940円(5%税込) ほか。
 
岡田 直 (おかだ なおし)
1967年滋賀県生れ。
共編著『鉄道「歴史・地理」なるほど探検ガイド』 PHP研究所 1,470円(5%税込) ほか。
 
 
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